第10話「お姉さんと歩み」
翌朝、目が覚めると台所の方から音が聞こえてきた。
普段、朝は小鳥の囀りと近所の公園でやっているラジオ体操の音しかしないこの質素な部屋で聞こえてくる音。一緒に寝たことも忘れて、目を擦りながらロフトに降りるとそこにいたのはコンビニの可愛い店員さんこと柊琴音さんだった。
「あっ……政宗君っ、おはよ~~。さきに起きて朝ご飯作ってましたよ~~」
「……お、おはようございますっ」
「勝手にごめんなさい、でも元気出るかなって思ってつくっちゃってました……」
「——いや、全然嬉しいですよ。ありがとうございます」
「じゃあ、もう少しでできるから準備して待っててくださいね!」
「はいっ」
爽やかに言ってくる彼女に俺は頷いて数分ほど待っていると、朝食がテーブルに並んだ。
普段は朝は取らないので少し新鮮だったが、バタートーストにベーコンと目玉焼き、そしてシーザーサラダの豪華朝ご飯に涎が垂れてくる。
「いただきますっ!」
「召し上がれっ」
パクリと一口、口に運ぶと絶妙な塩加減のベーコンとトーストのバター風味がマッチしていて、完璧だった。
「おいしいです!」
「えへへ、そう言ってくれるなら嬉しいですっ」
「柊さんもほら、食べてくださいっ!」
「えと……じゃあいただこうかな」
そう言うと柊さんは隣に座っていた俺の方に近づき、持っていたトーストとベーコンを反対側からパクリ。
ハムっと歯形がトーストに残り、少しだけ涎が糸を引く。
「えっ」
「ん~~、美味しいですね!」
「ちょ、これ俺のです! 柊さんのはあっちに」
俺が驚いてそう言うと彼女は身を寄せてきて、耳元で一言。
「既成事実です……私たち、付き合っているので」
「っ——」
いたずらな笑みに、いたずらな言葉、そして優しい声。
囁かれた言葉が強烈で悶絶してしまった。しかし、柊さんの追撃は終わらない。
「あ、スプーンとフォークももらいますね」
「ちょ」
掴んだのは俺がサラダとヨーグルトを食べるために口を付けたもの。だが、柊さんは迷うことなくパクリと一口。おかしいなと思い、彼女の手元を見てみるとフォークとスプーンはなかった。
「あ、あの……なんで柊さんのはないんですか」
「え、だってお付き合いしたら共有できるじゃないですか? 嫌でしたか?」
「ま、まぁ間接キスしているのは嬉しいけど……でも」
「直接が良かったですか? じゃあ——」
「えっ、ちがっ――心の準bんんn⁉」
唇が唇と触れ合い、ほんのりとした甘い味と優しいぬくもりが伝わってくる。少しするとねっとりとした舌が校内に侵入してきて、俺の感覚を狂わせる。次第におかしくなっていき、最終的に身を預けると糸を引いた彼女の唇が離れていった。
「美味しいですね」
「っ……いきなり、ずるいですよ」
「えへへ……彼女してますから!」
少し強引な彼女。
俺にできた初めての彼女はコンビニの店員さんで、ちょっぴり我が強いちょっぴりヤンデレなのかもしれない。
「名前、呼んでください」
「え」
「お願いします?」
「——こ、琴音?」
「はいっ! 政宗君!」
二人の物語は始まったばかりだ。
END
あとがき:ぜひ読んでね!https://kakuyomu.jp/users/fanao44131406/news/16817139556625052967
近所のコンビニ店員さんに「箸ください」と言ったら「私ください?」と勘違いされました、もうどうでもいいので「もらいます」って言ったら本当についてきた件。(G’s こえけん応募作) 藍坂イツキ(ふぁなお) @fanao44131406
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