EDEN991
大味噌汁
ふたり
ときは夕方、ところは廃屋。
男がふたり、そこにはいた。
片方の男は右手に銃を持ち、もう片方の男の額に向けていた。
もう片方の男は、両手を後ろに、椅子に縛られている。
ごく普通の誘拐犯と人質、といった感じだった。
銃を持つ男...ここではAと呼ぼう。Aは、このあたりの地方を牛耳る、ある程度の大きさを誇るやくざ事務所の幹部である。
対して男B、縛られているほうは、父親のコネで大企業に入社したボンボンお坊ちゃまであり、例のごとく太っている。
...まあ、体形に関してはさほど大きな問題でもないだろう。太っていても痩せていても、大抵の場合、撃鉄によって撃ちだされ銃身を解放された弾丸は、肉や骨などといった防御機構など最初からなかったかのように、すんなりと人体を貫通する。
Aは、完全にBの生殺与奪の権を握っていた。
生物とは単純もので、互いの立場がどれだけ違えど、生きるか死ぬかの選択権を持ったほうが確実に有利になる。
「ふざけるな!僕はあの大財閥■■の一番息子だぞ!貴様の組織の支援をしている、あの■■だ!僕を殺したら、今度はお前の首がどうなるかわからんぞ!」
このBとかいうお坊ちゃまは、やけに甲高い耳障りな声で喚き散らかした。
もちろん、そんなことをしたところでAが有利なのには変わりはないが、Bの言うことも事実ではある。
Bの父親■■は、Bの言う通り、今や日本経済を支える一つの柱となる大財閥の長である。彼は財閥の長でありながら現在の日本に疑問を持っており、『革命を起こして欲しい』という中世じみた薄っぺらい考えから反社会勢力に惜しみなく援助を行っている。Aの所属するやくざ事務所もそのうちのひとつだ。
無論、その財閥長の愛息子を殺害し、そのことが財閥内に知れ渡ったとすれば、Aは何をされるかわからない。首を切られて一息に死ねるならまだいい。苦しみを与えられながらゆっくり死んでいくような仕打ちなら、たまったものではない。
その仕打ちを受けたくなければ、AはBを殺さず、逃がせばよいだろうという考えもあるかもしれない。だが、そんなことなど些細な問題に感じてしまえる程、Aの殺意は強固なものだった。
Bの喚きをしばらく聞いた後、AはBに向けて引き金を引いた。
人というのは、案外あっけなく死ぬものなのだ。
Aは、目的達成による爽快感と、漠然とした不安を抱え、ただの肉となった目の前のそれの掃除を始めた。
今日の晩飯は何にしようか。
Aはそんなことを考えながら、小さめにまとめた肉の塊を詰めるための袋を取り出そうとすると、もともとは口と呼ばれる部位であった穴から、何やらきな臭いにおいのする煙のようなものがもくもくと出ていることに気づいた。
あまりの煙たさに思わず咳き込む。
少し経ち、煙が晴れたかと思うと、Aの前に見たこともないような化け物がいた。
正面から見えるだけでも腕が7本あり、頭頂部がもげて脳が露出して、露出した脳に目玉が何個か引っ付いている。見る限り足のようなものは無さそうで、何らかの力で宙に浮いているように見える。
その化け物は、下品なほどに割けた口で言葉を発した。
「初めまして、私は死神です。(A)様、あなたの寿命期間が終了いたしました。これより、魂の回収をいたします。」
あまりに突拍子のない文言に、Aは顔をしかめた。
それにしても、下品な見た目に対し、言葉使いと声はずいぶんと上品である。
異界の生物たちは、皆見た目など気にすることなく、中身で人柄、もとい化け物柄を判断するのかもしれない。そうであれば、人間界よりかはよっぽどましな世界なんだろう。
Aは、その化け物に対して発砲した。
何か超能力で弾丸をはじき返すぐらいのことはしてくると思ったが、予想に反し、弾丸を食らって脳に穴を空けた化け物は、しなしなと床に倒れ、こと切れた。
Aは少し拍子抜けした。
しかしながらそれ以上に、Aは『人間以外の人語を解す生物を殺害する』という珍しい体験に、少しばかり興奮を覚えていた。
Aは、その珍しい体験の記念に、目の前の化け物であったものの、脳であっただろう部分をブロック状に一部切り取り、持って帰ることにした。
死体処理は、面倒になったのでそのまま放置することにした。放っておけば警察か犬が勝手に片づけてくれるだろう。
Aは家に帰り、持って帰った脳を一部切って焼き、食った。
うまい。
食感と味は豆腐に近い。少し生臭いが、鍋に入れると合いそうだ。
EDEN991 大味噌汁 @sasimi7500
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