蒼炎祭

 生徒会室。


 我々は何故、此処にいるのか。

 現在、崩壊した校内の利用は禁じられており、授業も仮設教室にて行われているらしい。


 俺が守ったとされている、生徒会室。此処は見事に残っている。


 そうして本題に戻る。


 我々は何故、此処にいるのか。



「域隊長が大怪我を負った原因、アイツだったんだ....」

「まぁ、納得だぁな。十階までワンジャンプで来た上に、刃物は抜いていないと来た。人間界のバグだァ....」



 鬱陶しい喋り方が元に戻っている。


 安心と苛立ちを同時に提供してくれる話し方だと、再度安堵から繰り返した。



「にしても.....」



 にしても、史上最強を前にして生き残った域隊長も凄いが、一級愛呪をたった一人で解体したって...... あの男、本当に何者なんだ.....



「にしても?.... 何だぁ?」

「いや..... アタシらが追ってた、エヴォルオン・ハートって男、思ったよりヤバい奴なんだなって....」



 そう、少し恐ろしい。


 空き地で会った時のヤツは、少なくとも他人を助ける程度の良心を持ち合わせていた。だからこそ、奴がどの様にして、異狂人を殺ったのか。


 それが、気になって、仕方が無い。



「俺らが此処に来た理由は――」

「――分かってる。ちょっと傷心に浸ってみただけ...」



 これは左遷じゃない。そんな事は分かっている。神奈川・東京の県境に派兵されただけ。そして、都立蒼瀬がその県境に建っていただけ。


 それだけの話。


 否、この国で派兵はしないのだったな。



 また、青春を楽しめ的な、余計なお世話的な、そんな意図達。


 それらも感じる。


 実に余計なお世話だ。



「にしても、あの男の言葉を、あれ程までに簡単に信じるとはな」

「あぁ。私も、そこが妙に引っ掛かる」



――次は東と南からだってなァ....



 翌日、神奈川・東京の県境、東京湾岸に複数の解体部隊が送られた。


 あの男の言葉に、どれ程の信頼性があるのだろうか。



 あの男は、一体何者だ。 



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「目標の高等教育機関はアレかいな。」

「蒼瀬!! 守るべき青春がそこにある!!」

「高橋隊長、ウルサイです。」



 三者は蒼瀬に向かっていた。


 神奈川から来る、脅威を退けるために。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「一級殺しのファンタスティックボーイが湾岸に来るそうじゃないか!」

「一緒に戦えるとは、中々楽しみです」

「誰が来ようと関係は無い。我々が愛呪を殲滅すれば良いだけの話」



 三者は東京湾岸に向かっていた。


 海から来る、脅威を退けるために。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「またお前がパートナーなのかよ」

「あ!! 何ですか!? 嫌なんですか!?」

「嫌なんて言ってないだろ...」



 そんなガチで拗ねる様な話じゃないだろ....



「....刃人にはジョークが通じないと.....」

「差別だな。訴えよう。」



 姉様、それだけはご勘弁ください。


 そうして黙って地に伏した。



「行くぞ。目標はもっと海沿いだ。」

「海の中から愛呪が湧いて出て来るとか?」

「あぁ。聞いてる想定ではそういう事になってるぞ」



 そういう事になってんのかよ。


 東京湾岸が戦場にねぇ... 恐ろしいご時世だこと。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 野外仮設教室。



「可美に雨音!! 久しぶりだなぁ!!」

「文化祭は劇をやる事になったぞ!!」

「歩ちゃん髪切ったでしょ!! 似合うね!!」



 久しく会ったクラスメイト達からの手厚い歓迎。それらが妙に過干渉であると思えてしまった。

 恋九メンバーが普段から非干渉過ぎるからだろうか。


 てか、



「髪切ってないし、劇って何すんのよ私達」

「シンデレラ! 余ってる役は、シンデレラ役とガラスの靴履かせる王子役だよ」

「おい待て。ガラスの靴履かせる王子役は王子役と統一するべきだろ」



 いやそこじゃない。待て待て待て待て。


 なんか役固定になってないかコレ。



「どっちもやらないぞ....」

「えーダメだよ。だって――」

「――では私がシンデレラ役をやろう」



 教室の引き戸が開いた。


 柊燕。



「だ、誰だ....」

「柊燕。恋二の恋愛解体師だ。」

「柊ィ! 懐かしのトォモよ!!」



 え。コイツと知り合いなのか貴様。



「柊隊員! いきなり走り出してはイカンではないかぁ!」

「ったく... 少しは年寄りをいたわれい」



 となるとコイツらは恋二かッ....



「ちょ、ちょっと待て! 蒼炎祭は蒼瀬の文化祭だ! 部外者は――」

「――部外者とは心外な。私も一応蒼瀬生だ。」



 なっ、なんだとッ...



「蒼瀬三年、柊燕。以後宜しく頼む」

「ッ.....」



 美少女がそそくさと可美のもとに駆け寄る。



「早速だが可美王子、ガラスの靴を履かせてくれたまえ」

「やる気だなァ! やるとしよォウ!」



 なんでだよ。おかしいだろ。



「すまんな! お嬢ちゃん! アイツやり始めたら止まらないんだ!」

「盗られんように気をつけなさいな」

「盗らッ!!....... ソレは勘違いだぞ恋二ッ!!」



 老婆は表情を曇らせた。



「.....お前さんが雨音歩かいな」

「なるほど!! 君が!!」



 雨音は拗ねる様に無視を決め込む。



「自己紹介が送れたね!! 俺は高橋一士!! 恋二で隊長を務めてる!! こっちは――」

「――師岡篝。雨音凛の娘だね。よく知ってるよ」



 母さんを知ってるのかッ!!....


 二級恋愛解体師、雨音凛。現在行方不明とされている旧恋一の解体員。


 私の母親。



「アイツはまだ帰ってきていないのかい?」

「何か知ってるんですか!?」

「?..... 知ってるも何も、凛を行方不明にさせたのはアタシだからねぇ」



 えっ......

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伝説の恋愛解体師は、純愛を知らない。 T.KARIN @tkarin

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