鬼は涙を浮かべない
「真崎ぃーっ!早く早く」
澄んだ青い空。鮮やかな新緑。今日は最後の休日。
いや、最後というと語弊があるかな。でも、明日から仕事が始まるので、僕にとっては最後の晩餐といった気分。ちょうどこれから繁忙期で、次に屋代さんとのんびりできるのがいつになるか分からないから。
「だから、今日はのんびりピクニックなんでしょう?」
耳元に吐息を吹きかけられて、僕はびくっと飛び上がった。屋代さんは嬉しそうにクスクス笑う。
「ふふ、いつも真崎はすぐに真っ赤になりますねぇ。
さぁ、お弁当は私が持ちますよ。早く行きましょう」
麦わら帽子を片手で抑えて、駆けていく屋代さん。昨夜の雨露で草地が煌めいていた。
(白いワンピースに泥が跳ねてしまわないかな。以前みたいにGパンにすれば、よかったのに)
青空の下。彼女の白を眩しく思いながら、そんな心配をしていた。
空を染める雲に紛れて、うっすらと丸い月がこちらを見下ろす。僕はあの夜を思い出して、何かが溢れるような気がして、唾を飲み込んだ。深く静かに息を吐く。
この青空の先にあの星々があるのなら、この青は一体何なのだろう。光の波長で青く見えるのだから、ホントは何にもないはずだ。存在しないこの色にホッとするのは何故だろう。この気持ちは何なのだろう。どういう意味があるのだろう。
……なんて、答えのないポエムな思考に浸りつつ、彼女の方へと歩みを進める。ドロドロに見えた草地の土は、意外としっかり固かった。
月が綺麗なので おくとりょう @n8osoeuta
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