第12話 何事も演出が大切

 仮想空間に移動した僕とフューリー。

 フューリーは辺りをキョロキョロと見回し警戒しているようだ。


「ティム……ここは?」

「僕の仮想空間の中だよ」

「……か、仮想空間の中? というより仮想空間内に入れるものなんですか?」

「前に僕の仮想空間は特別だって言っただろ」

「……特別って、こういう事だったんですね」


 まあコーディネーターが色々やってくれたから、本来仮想空間内に入れるものなのかは、分からないけどね。

 ……ていうかコーディネーターの姿が見えない、いつもなら直ぐに出迎えてくれるのに。


『何事も演出が大切ですからね』

『えっ、演出?』


 コーディネーターがそう言うと、仮想空間が突然暗転し、僕達の前に一条の光が射しこむ。

 そして、上空から光の粒子を纏い優雅にコーディネーターが登場した。


 な……なんの演出だよ。

 ていうか、仮想空間内でこんなことが出来るんだ!


 でも、その効果は覿面てきめんだったようで、フューリーは即座にコーディネーターに跪いた。


「……女神コーディア様お久ぶりにごさいます」


 そしてフューリーはコーディネーターを女神コーディア様と勘違いしてしまう。

 やっぱりコーディネーターとコーディア様って似てるんだ。ていうか久しぶりってフューリーってコーディア様に会った事があるの?


「久しぶりですね、聖女フューリー」


 うん?

 久しぶりって、コーディネーター……フューリーと会ったことがあるの?


『ブラフですよブラフ』

『ブラフ?』

『聖女なら神託や天啓で女神に会うとこもあるでしょうからね』

 なるほど……そういうものなのか。


『まあ、私にお任せください』

『う……うん』


 ……任せてくれということなので、取り敢えず僕は、2人の会話を見守る事にした。


「ところで、何故コーディア様がこのようなところに?」


 フューリーが質問するとコーディネーターは優しく微笑み、僕達の前まで歩みを進めた。


「この者を私の使徒として、力を与えているからです」

 そして僕をぎゅーっと抱き寄せた。

「なっ!?」


 そして僕はコーディネータの胸に顔を埋める形になった。


「ティ……ティムが、コーディア様の使徒? そしての御力をティムに?」

「はい」

「とういうことは、ティムの規格外の力はコーディア様がお授けになられたものでしょうか?」

「はい」

「飛行魔法も?」

「はい」

「私の知らない聖属性魔法も?」

「はい」

「底の知れない馬鹿みたいな魔力も?」

「はい」


 この後も事細かにフューリーの質問攻めが続いた。


「そうですか……かなりの力を御与えになられたのですね」

「はい、私の使徒として相応しい力を与えたつもりです」 

「なるほど……もうひとつ疑問がございます」

「なんでしょうか?」

「……何故ティムなのでしょうか?」

「あら? それは貴女が望んだことですよ? お忘れになりましたか?」

「え……私が?」

「まあ、無理もありませんね。あの時は貴女も大変でしたから」


 え……どういうことだ?

 フューリーが望んだ?

 ていうか、コーディネーターって本当に女神コーディア様なの?

 それともこれもブラフ?


 コーディネーターの胸に顔を埋めながらそんな事を考えていた。

 ていうか僕はどうしたらいいんだろう。

 このままでいいのだろうか。


「まあ、そういうわけなので、貴女はティムを信じて行動を共にしてください」

 

 そしてコーディネーターが強引に話をまとめた。


「……わかりました……でも」


 でも?


「……何故コーディア様はティムを抱きしめられているのでしょうか」


 うん……それはそうだよね。


「他意はありませんが……私の彼に対する親密度だと受け取ってもらって結構です」

 結構雑に答えた。


「親密度……ですか」

「はい、親密度です」


 そしてコーディネーターは更にぎゅーっと僕を抱きしめた。


「羨ましいですか?」

「……え」


 コーディネーターがお門違いな質問をフューリーに投げかけた。


「べ……べ、べ、べ、別に羨ましくは……」


 何故か取り乱すフューリー。


「貴女も素直になった方がいいですよ」


 そういうとコーディネーターは僕を離した。

 素直になった方がいいって……コーディネーターはフューリーが僕の事を振ったのを知っているくせに。


「2人の進む道に幸多からん事を祈ってます」

 なんてもっともらしい言葉を残して、コーディネーターは登場シーンと同じような演出で去っていった。


 なんだろう。

 これでよかったのだろうか。


「……ティム」

「うん?」

「何故今まで黙っていたのですか!? コーディア様の使徒だなんて凄いじゃないですか! だから色々と規格外なのですね! だから色んな魔法が使えるのですね! やっと納得がいきました!」


