在宅

 水曜日の午後、美紗は在宅訪問指導を始めることになった患者さん宅に向かった。往診は来週の予定だが、先に在宅の契約と現状を把握するために店舗の業務を翔ちゃんたちにお願いして、店から出てきた。

 自転車で10分ほど走ると、目的の患者さん宅に到着した。家の前に軽自動車が止まっているところをみると、本日同行をお願いしたケアマネージャーはすでに到着しているようだ。


「お待たせしました。太陽薬局の秋山です。」

 挨拶しながら玄関を上がる。すでに部屋には老夫婦二人とケアマネージャーと思われる中年女性と、訪問看護の方と思われる白衣を着た若い女性がいた。

「ケアマネージャーの石本です。よろしくお願いします。」

「訪問看護の田中です。よろしくお願いします。」

 挨拶してくれたので、美紗はあわてて名刺入れを取り出し名刺交換を行った。

「北さん、みんなが揃ったので始めますね。」

 石本さんが司会役となって、在宅の連携会議が始まった。美紗もいただいた資料をみながら、今後在宅訪問する北敏夫さんの病歴などを確認する。

 その資料によると、大島病院には高血圧と軽い認知症で通院しており、他に泌尿器科、整形外科も受診しており、それぞれの薬を合わせると1日10種類の薬の管理が困難のため、薬剤師の訪問をお願いした経緯が書いてあった。

 一読して奥さんの静子さんは元気とはいえ、80歳を超えているので複雑な旦那さんの薬の管理は難しいだろうと思われた。

 会議は進み、北さんの今後の薬の管理方法について家族やケアマネージャーの了承が得られたところで、在宅の契約書に署名をしてもらった。


「やっぱり松本さん、驚いていましたね。」

「翔ちゃんのこと気に入ったみたいだね。これで、翔ちゃんで出勤しても大丈夫だね。」

 週末の松本さんの歓迎会に、春本君は女装した翔ちゃんの姿で参加した。清田さんは大喜びで、松本さんも最初は驚いていたが、すぐに受け入れ、翔ちゃんのことを「かわいいですね。」とか「ほとんど女の子ですね。」などと言っていた。


 翌朝、飲み会の後そのまま泊まった翔ちゃんに、美紗は紙袋を渡した。

「翔ちゃん、これに着替えてみて。」

 紙袋の中身を確認した翔ちゃんは、

「これって、ひょっとして。」

「この前実家に行ったときに取ってきて、一度クリーニングしたから大丈夫だと思うよ。上のシャツは、多分サイズが合わないから似たようなのを買っておいたよ。」

「着替えてきますね。」


 数分後着替え終わった翔ちゃんが嬉しそうに戻ってきた。

「これ、美紗が高校時代に着てたのですよね。」

 グレーのプリーツスカートにピンクのシャツにえんじ色のリボン。美紗が高校時代着ていた制服を実家から持って帰ってきた。

 コスプレ感は否めないが、翔ちゃんが嬉しそうにしているのでOKということにしておこう。

「私も着替えてくるね。」

 翔ちゃんに渡した冬服のスカートとは別に、夏服用のスカートもあったので、10数年ぶりに着てみることにした。夏服用ということもあり生地が薄く多少寒いが、部屋の中だしタイツを吐けば特に問題はなさそう。

 着替えた後、翔ちゃんに見せると喜んでくれた。そのあと、高校時代を思い出しお互いの体を触りあったり、後ろから抱きついたりと、女の子のスキンシップをした。

 思い描いていた彼氏ではないが、こんな感じで付き合えるのも楽しいと思えてきた美紗であった。

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年下彼氏は男の娘 葉っぱふみフミ @humihumi1234

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