第36話 人間

「なっ、

 どういうことだ......」


「オレはさっきのヒミコさんの魔法で過去にいった」


「過去......

 そうか過去の僕に」


「そうそして全てを聞いた。

 あんたが一つに戻りたいと思ってること、

 それを阻止する方法もね」 


「右目の魔法、封印シール......」


「そう、この魔法は使用者しか開けられない封印の魔法。

 あんたの欲しがってた魂はオレが封印してる。

 諦めなよ。

 オレを殺しても奪えない」


「......それで君はどう思ってるのかな。

 そっちの僕。

 僕と一つになってもとに戻るのがそんなにいやなのかい」


 そう男のヒミコさんは、小さなヒミコさんに聞いた。


「ああ、残念だがお断りだ。

 なぜなら僕は僕だからね。

 君がどういうものかは知らないが、

 なにか受け入れがたい」


「......そうか、君は結局分けたときと同じ考えなのか、

 また僕を拒絶するのだね......」


 そう男のヒミコさんは悲しそうにいった。


「どうします?」

 

「ふう、仕方無いだろう。

 今回は諦めるよ。

 いつか考えが変わってくれることを願ってね」


 そういうと、男のヒミコさんはその場から、

 風のように一瞬で消えさった。


「ふう、こわかったー!!」


 オレはその場でへたりこむ。


「ふむ、よくわからんがでかしたねタイガくん」


「でも、レイデアさんが......」


 ラクリマがレイデアさんの血を悲しげに見つめている。

 

「いいえマスター、

 彼にとって生きていくのは、

 もはや苦痛以外なかったのは事実、

 これでよかったのでしょう......」


「ラクリマ......」


「そうだね生きることが幸せとは限らない。

 これが幸せではないとは言いきれないのかもね」


 そうヒミコさんはいい、

 オレはベッドで眠るエクスさんを背負うと、

 帰路に着いた。


「タイガー!!」


 ヒミコさんの家に着くといひかが飛び付いてきた。

 

「あーー!!

 何してるんてるんですか!!

 いひかさん、離れなさい!

 はーなーれーなーさーいー!」


「マスターは私のマスターなのてす」


 三人から三方に引っ張られた。


「やめてーー!

 ちぎれるーーー!

 あーーーー!」


「ふむ、いつもに戻ったね」


 ヒミコさんはそういって笑って家にはいる。


 その日の夜。

 ヒミコさんの家の二階のバルコニーで、

 オレとヒミコさんはいた。

 ヒミコさんは頭を手に入れ完全に記憶を戻したのだ。

  

 いひかとエクスさんとラクリマの三人は下の階いいて、

 誰がオレの食事を作るかでいさかいあう声が聞こえる。


「ヒミコさん、本当にこの封印解かなくていいんですか?」


「ああ、それを解けば、

 また彼が魂を奪いにやって来るかもしれない。

 身体は全て取り返したんだ。

 対策を立てるまでは、

 魂はそのままにしておくさ」

 

「そうっすか、

 でもヒミコさんは、

 どうしてそこまで一つになりたがらないすか?」


「そうだね。

 僕もよくはわからかったが、

 考えてみたんだ。

 もしかしたら、

 彼は僕の嫌いな部分を持っているんだろうと思った」 


「嫌いな部分?」


「ふむ、彼はいってただろう。

 また拒絶するのかと......

 彼には僕が拒絶するなにかを持っていた」  

 

「それはなんですか?」


「おそらく強欲さかな。

 あらゆる欲を叶えようとする。

 魔法使いとしては真っ当なんだけどね。

 なぜだかいやなんだ。

 勝手なものだろう」 


 そういってヒミコさんはバルコニーから月ををみていった。


「それって、

 ヒミコさんが人でありたいってことなんじゃないすか?」


「ん?

 どういうことかな?」


「前にヒミコさんは人間が、

 我欲で動くケダモノっていってましたけど、

 それでも、人間でいたいのかなって、

 人間じゃなくなるのが怖いのかなって」

 

 オレがいうとヒミコさんは沈黙した。

 

「なるほど......

 それは考えなかった......

 僕は人間でいたかったのか......」


 そういうと、一人頷く。


「ふむ、やはりタイガくんといると、

 新しいことを知ることができるね」

 

「そうすか」


「さあ、では報酬を払おうとしようか、

 君に渡した右目以外全ての身体を統合し、

 かつての肉体を再構築する」


「ま、まじすか!

 またあのえいちかっぷヒミコさんが、

 我が前に降臨するんすか!」  


「ふむ、君とのバイト契約は終わりを迎え、

 君との別かれとなろう」


「さびしいですが、えいちかっぷの為、

 がまんします!」


「では刮目してよくみたまえ!

 かつての僕の本当の姿を!」

 

 そういうとヒミコさんは光輝き、

 大きくなっていく。

 

「おおお!!!

 これは!!!」 


 そして光が消える。

 そこにはオレと同じぐらいの、

 年齢の少女になったヒミコさんがいた。


「うわあああああああ!!!!」


「ふむ、すまないな。

 どうやら元に戻れないようだ。

 もしかしたら、

 タイガくんと別れるのを、

 無意識で拒絶してるのかもしれないな」


 ヒミコさんはそういって、

 ちょこんと舌を出した。


「えいちかっぷううううう!!!」


 オレの魂の叫びが空にこだまする。

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ブラックバイトウィザード @hajimari

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