分けられたもの

みずいろ

第1話

「君みたいになりたい」

と君に聞こえないように言った。

頬杖をつきながら厭味ったらしく。


誰もいないかのように静かな教室じゃあ多分聞こえているんだろうけど。


というのも君は、勉強も趣味も私より優れていて、身長が高くて……私の能力を全部吸い取ったんじゃないかと思うほどだった。


羨ましい、羨ましい。 

ときには、君がいなかったら、なんて思ってしまう。



君はこちらを向かない。

長くて艶のある髪がなびく。

「……そう? そんなに羨ましい?」

いつもの、つららのように澄んだ声がした。

「聞こえてたんだ」

「私みたいになりたいの?」

「まあね」

「なんで?」

「なんでなんて言わなくてもわかりそうなものだけど」


「…じゃあ、なる?」


「……?」


「アタシになる?」

いたずらっ子のような無邪気さまじりで私に言ってきた。いつもの君のイメージとはかけ離れていて気味の悪さを感じた。

何も答えずにしどろもどろしていると、

「アタシになりたいんでしょ?」

と、せかしてきた。

君はこちらを向かない。


君は窓の方を指さした。

夕焼けとは思えないほど真っ赤だ。

「ほら、早く」

威圧的な言い方に思わずビクッとした。

怖くなって体が後退りする。


「私を……殺す気なの??」


私の喉が無意識に言葉を発した。

そんなバカなことがあるわけない……。君がそんなことをしないって頭は分かっているのに。


この雰囲気の中、的はずれなクーラーの音がゴウンと響く。まだ君はこちらを一回も向いてくれない。

「だってアナタと私は」


まって、待ってその後の言葉を聞きたくない。


「二人じゃいけない―」


「ハッ」


咳き込むぐらいに勢いよく息を吸い飛び起きた。

頬杖をしていた手が斜めに崩れて机に押し付けられている。そのせいで手や頬には変なあとがついていた。

だんだん意識が異常なぐらいはっきりとして、ついさっきまでのことは多分夢だったんだと理解した。


君という存在がどうしても思い出せない。思い出してはいけない気がする。


そんなことよりも、早く帰らなきゃ。


薄暗い廊下をタッタと駆ける。


走っても走っても進んでる気がしない。


「取り合いしよう」


「私とあなたどっちが生きるべきだと思う?」


夢ではないはずなのに、何故か君の声が聞こえる。


それはまるで呪いのように。


「それは私」

突如として私の前に現れたその瞬間、君とパチッと目があった。


信じられない、そんなバカな。


その顔はとっても見覚えのある……というか、鏡でも見ているのだろうか。私の顔だ。


「私とあなたを同じにしないで」


「え、」

私の考えていることがわかっているような答え方だ。


「まだ思い出さないの? 本当は気づいてるくせにね」



「あなたはライ、私はミラ。私達は双子。そして、ほぼ同時に」


「死んだ」


ああ……なんで何もかも忘れていたんだろう。忘れたふりをしていたんだろう。


そう、私達は双子。炎で真っ赤になった教室で私達は死んだ。何故家事になったかはよく覚えてないが。


そこで、私達の体は一つになった。神様のイタズラ……なのだろう。

一つの体には一つの魂しかいることができない。だが、今は一つの体に二つの魂がいる。


だから私達はどちらかを殺さなくてはいけない。

 

「早く決着をつけよう」


そうは言っても……そんなこと出来るわけない。


「だったらずっとこのままだけどいいの?」


一緒の体にいるから私の考えていることがまるわかりなのは嫌だな……


「それは私も嫌」


「……私はあなたを殺したい。だって、あなたが私達を殺したんだもの」


突然の告白に私は思考が停止した。ミラが私を殺したいということも驚きだが、私が私達を殺した……? そんな、こと思うわけが……。


「とぼけないで!! あなたが火をつけたくせに、今になってみると記憶を失っていてなんてわがままで都合のいい人。私は、確かにあなたが羨ましかった。あなたのようになりたかった。でも、一緒になりたいなんて一つも望んでいなかったのに。あなたが勝手に……私とあなたを一つにした」


「だからこの体は私がもらう」


鼓動の音がうるさい。ち、違う。私じゃない……

でも、もしもそうだったら……最初の夢の君は……ミラじゃなくて……


「私……?」


……分かってるよ、社交的で友達が多くて運動神経が良いミラ。勉強や趣味など多彩なライ。お互いにないものを持っている。双子だなんて、なんで神様は私達を分けたの?? 一緒だったら互いが幸せになるじゃない。妬み合うことなんて、なかったじゃない。


「そ、そうよ……仕方がなかったの、だって私とミラは分けられたものなんだもの、二人でいてはいけない……」


鼓動の音がさらに大きくなっていく。そうなるにつれ、頭ががんがんとして割れそうになる。


「うっ……もう、もう時間が。やだ、やだ、私がこの体を……まだ起きないでっ……」


ミラの声もわからなくなるぐらいの心音が体中に響く…………



……ピ、……ピ、……ピ、……ピ

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン


真っ白な天井。私の顔を覗いている人。お医者、お母さん。私は……

              

「やっと目を覚ましたのね!!!!」

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