中学五年生
私は中学5年生
*注意:4000文字余りの痛々しい高校生の自我が存在します。
題名を打ったところまではいいのであるが、今しがたさっきまで考えていた内容を忘れてしまった。忘れ物が多いのは生来の気質ではあるのだが、ここまで物忘れが激しくなったのはどうしてだろうか。少し不安になったので、円周率をどこまで言えるかちょっと試してみることにする。3.14159265358…、やっぱやめよう。このままだといたずらに読んでいる人を困惑させるだけだからね、読まれることを前提とされた作品にこの書き出しはどうかと思う。初っ端から物忘れと円周率の話なんて意味不明が過ぎる。
ええと、それで何だったけか。そうだ、題名の話だ、題名の由来だったっけか。
冒頭からかなり飛ばしているのを拝見した皆様ならご理解いただけると思うのですが、とにかく私は言動が支離滅裂だ。忘れ物、なくしものは日常茶飯事、すぐ泣くし怒るし、まるで子供だ。というか全体的に幼いのである。その幼さが全く改善されぬまま、私はもう高校二年生になる。それを揶揄して母親が言ったのが「中学五年生」だ。特にうまいこと言ったなあとは思わなかったし、愉快ではなかったけれど、まあそうだろうなという妙に納得するような心持ちにはなった。というわけで、エッセイとまでは行かないものの、このちょっと幼めの高校生の頭の中から少しだけ雑文を引っ張り出してお目にかけようと思います。
去年の学年末、一年間頑張ったことや自分についてどう思っているかみたいなのを書け、という紙が渡された。上級生、同級生諸君はご存知であろう。それで、自分のことについて書けという欄のことなのだが、お恥ずかしいことに、一つもいいところをかけなかったのである。最初の行から最後の行まではみ出して、小さい文字でびっしりと書いてあるのにもかかわらず、自己嫌悪しか書いていない。あそこまでいくと我ながら呆れてしまう。大変困ったが、それ以上書ける欄も内容もないのでそのまま提出してしまった。自己評価が低いというわけではない、とは思う。ただ、特技や長所を上げろと言われると、「まてよ、それは本当に長所なのか?いいかえればそれすなわち短所ではないか。それは特技と言えるのか?特技と言えるほど人様に誇示できるような腕前なのか?」という変な声がするので、つい書くのをためらってしまうのだ。そのおかげで特技・趣味欄はいつも「読書」ひとつきりだ。
いいところを考えようとすると、必ず思考がぼやける。「自分のいいところ?大した長所なんてないじゃないか。やめてよ、自分は大した人間じゃないんだから。長所なんか一つでも与えたら、それにすがってつけあがるだけだ。思いつかない?うんうん、それでいい」
長所が見いだせないからこそ、必死で努力する。長所を作ろうと模索する。でも、上には上があるということは私でも知っている。誰にも負けない長所なんてあるはずがない。特技なんてあるはずがない。努力でカバーできることは多くない。過ぎた頑張りはやがて私を殺すと思う。それでもなお、妥協をしないあの声は私を殺す気なのか?
いや、違う。多分、私はとても弱い人間だから、すぐ自惚れる。自分にムチを打つことをやめたら、すぐに堕落する。まだ私は高校生なんだ。社会性はない、体力もない、部活も頑張らないと。そして何より学力が圧倒的に足りない。頑張らないと、頑張っていろんな物を手に入れないと。そんな中で自分を下手に褒めたりしたら、もう這い上がれなくなってしまうんじゃないか?それに安住して、そのうちずぶずぶと沈んでいってしまう。私だったらそうなる。絶対そうなる。だからこれでいいんだよ。こうじゃないとだめなんだよ。
でもさ、それって精神的な自傷行為を毎日のようにやってるってことじゃないの?そんなのとっくにわかっているよね。どうやったら治るのかなあ。
ちょっと暗い気分になってしまった。だからちょっと明るい話をしよう。
さっきとは矛盾するようだけれど、私は別に、私の頭から爪先までまるごと大っきらいなわけではない。そうだったら生きてけるわけがないからね。
たとえば、紺色の靴下を履いたときの、足の先の形とか、制服のスカートを履いて鏡を見たときの足の細さの加減とか。
風が強い時に、走ってガラス戸の前に立ったときに映る、ちょっと前に切った髪の先が揺れてるところとか。切りそろえたはずなのに、好き勝手なところにはねて風になびく髪の束とか。
力を抜いた手の、関節の浮き具合とか、血管の形がが左右の手でちがうとことか。
…ここまで書いておいてなんだけども、かなり恥ずかしくないか?これ。書いてて本当に恥ずかしくなってきた。なんか本当に恥ずかしい。消そうかな?いや消さないでおこう。これもまた自分だ、未来の自分へのお土産にしよう、きっと恥ずかしくて死にそうになるに違いない。はい、この話おしまい。
何が明るい話だ!ああもう、辛抱ならない、僕は最低の人間だ、生きてる価値などどこにあるっていうんだ、ああ、ああ、縄はどこだ、こんなひどい気持ち、首でもくくらないと治るわけもない!否定しないでくれ、僕の努力を否定しないでくれ、「お前の言っている『努力』は、他の人にとっての『怠けている』だ」だって!?ああそうかい、そうかい、よく理解したよ!そんならあなたの言う「努力」は、僕にとっての「そんなにやったら死ぬ」だ!!部活を死に物狂いでやれって言って、その上成績が落ちたりなんかしたらこの世の終わりみたいに、もう行ける大学ないぞって、就職しろよって脅すんだろ!?全部全部、全力で片時も休んではならないってか?そうか、さっき僕が、私が、書いていたことは怠け者が書いていた嘘っぱちの戯言か。ああもう、こんなことを言っている間も、視界の橋で紐を探している…自分で自分を絞め殺してしまいそうだ、今ならできる気がする、ああ、でも、できるはずもない!僕にそんな度胸はない。きっと天井に紐をぶら下げて、首をかけたところでいろんなことを思い出すんだろう。まだ読んでいない漫画の続きとか、欲しかった本とか、それで「ああ、まだ私は死ねない」とか思うんだ。自分のことだからよく分かるぞ、そうして私は生きていくんだ。最低だ、浅ましい、でもそうじゃなきゃきっと今私は影も形もないんだろうなあ。一体どうすればいいんだ?…ああ、そういえば「努力してないやつの弱音を吐く権利はない」とも言ってたっけ…ふっざけんじゃねえぞ!もういい世界なんか滅びてしまえ、私は何一つ知ったことか、全部全部燃えればいいんだ!
