個にして群である『僕』の持つ〝感情〟

 人工知能である『僕』と、その開発者であった『あなた』のお話。

 SFです。年老いた生みの親の介護をする『僕』の物語、というミニマムな構成を主軸にしながら、でも国や戦争などの大きな状況のお話でもある作品。
 詳細な世界設定とその描写の丁寧さ、そしてそれを語る『僕』の淡々とした語り口が魅力的です。

 ネタバレになっちゃうので詳しくは触れませんけど、やっぱり好きなのは終盤の展開。
 いろいろ大きく動くいわば「盛り上がりどころ」なのですけれど、それを綴る『僕』のどこか無機質な手触りにワクワクさせられました。

 大状況としての世界そのものの変遷、そのSFらしい魅力もさることながら、自ら語ることのない『あなた』の胸の裡を気にさせられるところも素敵な作品でした。