第五話 いざ王城へ⑥
「「すみませんでした」」
すっ飛んできた騎士たちと文官にしこたま怒られた王宮魔術師たちとクノンは、一番の被害者である、悲鳴を上げたメイドにしっかり謝った。
外にいた魔術師らは、城の中からそれがどう見えるのか、まるで考えていなかった。
城から大勢の者たちが走ってやってきたのさえ、平然と「何かあったのかな」と不思議そうに迎えたくらいだ。
王城まで飛ばしたクノンの「水人形」が、城の中からは誰かが飛び降りたかのように見えたことで王城内が結構なパニックになったと聞き、平謝りだ。
王宮魔術師総監ロンディモンド自らが、自分たちの減俸をその場で宣言し、減俸分の一部をそのまま慰謝料として彼女に渡すことで和解が成立した。
起こったことはもう仕方ないとして、こうなれば示談でもなんでも決着していることが大事なのである。この件で誰かに何か言われた時「あ、その話は済んでるんで」と流せるように。権力の中枢には、責任問題だなんだと問題を大きくややこしくしたい輩もいなくもないから。面倒臭いのだ。
こうして決着した後、平謝りした王宮魔術師たちを残して兵士や騎士たちは引き上げていった。
――今朝「廊下大滑り事件」でレーシャとクノンを捕まえた、あの騎士もいた。彼の視線が痛かった。まあクノンは見えないのでわからないが。しかしレーシャの心にはしっかり届いていた。
「やれやれ。少々調子に乗ってしまったようだ」
ロンディモンドはやれやれと溜息を吐く。
彼こそクノンの「水人形」に対して「これはどこまで飛ばせる? やったことない? 試してみようではないか」と言い出した張本人である。
「人を飛ばすのはダメですね……面白かったけど」
レーシャも溜息を吐く。
彼女は「もっと速く! もっと速く!」とはやし立てた張本人である。
「僕、午前中だけで二回怒られてるんですけど……」
その大元になっているクノンも溜息を吐いた。
初王城で、午前中だけで、二回も。
一回ならまだ厳重注意で終わりそうだが、二回はない。二回は絶対に多い。
あとで父親から必ず叱られるだろう。
非常に憂鬱である。
「――で、この子どうするんですか?」
同じくテンションがだだ下がりの王宮魔術師の一人……声からして魔術師ビクトが、クノンの処遇をロンディモンドに問う。
「そうだね。落ち込んでばかりいても始まらないし、気を取り直そうか」
気を取り直すのが早すぎて反省の色がまったく感じられないのだが、確かに落ち込んでいても話が進まないので仕方ない。
「――わーい」
わーっと「超軟体水球」に飛び込む者がいたり、
「――猫よこせよ!」
「――触るな! 私が育てるんだよ!」
「水猫」を取り合う者がいたりと、本当に反省の色が見えない大人たちである。
でも、クノンも気にしないことにした。
魔術に失敗は付き物、実験して失敗して少しずつ進歩していくのだ。いちいち気にしていても仕方ないだろう。
それにしても早すぎるという話だが。
「次は論じあうとしようか。塔で昼食を食べながら話そう、クノン君」
「はい。ちなみに僕のテストの結果は?」
「聞かなくてもわかるだろう。君の師については私が責任を持って考えようではないか」
つまり、合格ということだ。
薄々わかってはいたが、ちゃんと言葉にしてもらって、一気に喜びが込み上げてきた。
「……やった! やったぁ!」
クノン・グリオン。九歳。
冬のある日、王宮魔術師に認められる。
貴族の令息としてではなく、ただの見習い魔術師として。
初めて己の手で勝ち取った功績だった。
そして、公式に語られる汚点が三つ増えた日でもあった。
――――――
※
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魔術師クノンは見えている 南野海風/カドカワBOOKS公式 @kadokawabooks
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