理由 side ツキ
食卓についたオレと同時に置かれた、フルーツティー。今日はマスカットの香りがする。オレが去年辺りに、気に入ったと言ってから妙に拘っているようだ。
成哉はこういう事に関して…というより、オレ達の世話に関して、恐らくここ三年ほど顔を見ていない母親より妥協は無い。
「月様、本日のお食事の予定は?」
「……、昼は要らない。夜だけでいい」
「畏まりました、月様」
手を合わせて心の中で頂きますを言ってから、箸を取る。
今日はスパムエッグとコーンスープに、チョコチップ入りのクロワッサンだ。…悔しいけれど、本当に美味しい。
料理の腕と家事全般の完璧さだけを評価するならば、大金をはたいてでも買いたい家政夫なんだが。…実際は鬱陶しさと不気味さでマイナス点が大きすぎてプラマイゼロなんだよな…。
「月様」
「……何」
「…、以前からお話していた、
「予定に変更は無い。そのまま進めろ」
「ですが、」
「オレが良いって言ってんだ。多少の
「…畏まりました」
わざわざこちらへ頭を下げる成哉を一瞥してからクロワッサンを頬張る。基本、成哉はオレ第一に動くようで、母親から何か指示があっても、それがオレの不利になるようならば遠慮なく無視をする。
学舎の編入に関しても、母親は派強学院ではなく、
伊坂学院は母の母校らしいのだが、オレとしてはイマイチそそられないのだ。そもそも受けたい学科が無い。家から遠い。それ以外にも理由はあるけれど、この二点が大きな理由だ。
三年前に
「あの人が送ってきた、伊坂の資料。シュレッダーにかけるなり燃やすなりして処分しといてくれ」
「…宜しいので?」
「行きもしない学院の資料なんぞ置いておいたって、ゴミになるだけだ。
「畏まりました、月様」
それに、派強には……。……アイツが居る。
きっとそれが、一番大きな理由だ。
思わず頬が緩んだオレは、目の前の成哉にそれを悟られぬように慌ててコーンスープを飲む。胃にたまる温かい空気にホッと息を漏らしてから、手を合わせて食事を終えて席を立つ。
後ろで成哉が皿を片付け始めた気配がしたが、それを気にすることなく、オレは部屋に戻って出掛ける準備を始めるのだった。
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