 やたらと目を輝かせるフューリー。

 僕の思った解決方法じゃなかったけど、フューリーは納得してくれたようだ。


「ティムのもう一つのスキルは使徒だったのですね!」


 大きくは間違っていないけど……まあ、その方が理解しやすくていいのかな。


『その女の事を信用していないわけではありませんが、理由もなく力を持っているというよりも、女神コーディアの使徒だらか力を持っているの方が、好意的に受け止められるものです』

『なるほど』


 それは確かにね……フューリーの態度を見れば一目瞭然だ。

 

 ていうか……僕の力は規格外だったのか。


『そんなことはありませんよ。いちスキルである私に勝てませんし、ロキの戯れにも全力を出して耐えるのがやっとでしたよね?』

『……そうだよね』

『自分を特別だなんて思うのは雑魚の証明です。100万年早いですよ』


 そうだよね。

 慢心しないようにしないと。


「ではティム、参りましょうか」


 あ、そうだった。

 外にはアンデッドの大軍が待っているんだった。


「じゃぁ、行くよフューリー」

「はい!」


 フューリーは吹っ切れたのか、いい表情をしている。

 コーディネータに任せて正解だった。

 まあ、酔いが治まっただけかもしれないけど。


 ◇


 仮想空間から出た僕はまず、上空に移動し、全体の戦況を確認することにした。


 騎士団が横陣おうじんで敵を食い止め、後方から魔法師団が支援する形で部隊が展開している。


 アンデッドの軍勢はまだ城壁にも辿り着けていない。さすが王都の精鋭だ。


 ただ、思ったよりもアンデッドが組織戦をしているのは指揮官にあたるアンデッドがいるからか。

 鎧騎馬のスケルトンがその役割を果たしているようだ。


 そして横陣の中で突出している部隊があった。

 あれは危いんじゃないか?

 分断されたら囲まれでしまうぞ。

 そしてその後方に天幕のある本陣らしき立派な陣があった。


「フューリー、あそこに見える陣に向かうよ」

「はい」

 フューリーの了解も得たところで、その陣に向かうとガイゼル将軍がいた。本陣で間違いなさそうだ。

 よし、合流させてもらおう。


「ガイゼル将軍」

「うおっ!」


 いきなり上空から現れたもんだから、ガイゼル将軍は驚いて尻餅をついて倒れてしまった。


「驚かせてしまってすみません。ティムです」

「おーっ! 賢者様でございますか!」

 相変わらず大きな声だ。


「ガイゼル将軍、紹介します。彼女は、パーティーメンバーのフューリー、聖属性スキル持ちなので、力になれると思い、2人で加勢に馳せ参じました」

「おーっ! では彼女が噂の聖女様ですな! 心強い限りです」

 フューリーの噂は王都にまで広まっているのか。

 流石だな。


「微力ながら協力させていただきます」


 僕たちは軽く挨拶を交わした。


「ところで賢者様……空を飛んでこられたように見受けられましたが……」

「飛んできました」


 しばらく絶句していたガイゼル将軍だったが。


「……さ、さようでございますか」

 今日はこの間のように大袈裟に驚かなかった。

 まあ、防衛戦中だしね。


「戦況はどんな感じですか?」

「……今の所、戦線は維持できておりますが、奴ら、倒しても倒しても数が減らなくて」


 ふむ。

 アークリッチが召喚を続けているってことか。

 もしかして、前方の部隊が突出してるのって、アークリッチの居場所を掴んで攻撃に向かってるからかな?


