第35話 帰還

 ヒミコさんは話を続けた。


「しかし、なぜこの面子なのか」


「わからないんですか」


「男の僕に気づかれないように、

 ブラフも混ぜてるだろうからね」


「でも、あの男のヒミコさん、

 オークションでも落とさなかったし、

 なぜでしょう?」


「ふむ、たしかに不可解だね。

 君の記憶では、

 匣魔監獄ごうまかんごくの住人を殺し、

 脱獄に手を貸したのは僕だろう。

 逃がさず、その場で皆を殺して、

 身体を手に入れればよかったはず......」


「殺せない理由があった......」


「か、何かこの中に厄介な魔法を持つものがいた」


「ピエロは魂になれたし、

 織部さんは結界に隠れるから、

 もし、逃げられると見つけられなくなるからとか......」


「ふむ、可能性はあるね。

 が、なにか少し違う気がするな」


「ヒミコさんは全員簡単に倒してましたが......

 ああ、なんだっけ、あれ

 バルダオートってやつ以外......」

 

「確かに、あの霊的存在は僕でも容易くは倒せないが、

 召喚は監獄から逃げたあとだろう......

 この世界で僕と同等の力と能力があるのは僕だけだ」


「同じヒミコさんと男のヒミコさんの違い......

 思い、考え」


「それだ......」


 ヒミコさんは手を叩いた

 

「でかしたタイガくん、

 よーし、君との約束だったね。

 君が触りたかったえいちかっぷ、

 存分に触るがいい」


 そういってヒミコさんはバストを付き出してきた。


「ま、マジ、まじすか!!」


 バストを触ろうと震える手を伸ばす。


「............」


「どうされました?」


 不思議そうにラクリマが見ている。


「う、うん、止めとこうかな」


「ほう、なぜだね」


「オレは向こうのヒミコさんと約束したので!

 こっちのヒミコさんのえいちかっぷを触るのは、

 違うと思います!」


「ずいぶん紳士的じゃないか、

 よかろう。

 向こうの僕のえいちかっぷ、

 とくと堪能するがいいさ」 


「はい!!

 で、なにがわかったんすか」


 そうオレが聞くと、

 ヒミコさんは説明してくれた。


「ほほう......

 なるほどそういうことですか、

 オレの成長も計算に......

 じゃあオレはもう未来に帰っていいすよね」


「まだだよ。

 これから魔法使いたちを監獄に送ったあと、

 君にはやってもらわなければならないことがある」


「なんすか?」


「僕をバラバラにするんだよ」


「えーーー!?

 やですよ!」

 

「だが仕方無いだろう。

 僕がバラバラにならないと、

 計画が失敗する」


 それからヒミコさんは魔法使いたちを監獄へと送り、

 彼らに身体を送りつける算段をつけ、

 ラクリマの記憶を消しオークションに出した。

 

(これで、あとは)


「ああ、頼む。

 バラしたあとは、

 僕が設定した時限魔法が勝手に発動するよ」


 そしてオレはついにヒミコさんをバラバラにすると、

 意識を失った。


「いま、おかしな魔力を感じたが」


 目が覚めると、目の前に男のヒミコさんがいる。


「なっ、失敗した!

 やはり魔力が足りなかったか!!」


 小さなヒミコさんが驚いている。


「大丈夫っす。

 ヒミコさん」


「どういうことだね。

 その落ち着きよう」


 男のヒミコさんはいぶかしげに見ている。

 警戒してるようだ。


「もう無理っすよ男のヒミコさん。

 あんたの野望は叶わないっす」


「僕の正体を知ってる?

 ふむ、どういうことかな」


「あんたヒミコさんを取り込もうとしてるっすよね。

 でもそれは無理っす」

  

「ふっふっふっ、君は面白いことをいうね。

 そっちの僕が気に入るのもわかる。

 でももう詰んでるんだよ。

 戦って勝てはしないのは、わかるよね」


「そうっすね。

 戦っては勝てない」


「それがわかっていて、

 無理だと、もう全ての身体は僕のものだよ。

 あとは一つになるだけ」

 

「無理す。

 仮に身体を全て手に入れても、

 一つにはならない」


「身体が全て手に入っても一つにならない。

 そんなはずは...... 

 まさか......」  


「そうす。

 あんたが一番欲しいものはない

 そう、魂だ」

 

 そうオレがいうと、男のヒミコさんは沈黙する。


「あんたは手に入れられるはずの、

 身体を手に入れなかった。

 本当に欲しいのは身体ではなく魂の方だった」


「ほう、それで」


「アルスタインや織部さん、レイデアさんは

 魂に関する魔法を使えた。

 彼らの魔法を知らないあんたは、

 自分の魂を失う可能性、

 またはもう一つの身体の魂のことを考えた。

 だから、全ての身体が揃うのを待った」  


「ふふっ......よくそこまでわかったね。

 でもだからといって、

 君にもはやなにもなす術はないだろう」


「ああ、でも魂はここさ。

 オレが持ってる」


 オレは自分の右腕に、

 ヒミコさんの目のあった場所を指でさした。

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