三つの区画 side ツキ

 カンカンと照る太陽に目を細める。

 出掛ける準備を終えて、成哉へ夕方に帰ると告げたオレは家を出て駅に向かっていた。


 季節は夏に入る少し前。ムワッとした生暖かい風に眉を顰めて、人の多さにも少しうんざりする。


 派強はきょう伊坂いさか東西とうざい

 先人達が壁を造り、エネミーと呼ばれる謎の生命体と戦う為、壁の向こう側へ赴いたのはもう千年も昔の話だ。

 その時、壁の向こう側へ行かなかった人々によって作られたのが今も残る、この三つの区画だ。


 今は三つの区画の中にいくつも小さな町があって、それぞれのコミュニティを築いているけれど、基本「派強生まれ」だとか「東西育ち」だとかで大きく分けられるから、細かい所まで他人に教える事は無い。

 それに三つの区画はそれぞれがそれぞれの個性や特質を大事にして大きくなっていったらしく、性格や性質が分かりやすく、言われずとも「ああ、コイツはここの出身か」と見分けられる。


 派強は負けず嫌いで好戦的だが、他人の気持ちを推し量る事が苦手で、空回りするタイプだ。

 伊坂は頭の回転が早く冷静に物事を考えられるが、細かい事が気になる資質らしく、神経質になってしまうタイプだ。

 東西は器が大きく多少の事には動じないが、周りに気を遣い過ぎる為、損な役回りをする事が多いタイプだ。


 まあ簡単な話、派強は脳筋で、伊坂はガリ勉で、東西はお人好しってコトだ。


 三つの区画で一番栄えているのは派強だ。色々諸説はあるらしいが、派強区画が出来上がってから、伊坂と東西が出来たとか何とか。

 だけれど、この人の多さはやっぱり鬱々とするな…。だがグズグズしていては、いつまでも暑いままだ。

 さっさと駅に向かってしまおうと人の間を縫いながら足を早めた時だった。


―ピコンッ―


 電子音が響いて、目の前に電子画面が現れる。

 受話器のマークがふるふる震えながら通話を知らせた。


 げ、噂をすれば。

 かなり早めに出てきたハズなんだけどな…。まあいいや。


 電子画面からにゅるりとイヤホンが出てきて、それを耳に嵌めてから受話器のマークをタップした。


《おい、月。お前早めに来いってメッセージ送ったろ》


「はあ? そんなメッセ確認してねぇよ」


《あ? 確かに送っとけってエドリーに、…チッ、アイツまたトンズラこきやがったな…》


 通話の向こうで舌打ちをするのは、オレが約束している相手だ。せっかちで賢い、生粋の伊坂育ちだけれど信用は出来る人。


「はは、サボるのが上手な部下だこと。…つーか、早めにって何で? 何かあったのか?」


《一週間前とは事情が違うんでな。…まあいい。もう出てンだろ。こっちで説明する》


「はいよ。……いつもありがとな、弥七やしちさん」


《何だいきなり、気持ち悪ィ! いいから早く来いよ》


「はーい」


 突然お礼を言ったオレを辛辣に拒否する彼に笑って通話を切れば、イヤホンもオレの耳から外れ、電子画面の中に消えていく。

 …きっと今日が最後だから、お礼を言ったのに。相変わらずサバサバしてるな、弥七さん。

 まあ、それが彼の良いところでもあったりするんだけど。


 さて。催促の通話も貰った事だし、ちょっと急ぐかな。

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