勝負パンツ(完)【終わっちゃっ......た?】

「――お待たせ。どう? 浴衣似合ってる?」


 花火大会当日。

 待ち合わせ場所の会場入り口前に現れた幼馴染の姿に、思わず目を丸くした。


「おやおや? これは私の浴衣姿が超絶似合い過ぎて言葉を失っている、と解釈していいのかしら?」


 水色ベースの生地にレトロ調の傘が無数に描かれた浴衣に、ネイビーブルーの帯がいいアクセントになっていて、夏っぽい爽やかな雰囲気。

 髪もいつもと違い、いわゆる浴衣結びと呼ばれる形になっているので、いつもの口調で口を開くまでなぎさだと全然気がつかなかった。


「ほら、花火大会の夜は短いんだから、さっさと楽しむわよ」


 子供みたいな笑顔を浮かべながら俺の腕を引っ張り、夜店の並ぶ通りの方へと連れていこうとした瞬間、渚はバランスを崩して転びかけた。

 が、間一髪のところで俺が手を掴んで大事には至らなかった。


「......ありがと」


 咄嗟とっさの判断とはいえ、少々恥ずかしい行為をしてしまったことに我に返って手を放そうとするも、渚は目を逸らしたまま、その手を握り返した。


「......これなら、はぐれる心配もなくなるし、いいからこのまま握ってなさいよ」


 震える声音こわねで呟く渚に、俺は「ああ」としか言葉が出なかった。

 いつもより綺麗で色っぽく映る幼馴染の体温を感じながら、俺と渚は揃って歩き始めた。


 ***


「そういえばずっと気になってたんだけど」


 河川敷。

 次々に打ちあがる花火を見上げていると、隣の渚が口を開いた。


「あんたはいったいどんなお願い事をして、何の呪いをかけられたわけ?」


 俺は渚とほぼ入れ違いであの神社にお参りをし、同じように呪いをかけられていた。


「は? カレーが一ヶ月食べたくなくなる呪いですって? 何それ、そんなの呪いのうちに入らないわよ」


 呆れた表情で俺にかけらていた呪いを全否定する。

 言葉にすると一見対した呪いに思えないが、週に一・二回は必ず家の食事でカレーが出てくる俺にとってはなかなかの拷問だった。


「で、何をお願いしたの? いいから話しなさいよ」


 そんなもん、口が裂けても――


『渚とまた昔みたいな関係に戻れますように』


 ――なんて、こいつにだけは言えるわけがない。


「......まぁ、いいわ。ところで......さっきからなんで私の下半身ばかりちらちら見てるわけ?」


 無言を貫く俺に諦めたような嘆息をし、話題を変えてきた。

 俺は極素朴な疑問を尋ねてみると。


「......浴衣なんだから、そのくらい察しなさいよ、バカ」


 花火と歓声でギリギリ聞こえるくらいの小声で呟く渚は、顔を真っ赤にしてもじもじと体を揺らした。

 昨日でようやく呪いから解放されたというのに、好んで自らノーパンを選ぶとは――この幼馴染、何か良くない性癖に目覚めてなければいいが――


「......また来年も、一緒に見られるといいわね」


 フィナーレを迎え、激しさが増す花火を見上げる渚の横顔は、今まで見た中で一番艷やかで綺麗で――ベタだが見惚れてしまった。


*** 


 8月31日。

 夕飯を食べ終え、ベッドの上でごろごろしながら俺は、あと数時間で終わってしまう夏休みの思い出をふと振り返った。

 小学生の時みたいに――までとは流石にいかないが、俺と渚は花火大会以降も定期的に遊んだり、一緒に宿題をやったりと充実した夏休みを過ごすことができた。


 明日から新学期が始まっても、俺と渚の関係はしばらくこのままでいられるだろう。

 願わくば、せめて高校生活が終わるまでは続いてほしいものだ。


 ――ガラガラ!――

 ――ドタ! バタ!――


 人がささやかな幸せを願っていれば、ベランダの外から何やらデジャヴを感じる慌ただしい物音。

 俺はつい反応し、思わずベットから体を起こした。


「――どうしよう......私の上半身、ブラックホールに繋がっちゃったみたい!?」


 部屋に入ってくるなり、困っているはずなのにどこか嬉しさを一滴含んだような表情を魅せた渚は、俺を指差し、こう命令した。


「そういうわけだからあんた――今度は私のブラジャーになりなさい」


         完


         ◇

 最後まで読んでいただきありがとうございます!

 この作品はG’sこえけんに参加している作品です。

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隣に住む幼馴染みがパンツを履けない呪いにかかってしまったので、俺が代わりに彼女のパンツになりました。 せんと @build2018

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