エンディングソング

「ねえ、お姉ちゃん。

 もしも、もしもね、神様が一つだけ願いをかなえてくれるとしたら、どんなお願い事する?

 わたしは、

 そうだなあ……

 あくまで今現在の気持ちだけど、時を戻したいとかはあまり考えてないなあ。

 二つあってね、なかなか決められないんだよね。

 とか考えていたら、お姉ちゃんならなにを願うだろうなあって思ったんだ。

 わたしが願うとしたらね、聞いたら呆れちゃうかも知れないけど、

 もう少しだけ強くなりたい。

 Fコードをしっかリ弾けるようになりたい。

 このどっちかなんだなあ。

 並べるなよ、って突っ込み入れたくなるかも知れないけど、でも苦手なんだよお、Fコードさあ。だって指がつるんだもん。

 あ、あ、でもさっ、でもというか、願いを一つに絞れる名案を思い付いたっ!

 お姉ちゃんにもギターを始めてもらってさ、ダブルギターにしちゃえばいいんだ。

 一石二鳥だ。これだけで、神様なんかいなくてもいくらでも強くなれちゃうよ。

 よおし、浮いた分のお願い事よりも前に、さっそくギターを弾いてみようかあ。

 お姉ちゃんが一緒にいるつもりでえ、

 ワンツースリーフォー……」



 小さなスピーカーから流れ始める、割れまくったギターの音。


 その音に、別のギターが重なってユニゾン。


 魅来がベッドに腰を掛けて、ギターを弾いているのだ。


 香奈の声に魅来の声が、

 魅来の声に香奈の声が、


「I live under the sun」


 震えるように、重なった。


 二人の、ギターの音。


 涼しそうに、澄ました感じに、でもどことなく楽しげな、そんな表情でコードを進行させている魅来。


 また、ゆっくりと口を開いた。




 ♪ ♪ ♪


 I live under the sun.


 I live under the moon.


 Even if I am not confident,


 there is no need to worry.


 You can wait for the time to pass.


 That's why it's not good not to do anything.


 What you can do now,


 I do not mind falling down to the bottom.


 ♪ ♪ ♪




 ピックをつまむその手に感情を委ねて、

 その感情に自然と手が動く。


 澄ました、落ち着いた表情は、

 一見仏頂面で冷たそうなのに、暖かそうで楽しそう。


 すべてを包み込むような表情で、魅来はギターを奏でる。


 そして歌う。




 ♪ ♪ ♪


 That's why I have to worry about it.


 I found out that I was together.


 About to forget even delightful things.


 Even if you are reborn again,


 I am sure we will be together.


 If you finish your ears,


 Be together,


 you see.


 ♪ ♪ ♪




 伸びのある高音が部屋を震わせて、曲の一番が終わった。


 小さなスピーカーから香奈のギターソロが流れる中、魅来はギターをベッドに置いて立ち上がっていた。


 指をパチンと鳴らすと、肩を揺らし、腰をひねり、踊りだしていた。


 軽快にステップ踏んでくるり反転、


 部屋を出て、


 パチンパチン鳴らしながら階段を降りて、


 廊下、


 玄関、すうっと扉が勝手に開いて、風に背中を押されて浮き上がるように飛び出すと、外は雲ひとつない青い空。


 眩しい光が降り注ぐ。


 くるんと回転、ふわり小さくジャンプ、


 着地と同時に、ぐっと握った拳を空へと力強く突き上げた。


 歩き出す。

 

 大きく大きく腕を振って、


 高く高く足を高く上げて、


 歌いながら。




 ♪ ♪ ♪


 Even if the world is over,


 there is no need to grieve.


 ♪ ♪ ♪




 くっくっ、と腰をひねり、


 両手の指を鳴らして、


 軽快なリズムで、商店街の通りを歩く。


 店の中から、次々と飛び出して来る中年男女。次々、次々、合わせ揃えて指を鳴らして足を高く振り上げる。


 ちょっと滑稽ではあるけれど、でもとっても楽しそうに、大きく手を振り、進む。


 空には太陽。




 ♪ ♪ ♪


 Cause every day I spent with you is gone.


 That's why it's OK to just laugh.


 What you can do now.


 ♪ ♪ ♪



 

 どんどん、どんどん、人が増えて、


 数え切れないくらい無数の男女、老人、子供たち、


 飛び跳ねるようなダンス合わせながら、進む。


 流れ続けるギターの音色に突き動かさるように、


 どんどん、どんどん、人が集まって。




 ♪ ♪ ♪


 To keep thinking of you.


 Wishing to be together


 That thought is going to strengthen the bond


 I found out that I was together.


 ♪ ♪ ♪




 たん、と軽くステップ踏んで、くるり素早く一回転すると、


 服を脱ぎ捨てるように、吹く風に背景がすべて吹き飛んで、


 広大な草原の中。


 草が風にそよそよなびく中を、踊って進むと、


 青い目、金髪、白人、黒人、色々な衣装を着て、

 どこの国だか分からないけれど、

 さらにどんどん人が増えて、


 広大な草原はあっという間に人で埋まった。


 みんな笑顔で、


 手を、


 足を、


 動かして、


 地を、


 揺るがして。


 どこもかしこも、


 人、


 笑顔。



 ♪ ♪ ♪


 About to forget even delightful things.


 Even if you are reborn again,


 I am sure we will be together.


 ♪ ♪ ♪




 地球。



 大きく、輝く、地球。




 ♪ ♪ ♪


 If you finish your ears,


 Be together,


 ♪ ♪ ♪




 「わたしがいる」


 そう、


 無数の人の、


 何億何十億の人の、


 笑顔が、


 世界が、


 地球になるんだ。




 ♪ ♪ ♪


 you see.


 ♪ ♪ ♪




 少女の拳が、力強く突き上げられる。




 ♪ ♪ ♪


 you see!


 ♪ ♪ ♪




 地球を、掴んだ。

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鼻がでかいからフラワー かつたけい @iidaraze

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