i didn't have a nice time

レン

Is there anybody going to listen to my story

 サイドテーブルに置かれた腕時計を見ると、時刻は午前4時半を指していた。窓のないラブホテルからではどうにも外の様子は伺えない。僕の肩にのしかかる腕を引き払いながら、酔いと疲れが滲み出たのろさで、もう一人の体温の温かさが冷めた雰囲気を漂わせるベッドから降りた。


 脱ぎ捨てたボタンダウンのシャツと細身のスラックスを拾い集め、洗面所でチェッカー柄のネクタイを締め直した。鏡には薄暗い目のティーンエイジャーがボサボサのマッシュルームカットで映っている。

 歯を磨きながら未だ眠る女を思い出す。昨晩は新宿のライブハウスに出ていて、火曜日のブッキングの割には随分と客が入っていたと思う。いつも通りクールにライブをこなし、ステージを降りてからの記憶はない。何故なら、ライブ後に何杯も何杯も身体に流し込んだジャックダニエルの所為だ。きっとまた適当にファンを食い物にしたのだろう。

 クローゼットに唯一かけたストライプ柄のジャケットを羽織る。こんなにVゾーンが狭いスーツなんて着てるヤツなんてもう滅多にいない。分かる人にだけ分かってもらえたらいいさ。物音を殺して一万円札を残し、鉛のように重く感じる僕の恋人、リッケンバッカー330ジェットグローの入ったギターケースを背負い、水曜日の午前5時に僕は部屋を出て行った。


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