「前方の部隊が突出していたのは、アークリッチの居場所を掴んだからですか?」

「へ……アークリッチ?」


 うん? アークリッチが召喚してるって知らなかったの。

 丁度そのタイミングで本陣に伝令がやってきた。


「申し上げます! リーシャ様の部隊が敵陣深くまで進攻し、陣形の維持が困難になっております!」

「な……なにぃ! 何故止めなかった!」

「お止めいたしましたが、聞き入れてもらえず」


 どうやら前方の部隊が突出していたのは指揮官の独断先行だったようだ。


「陣形に穴があくと一気に、崩されるぞ……応援部隊を差し向け、リーシャ様を連れ戻すのだ!」

「ハッ!」


 確かにあの数のアンデッド……指揮官もいたし……陣形に穴があくと一気に崩されそうだ。


「ガイゼル将軍、僕たちも行きます。フューリーもいいよね?」

「もちろんです」


 僕を戦いに巻き込みたくないと早馬を飛ばしてきたガイゼル将軍だったけど。


「賢者様……かたじけない! お願いいたします!」


 僕たちの参戦を認めた。

 背に腹は代えられないのだろう。


「フューリーは魔法師団に合流してもらえる? 僕は先行している部隊に直接合流するから」

「分かりました。コーディア様の使徒のティムなら大丈夫でしょうけど……気をつけて下さいね」

「ありがとう、フューリーも気をつけてね」


 フューリーと別れて再び僕は空から戦況を確認すると、先行している部隊が分断されつつあった。

 まずいな。

 混戦になって魔法師団も魔法を使えないでいる。

 とりあえず先行部隊に合流して退路を切り開く手伝いをするか。

 なんて思っていると。


 敵味方入り混じる戦場に聖なる光が雨のように降り注ぎ、アンデッド達が苦しみはじめる。

 これは聖属性魔法の大魔法ホーリーレインだ。

 さすがフューリー。

 これなら敵味方入り混じる戦場でも味方に被害を与えずアンデッドにだけダメージを与えることができる。


 騎士団はこのチャンスを逃さず、横陣全体を押し上げ、先行していた部隊と合流した。

 

 しかし、更に前方に白銀に輝く甲冑を纏った騎士と一個小隊が取り残されていた。

 白銀の騎士はアンデッドの指揮官的役割をしている複数の鎧騎馬のスケルトンと対峙していた。

 もしかしてあの白銀の騎士が先行していた部隊の指揮官だろうか。


 僕は一個小隊の救出に向かった。

 丁度そのタイミングで白銀の騎士の乗馬が、鎧騎馬スケルトンに攻撃され、白銀の騎士は落馬してしまった。


 鎧騎馬スケルトンが無防備な白銀の騎士に馬上から槍を突き出すも、その槍が白銀の騎士を貫くことはなかった。


 僕が何とか間に合い、奴の槍を叩き切ったからだ。

 

 とは言え、四方を敵に囲まれピンチは続く、まずは数を減らさないとな。


 僕はホーリーレイを横なぎに放った。

 すると、僕を中心に扇状にアンデッドが消滅した。



「…………」



 静まり返る戦場。


「「「ウワァァァァァァァァァァッ!」」」

そして遅れて沸き起こる歓声。


「何だ今の? アンデッド達が消滅したぞ?」

「王都で噂の使徒様が現れたのか?」

「チャンスだ! このまま一気に殲滅するぞ!」


 王国軍の士気が爆上がりだ。


 しかし、これには自分でも驚いた。

 せいぜい周囲の敵を殲滅させれるぐらいだろうと思っていたのに、ホーリーレイの貫通性が思ったより高く、今の攻撃で大半のアンデッドが消滅してしまったからだ。


 ちょっと冷静になろう。


 取り敢えず。

「大丈夫ですか?」


 落馬し、倒れたままだった白銀の騎士に手を差し伸べた。


「は……はひ」

 白銀の騎士は噛みながらも僕の手を取った。

 ていうかこの声、女性?


 そのまま引っ張り起こすと、白銀の騎士は僕に寄りかかり、その身を預けた。安心して力が抜けてしまったのかな?


 そうこうしている間に、戦線が押し上がり、取り残されていた部隊は無事後続部隊と合流した。


 残敵数もかなり少ないだろうし、何とかなったかな? と思っていると急に空が暗くなり、禍々しい魔力が戦場に立ち込める。


 そして……再びアンデッドの大軍が召喚された。

 さっきより数は少なそうだけど……この召喚が王国軍に与える精神的ダメージは大きいだろう。


 やっぱりアークリッチを何とかしないと、この戦いは終わらない。


 僕は索敵魔法でアークリッチの魔力反応を探した。

 すると、強大な魔力反応と僕の座標が重なっていた。

 それは……つまり。


「上かっ!」


 上空でアークリッチが魔法を放つ態勢に入っていた。

 何で、気付けなかったんだ!?

 

「失礼します!」

「えっ!?」


とりあえず僕は白銀の騎士を抱きかかえ、上空に回避し、アークリッチと対峙した。


 なんか……このシチュエーション多い気がする。

 でも、仮に白銀の騎士が女性だったとしてもフューリーの時のような失態はしない。

 何故なら、白銀の騎士の胸は鎧に覆われているからだ。


「…………」


 こんな時に僕は何を考えているんだ。

 そしてアークリッチとの戦いが始まる。

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外れスキルで無能扱いされてパーティーを追放されたけど……実は最強を通りこして超ぶっ壊れスキル持ちだったみたいです。 逢坂こひる @minaiosaka

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