…ずいぶんな病みようだったな、上の文章は。結局この後、自分で夕食を吐いてしまった。まだ食べてから時間が経ってなかったから、喉の奥は気持ち悪くならなかったし、胃液で焼けることもなかった。夕食の残骸をちょっと見て、罪悪感が湧いた。「ごめんなさい」って小さな声で言ってからトイレの水を流した。
普段からああやって暗い気持ちなわけではないんですよ?初っ端から自己嫌悪満載の文を書いていたので信用はないとは感じていますけれども。
基本的に情緒不安定なんですよ。楽しかったりワクワクしたりすると思いっきり笑うし、不機嫌だと眉が思いっきり寄るし、涙だって出てくる。後輩や同級生を見て、どうしてみんなは泣かないのかな、とか、どうしてみんなこんなに普通に普通の顔をしているのかな、とかを思っている。みんな泣かないし、思いっきり怒っているところとかもあんまり見たことがない。いや、本当に知りたいんですよ。もっと安定した感情で生きていきたいですもの。
ごきげんなときに書いた文章見ます?びっくりですよ。
世界がすっごい輝いてる!なんていうと陳腐な感じがするけど、本当に世界のすべてが綺麗に感じる、すごいね、そこら辺の草も、花も、道路だってステキだ。陽の光が私を優しく抱きしめてくれて幸せだ。何でもうまく行きそうな気がする。今日の私は世界に祝福されてるんじゃないかな?幸運だ!落ち込んだときと色の見え方は変わりないはずだけど、色ってすごいね、「緑ですよ!」とか「ピンクですよ!ほら、この花かわいいでしょ?」とか字k主張してきそうだ。ああ、そのお花は可愛いよ。思わず口角が上がる。今日はいい一日だ、大切に生きようじゃないか。
君の正論は僕にとっての毒だ。全部僕が悪いのはわかってる。君の言っていることはいつも正しいし、そんな時僕はだいたい危ないことをしてたり、友人にちょっとひどいことを言ってしまったりしている。君は僕を注意してくれていて、僕はそれを素直に聞くことができる。
でも、なんでかわからないけど、君の正論を聞くと、僕の心は一瞬死ぬんだ。心臓を止められたみたいに、胸の底あたりがヒュッと冷えるんだ。表情筋だって仕事を放棄してしまう。当然の報いだとは思う。僕はたしかに悪いことをした。注意してくれる人がいるって事は、むしろありがたいことだ。ごめんなさい、わかっているんだ。そのへんのことはもうしっかりと。それでも…
全部覚えてる。中1の頃から言われたこと、覚えてる。
「人としてどうかと思うよ」「空気読もうよ」「そういうのひどいとおもうよ」
全部は大げさだったかな、ごめん。あとは記憶に引っかかって全文は思い出せない。あと心の検閲に引っかかって書き出せない。「自分で書いて心折れたらどうすんの?」って検閲のお姉さんが肘ついてけだるげに言ったから止めておく。
自分の能力で、記憶力だけはいいのが本当に胸糞悪い。これらの言葉は、的確に私の急所をえぐりぬいた。言われてもおかしくないことをしたのは十分わかっている、ということに加え、たぶんコンプレックスにも刺さったんだろうな。私は、自分が人より足りない人間だって思ってるから、「人としてどうかと思うよ」って言われて、自分が人間以下なんだな、ってより深く認識してしまったんだな。だからより記憶に強く残っているんだ。
それ以外の言葉も、自分の人間性の至らない点が原因で覚えているんじゃないかな、と思う。結局自分のせいじゃないか。
ただ、この記憶の毒に解毒剤がないのだけが困ったことだ。
お前らは人をイラつかせる天才だって?そうですか、何にせよ才能があるのはいいことですね、ありがとうございます。ですが、その一言で20数人の気分を害した貴方様も、相当の才能をお持ちでいらっしゃいますね。…失礼じゃんこんなこと言ったら。
絵を書くのも文章を書くのも好きだけど、凡人の域を出ないのが少し悲しい。当たり前じゃないか。なんの努力もしてないんだから。
午前零時の窓辺 宵中窓辺 @nozokimado_yi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。午前零時の窓辺の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます