第12話 いざ大学へ
夏休み、今年も例年と同じように茹でる暑さが続き体力を蝕んでいた。照り付ける太陽に肉でも置いたら表面はいい色になるのではないかと思うほどのアスファルト、普段なら家でゆっくりとエアコンの効いた部屋で過ごしていたかったのだが今日は先約が入っていた。
「いや~ごめんね!色々と準備していたら時間掛かっちゃって!屋台で何かおごるね」
「いや別にそこまで待ってないし、てかあんまり食えない・・・」
会話をしている相手は、先日、校内の自動販売機で話していた松尾灯であり、今日は彼女と大学の文化祭へ遊びに来ていたのである。俺自身もこうやって彼女と出かけるとは思いもしなかったが、彼女曰く互いの行きたい大学が同じだったようでせっかくだから一緒に見に行こうということだった。
(せっかくなら雫と行きたかったな~~)
実際問題、彼女は受験生でいいところの大学を目指すらしく今は夏期講習の最中だろう。それでも榎本や千冬、なんだったら姉さんたちと来てもよかった。それがまさか松尾と一緒だったとは・・・
「奏ちゃん、何か考え事でもしてるの?てか、今日の服装めっちゃ可愛いよ。もしかして私のためにおしゃれしてきてくれた?」
「その気はないけどね。でも褒められるのは嬉しいよ、ありがとうね。松尾だってなんか素敵なお姉さんって感じがしてすごく似合っていると思うよ」
互いの服装を確認してみる。松尾はやっぱりと言うべきか、抜群のスタイルがよく似合っていた。黒のタンクトップにに白のパンツにサンダルといったシンプルなコーデであるのにも関わらずその姿が様になっており、大学生と聞き間違えてしまうほどだった。
対して俺は、ワンピーストップスが半袖のデニムに白のワンピースを合わせたもの
靴は白のスニーカーといった服装で背の低さも相まってか少し幼い女子高生。隣を歩く彼女と比較したら、まるで姉妹のように思えてくるほどで自分のスタイルの悪さにため息が出てくる。
(俺も女の子になるんだったらもうちょっとこうナイスボディが良かったなぁ)
女体化してだいぶ経つが、女性として自分の体を周りと比較する事が多くなってきた。これも精神が女体化してきたのか、榎本や松尾のような背丈や腰、お尻のラインなど自分が劣っている点に目がついてしまう。
まだ高校2年生だ、きっと将来は大きくなるだろう!なんてポジティブな気持ちが支えてくれているようだった。
「はい、到着!やっぱり大きいね~私さ去年もここに来たんだよね!」
大学の文化祭など初めてきたが、やっぱり規模の大きさが高校のものとは大きく違っていた。まず今日来た大学が文系の中でも敷地面積が大きいところで、外に出ている露店の数も多い。まだ11時という早い時間にもかかわらず、家族連れや俺たちと同じぐらいの女子高生たちが楽しんでいた。
「受付しちゃおっか、こっちだよ~」
「お、おい!引っ張るなって!スニーカーでも歩きづらいんだから!」
慣れたように受付を済ませる。受付にいた大学生たちは『まだ二年生なんだ!可愛いね!』などやたらと声を掛けてくる、彼女達から見たら俺たちは年下の妹のように見えるのか、何だかむず痒い。
「やっぱり大学生になったらあんな感じで綺麗になれるのかな?さっきの人たちも数年前は私たち同じ高校生だったでしょ?やっぱり何かきっかけがあるのかな」
「ん…経験とかじゃね?」
キラキラした目で大人びた女子大生を見つめている。松尾自身も同じ年齢になったら彼女たち以上に綺麗で美しくなるだろう。そんなことを妄想しつつ俺たちはキャンパスに入っていった。
「いや~やっぱり大学の校舎って広いよね~!なんかショッピングモールに来た感じだよね!」
「それは肯定できないけど確かに広いわ、縦にも横にも。通い始めたらなんか迷いそうな気がする・・・」
確かに彼女の言う通り大学というものがここまで広いとは思いもしなかった。普通の授業をおこなう教室に加えて体育館、語学教室に講堂という大きな場所など高校と比べて桁違いだった。
そして文化祭の規模も大きく違い、まず露店の数も大学は数が多いしクオリティも違う。室内での体験イベントも文化部や学生会の人たちが率先して盛り上げていた。
「そういえば、私の先輩がここに通っているんだけど後で会わない?もしかしたら学生生活の話とか聞けるかもよ?」
「やっほー、久しぶり!灯ちゃん!そっちの子は話していた奏ちゃんだっけ。私は日野いずみって言います。今年で20歳になるかな、ふたりより少し年上な感じですね」
そう言って丁寧に挨拶をされたので、こちらも立ち上がり挨拶をする。向こうは「固くならなくていいよー」なんて濁され腰を掛ける。
明るくなったセミロングな髪型に右耳にピアスを開けており、大学デビューを無事に成功させたような雰囲気を醸し出していた。
「私は去年も来たんだけど、奏ちゃんは初めて来たんですよ!だからここの大学のこととか少し知りたいらしいんで日野さんに教えてほしいんです!」
「オッケー、それじゃあ話すね。あ、普通に飲み物とかお菓子とかは食べて大丈夫だから!」
そうして彼女からいろいろな話を伺った。授業の風景や学食、サークル等など彼女からの話は止まることなく、その都度反応は見せつつ止まらない話を聞いていた。
「いや〜、日野さんって話し始めると止まらないの癖なんだよね、昔からの。でも為になる話が多かったからよかったね」
帰りの電車、少し混み合った車内で揺られながら帰り道を辿っていた。
あの後、日野さんと別れてからは空いた小腹を満たそうと露店に足を運び購入し続けていたらいつの間にか日が暮れるまで遊び回っていた
「ねぇ、連絡先交換しようよ」
「夏休み、予定があったらさ。今日みたいに遊びに行こうよ」
「…はいよ」
どうしてこうも仲良くなったか、わからない。
只、きっと夏休みの予定に彼女との遊びが入ることは確かだった。
元男のトラブルstory〜♀ Rod-ルーズ @BFTsinon
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