第6話
「こんな…事が、現実にあっていいの?!」
佐藤先生は、スケッチブックを持ったまま立ち尽くす。
看護師達は顔を見合わせるが、俺を床に押さえつける手は緩まない。
「だから、頼む。俺にそれを試させてくれ!」
俺は顔を、目一杯上げて佐藤先生を見る。
先生は口元に手をやったまま、固まっているようだ。
頼む、
「……め。駄目よ、
「な、そんな!?佐藤先生!それが彼女を助ける唯一の手段かも知れない。なんで…」
佐藤先生はスケッチブックを机の上に置くと、俺の方を見た。
「リスクは犯せない。これをやるには、彼女の命を繋いでいる呼吸器を外す事になる。そんな事は出来ないわ」
「先生!先生もスケッチブックを見た筈だ。なら、それが彼女の」
「無駄よ、
「そ、んな、バカな!彼女が俺に残したメッセージなんだ。
先生は首を振った。
駄目だ。
このまま此処を離れたら、俺は二度と
「う、おおおっ!」
「な、こ、この野郎!?」、「抵抗する気か?!」
俺は今、ガタイの大きい二人の男性看護師に押さえ付けられている。
恐らく、俺が押さえ付けられている力は、200キロ以上有るだろう。
だが、だから何だ!
ずっと待っていてくれた
今、俺は確信を持って言える。
ここで
「う、うがあああああーっ!」
「ゆ、優人君!?」
「うお?!」、「な、なんで!?」
俺が、俺しか、俺だけが!
ドカァアアアーッ
「うわああああ?!」、「はひ!な、なんで、馬鹿力なんだ!?」
俺はいつの間にか、俺を押さえ付けていた二人の男性看護師を吹き飛ばしていた。
「ゆ、優人君!?」
俺は、茫然と立ち尽くす佐藤先生の前を素通りすると、
「?!だ、駄目よ!止めなさい、優人君!」
俺は、
「
チュッ
俺は
ピカッ、ガガーンッ
その瞬間、窓の外が光り、雷鳴が聴こえた。
この時期には珍しい、季節外れの雷だった。
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◆佐藤医師視点
「まさかね。このような不思議な現象があるなんてね…」
私は、彼女のカルテを机に置くと、その隣に置いてあったスケッチブックを開く。
そして最期のページを開き、大きく溜め息をした。
【未来予知】
人間の潜在的意識は、まだまだ謎に満ちている。
私はきっと、その神秘の力の立会人になったのだろう。
あの時の優人君の
百キロ越えの二人の男性看護師に押さえ付けられた、見るからに一般的な細身の少年が最後に出したあの力は、一体何だったのか。
「何にしても、まだまだ今の現代科学や医療知識では、測れることの出来ない力が、この世には存在するって事よね」
私はスケッチブックを改めて、見直した。
そこには、白い病室のような所のベッドに、【まな】と書かれた少女が横たわっており、そして王子姿の【ゆうと】と書かれた少年が、キスをしようとする姿絵が描かれていた。
しかも部屋には、それを見守る白い服の女性と二人の男。
白い服の女性は私、なのかしら?
「ふふ、眠り姫…かしら…ね」
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「お兄ちゃん、行ってきます!」
「ああ、気をつけてな、
妹の元気な声が、家の玄関先に響く。
心なしか、妹が明るくなった気がする。
もう、妹を脅かす者はどこにも居ない。
いつもの朝の風景。
この地方都市は、豊かな田園地帯に囲まれ、その環境の良さから、様々な福祉施設が多く点在する。
その施設の中に、特別支援学校もある。
障害者等が「幼稚園、小学校、中学校、高等学校に準じた教育を受けること」と「学習上または生活上の困難を克服し、自立が図られること」を目的とした学校である。
俺は部活を止め、帰りはいつも、この学校の校門で彼女を待つ事にしている。
彼女を自宅に送り届けるのが、俺の日課になっている。
「【ゆうと!】」
「こっちだ、
彼女は、その長い髪をポニーテールにして、その愛らしい小さめの口で俺を呼ぶ。
その彼女の名前は、【
俺の最愛であり、今では俺の婚約者だ。
「ゆうと、ゆうと、ゆうと!」
「はい
「うん、せんせいがね、わたし、とっても、よくできましたって、おはなのまるをくれたの」
「そう、良かったね。凄いぞ、
「エヘヘ、ゆうとにもほめられちゃった」
結論からいえば、あの日、
だが、彼女の記憶は、五歳の当時のままだった。
【天の声】の事も、自分が長い間、眠っていた事も、何も判らなかった。
そして【天の声】は、その後は一度も聞こえた事はなかった。
その後、俺は、病院側や警察の事情聴取を受けるなど、いろいろと大変だった。
しかし、目覚めた彼女が俺にべったりで、また、彼女の御両親が俺の事知っていた事で、たいしたお
そして俺は彼女の御両親に、俺の体験した事や、今後は俺が一生かけて彼女を守りたいとの決心を伝えたところ、涙ぐんで俺の決心を喜んでくれ、そして俺の家族同士の面談の上、成人後の結婚の約束を許してくれた。
あの日、俺は、病室で彼女の
そして僅か数秒後、まるで俺がキスをするのを待っていたように、彼女の瞳は俺の顔を
佐藤先生や看護師達が、茫然と立ち尽くす中、彼女は俺に言った。
「【ゆうと】」
fin
天の声な君と 無限飛行 @mugenhikou
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