チラリズムのすすめ

高黄森哉

隠されたエロス


 マスクをつける人が普通になった未来。人々はマスクを脱ぐことに抵抗を覚える。コロナは大昔に収束した。それなのに、人々は口元をなぜ隠し続けているのか分からない。それは過去のトラウマかもしれない。コロナ禍にマスクを脱いだものは、つるし上げの憂き目にあった。もしくは、同調圧力かもしれない。はたまた、最初にこの新しい習慣を破れば浮いてしまうかもしれない恐怖からかもしれない。まあ、とにかく、人々はマスクを日常的に着用し続け、今に至る訳だ。


 するとどうだろう。マスクは衣服のような扱いに変化するのだろうか。もしそうなった場合を考えてみた人がいるらしい。彼、ないし彼女の論はこうだ。まず、衣服に隠されている部分にはエロスを覚える。なるほど、ほほう。次に、マスクで口元が隠されていることが日常になったとする。はあ。すると、口元に性的羞恥を覚える。


 面白い。SFとして面白い。アイデアとしてもよく出来てる。短編がかけそうなネタである。しかし、現実にそうなるとは考えにくい。揚げ足を取るのは無粋なのだが、こんなネタを、さも理論的であるかのように、ドヤ顔で解説する人がいるのが鼻につく。


 ツッコミどころとして思いつくのは、『逆なのではないか』ということだ。俺が、なにを言いたいのか。つまり、隠されている部分が恥ずかしいのではなくて、恥ずかしい箇所を隠したのではないか、と。それが下着なのだ。


 次に置き換えて考えてみる。今の時代に、普段、隠されている部位を露出させると、本当にエロスを感じるか実験すればよいのだ。例えば、ほとんどの人が隠したい、部分を堂々と晒す。条件はマスクと同じだぞ。人によっては隠れてなくても気にしないという点も一致する。




 それは禿頭だ。どうだ恥ずかしいだろ。なんて、まさか。

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チラリズムのすすめ 高黄森哉 @kamikawa2001

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