おまけ

 初稿:中学生versionです。

 書き終わったあとに、高校生の方がいいかなぁと思って書き直したものの、こっちはこっちで捨てがたく。おまけとして載せてみました。

 ※話の内容は同じです(^^;

 ******************************


「ねぇ、タクちゃん」


 自宅近くの公園に設置された、おおきな笹に短冊を掛けながら、幼なじみのマキちゃんが首を傾げる。


「そう言えばさ。なんで七夕って、短冊にお願いごと書くの?誰がお願いを叶えてくれるの?」


 少し時間が遅くなってしまったからか、公園にいるのはマキちゃんと僕だけ。


 気になったのはそこなのか。


 なんて、少しだけガッカリしながらも、僕は聞きかじった情報をマキちゃんに教えてあげる。


「七夕の織姫様って、機織りが上手だからね。『織姫様みたいに、機織りが上手になりますように』みたいに、『○○が上手になりますように』ってお願い事をするようになったらしいよ」

「えっ?!」


 マキちゃんが、なぜかびっくりしたように目を見開いて僕を見たあと。

 今、笹に掛けたばかりの短冊を取り外して体の後ろに隠したのが見えた。


「そっか、七夕ってそういうお願いごと、なんだね。全然知らなかった…」

「まぁ、そう言われてはいるけど」


 マキちゃんは、一体どんなお願いごとを書いたんだろう?


 気のせいか、少し顔が赤くなっているマキちゃんに、僕は続けた。


「お願いする相手は、織姫様なんだけど。叶えるのは、自分なんだって」

「えっ?!」

「だって、そうでしょ。何かが上手になりたかったら、自分で努力するしかないんだから」

「そっかぁ」


 マキちゃんは、なんとも言えない顔をして、体の後ろに隠していた短冊を、僕に見えないようにしながら自分の目の前に持ち直して、じっと見つめている。


「叶えるのは、自分…」

「うん」


 情報だけは知っているけど、かく言う僕だって、短冊に書いたお願いごとは、本来のお願いごととは、とんでもなくかけ離れたもの。


『マキちゃんの恋人になれますように』


 だって、いいじゃないか。

 七夕っていうのは、織姫様と彦星様の夫婦が、一年に一回だけ逢うことが許された、ロマンチックな日なんだから。

 結婚後に遊び呆けてしまって神様の怒りを買い、天の川を挟んで引き離されてしまった彼らは、一年でたった一日だけ逢うことが許されたこの日のために、一生懸命に働くようになったんだ。

 きっと、同じように一生懸命に勉強している僕を、彼らだって応援してくれるはず。


 マキちゃんと僕は、保育園の時から中学生になった今でも仲良しで、一緒に大きくなってきたからか、今でも『ただの幼なじみ』のまま。

 だけど。


 今日は。

 今日こそは。


 強い決意を胸にコッソリ深呼吸をして、口を開きかけたとき。

 同時にマキちゃんの声が聞こえた。


「彦星様は?」

「えっ?」

「彦星様は、お願い、聞いてくれないの?」


 ちょっとだけ、肩透かしを食らった気分。

 でも、マキちゃんが真剣な顔をして僕を見ていたから、僕も真剣に考えてみる。


「う~ん…」


 残念ながら、僕が今持っている情報の中には、彦星様がお願いごとを聞いてくれるか否かの答えは見つからなかった。

 答えは見つからなかったけど。

 その代わりに、僕は僕なりの考えをマキちゃんに伝えることにした。


「見守って、応援してくれるんじゃないかな。織姫様と一緒に」

「一緒に、か」


 少しだけ俯くと、マキちゃんは新しい短冊を取り出し、


「ちょっとだけ、背中貸して」


 と言って、僕の背中を台にして、短冊に何やら書いている様子。


「書けた。見て、タクちゃん」


 言葉とともに、僕の目の前に差し出されたマキちゃんの短冊に書かれていたお願いごとは。


『織姫様と彦星様が幸せな一日を過ごせますように』


 あまりに優しいお願いごとに、思わず僕の胸がキュッとなる。

 でも、そんな僕に、マキちゃんはニッと笑って言った。


「二人が幸せじゃないと、応援してもらえないような気がして」

「…え?」


 その場で首を傾げる僕の目の前で、今書いたばかりの短冊を笹に掛けると、マキちゃんは、先に書いて笹から取り外した短冊を裏返しにして、そっと僕に差し出す。


「タクちゃん、これ」

「いいの?見て」

「うん」


 マキちゃんから短冊を受け取り、そこに書かれたお願いごとを見た僕は。


「マキちゃん、短冊もう一枚持ってる?」

「うん、あるよ」


 マキちゃんから新しい短冊を受け取ると、ついでにペンとマキちゃんの背中も借りて、僕もマキちゃんと同じお願い事を書いた。


『織姫様と彦星様が幸せな一日を過ごせますように』


 そしてすぐに、先に笹に掛けた短冊と交換し、取外したばかりの短冊を裏返してマキちゃんに手渡す。


「マキちゃん、これ」

「えっ?」


 僕の短冊を受け取ってくれたマキちゃんは、そこに書かれたお願いごとを見たとたん、目を大きく見開いて僕を見た。


「織姫様と彦星様が、応援してくれたのかな」

「そうかもね」

「二人も今頃、幸せな時間を過ごしてるかな」

「うん、きっと今頃一緒に、空から僕たちのこと祝ってくれてるよ」


 お互いに交換する形になった短冊を手に、僕たちは初めて、お互いへの恋心を胸に手を繋ぐ。


 既に陽が沈んで群青に染まり始めた空にかかる天の川。

 その川を渡って、一年ぶりの逢瀬を果たしただろう織姫様と彦星様に、僕たちは感謝の気持ちを込めて想いを馳せた。


 七夕の日のお願いごと。

 叶えるのは、頑張った自分。

 だけど。

 僕のお願いごとを叶えてくれたのは、優しくてしっかり者のマキちゃんだった。


 ありがとう、マキちゃん。

 僕のお願いごとを叶えてくれて。


 心の中で呟くと。


「私のお願いごと、叶えてくれてありがとう、タクちゃん」


 マキちゃんが僕の隣で呟いた。


『タクちゃんの彼女になれますように』


 僕の手の中にある短冊に書かれた、マキちゃんのお願いごと。

 込み上げてきた嬉しさを胸に、僕は繋いだ手をギュッと握りしめた。


【終】

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七夕の願いごと 平 遊 @taira_yuu

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