第2話 追放


 結局、私は追放してもらえなかった。


 兄が出て行くだけでなく、わたしとラム君が出て行くことを女性陣が反対し始めたのだ。


「エイリーンはこれまでずっと楽してきたじゃない。

 貴族だからって、不公平よ!

 だったら最後にごちそうが食べたい。

 あの従魔を料理してってよ。

 当然、お金も全部置いてってよね」


 お金にがめついティナは言った。

 戦闘以外のほとんどの仕事をこなしているのに楽?


 

「口ばっかりうるさくて、料理以外は役立たずじゃない

 非常食まで持っていくなんてありえないわ」


 それはルシアが何をやっても物を壊すから、注意するしかなかったんだ。

 あなたの壊した被害総額はすごい金額だよ。


 

「小間使いがいなくなると困るわぁ」


 ライラは貧乏男爵家出身で、苦労しているはずなんだけど戦闘以外は本当に何もしない。

 精霊の事だけ、かまけているのだ。

 一応、わたしはあなたより位の高い伯爵家の人間なんですけど。


 この3人とカイトはわたしより6,7歳年上で、冒険者を長くやっていて体力も経験も全く違う。

 兄も嫡男とはいえ、魔法士として戦闘訓練を子どもの頃から受けている。


 何の教育も訓練も受けず、どうやって彼らと同じ力を発揮できるというのだ?



「そんなの、できません……」


 これ以上、体を動かすのは無理だ。

 でも人里まで戻るのにラム君の力が必要だし、宿を借りるのにお金だっている。


「ぼくなんでも運びますし、リーン様を守ります。

 リーン様も、もうちょっとだけ頑張りませんか?」


 そうしないと食べられてしまうと彼の黒目がウルウルして、限界だったけれど何も言えなくなった。


 結局追放を言い出した勇者カイトも、発言を撤回した。



 勇者カイトだって人道的な考えから追放したかっただけで、本当はわたしの料理が食べたかったみたい。

 辛い魔王討伐の、唯一の楽しみらしい。


 それに彼のことを責めることはできなかった。


 カイトもなんだかかわいそうなのだ。

 勇者パーティーといえば、普通はハーレムなのにね。

 兄がいるからテントは男女で分かれてしまうから、イチャイチャするチャンスなんてない。


 それにこのパーティーの女子たちはちょっと、いやかなり個性が強いからね。



 ティナの見た目はすごくかわいいのに、欲張りでお宝見つけると目的を忘れてそっちに行ってしまう。

 偵察に行ったはずなのに帰ってこないので探したら、宝箱の魔獣ミミックに食べられそうになっていたことは1度や2度じゃない。


 あと、みんなで分けるはずのお宝をかすめて、隠し持っていた。

 返せと言われて、すごい舌打ちするんだ。


 だからパーティー資金や得た宝物は、私が管理をしている。

 兄やカイトだと、彼女にスリ盗られそうだから。

 ラム君の収納から盗めるほどのスキルは彼女にない。

 これがわたしにムカつく理由だろう。



 ルシアはすごい巨乳美人なのに、触ったものを何でも壊してしまう天才だ。


 基本優しいカイトだって「聖剣だけは触らないでくれ!」って叫んでいた。

 兄は彼女に何も触らせない。

 もうすでに杖を1本折られたからだ。


 私も鍋や調理器具、食器を何度も壊された。

 だって食べる時に、触らない訳にはいかないものね。

 それでも毎回お皿を割って、カトラリーを折る方がおかしいと思う。


 気を付けてって何度もお願いしたけど、直す気はないみたい。

「エイリーンったら、教会のシスターみたいに口うるさい」


 こんなことを言われたから、もう諦めている。


 ちなみに鍋や調理器具、食器は買えそうな町や村がくれば、買い足してラム君の収納に入れてもらっている。

 そのお金は彼女に渡す報奨金から差っ引く計算になっている。

 これがわたしにムカつく理由だろう。



 ライラは神秘的な美女だ。

 もしかしたらルシアよりも聖女っぽいかもしれない。


 使役している精霊が彼女よりレベルが高くてすごく強いんだけど、彼女に恋しているから守護がオーラとして感じられるからなんだ。

 どうも毒付与スキルは、彼女の精霊が誰も近づけないように与えたものらしい。

 たまに彼女がよそ見をすると、周りが被害を被るので迷惑だ。


「わたくしが美しすぎるのが罪なのね」

 彼女はこう思っているみたい。


 兄もカイトも、彼女よりわたしに声をかける。

 それはわたしが体の具合が悪いのと、子どもだからだ。

 なにより彼女に近づくと命の危険がある。

 だけどそれがすごく不満なのだ。

 これがわたしにムカつく理由だろう。


 彼女はもう一生、あの精霊ヤンデレ以外のヒトとは結婚できない。

 すごいナルシストだし、まぁいいか。

 触らぬ精霊に祟りなしだ。




 魔王領での戦いは、それまでと違ってあまり余裕がなかった。

 本当に大変だった。

 魔族の抵抗はこれまで以上に、すごかったのだ。


 ほとんど食材を得ることはできなかったので、ラム君の収納の食材は空っぽになってしまった。


 みんなはわたしが眠った(と思っている)夜に、とうとうラム君を食べるかどうか相談していた。

 わたしはかわいい彼を食べたくない。



 だからそうなった時には、誰にも黙っていた自分の魔力で好きな食材を出せるスキルと使うつもりだ。

 今ではスキルが成長して、前世で食べた料理が出てくるんだ。


 これを黙っていたのは、一生料理を出し続ける便利な人間として使われそうな気がしたからだ。



 兄のことは嫌いじゃないが、妹の命や身の安全よりも自分の食欲を選ぶなんてやっぱりおかしい。


 カイトだって、あの追放は帰りたがっている私へのポーズの可能性が高い。

 すぐにひっこめたのが、その証拠だ。


 ティナは食費が浮けば浮くほどいいし、ルシアは治癒魔法以外破壊行動しかできない。

 ライラは精霊のこと以外考えたら、周りの命が危ない。

 3人ともわたしを見下すことで自分を保っていて、こき使うのを楽しんでいるのだ。


 だから私やラム君がひどい目に遭っても、助けてくれないと思う。

 むしろもっと悪いことになるかもしれない。



 そんなこんなでわたしたちはとうとう魔王城の魔王の間までやってきた。


 魔王はそれはそれはキレイなグリーンドラゴンだった。

 わたしとラム君以外のみんなが戦ったが、全然かなわない。

 さすが魔王!


 でもわたしから見たら食材だった。

 食材ならば、たおせる!

 斃したら、もう戦わなくていい。



「ドラゴンステーキ‼」

 私が包丁振り上げたら、グリーンドラゴンはプルプル震えて「助けて欲しい」って泣き出したんだ。


「あなた、喋れるの?」


「はい、包丁怖いです。

 言うこと聞きますから、食べないでください」


「でもドラゴンステーキ、食べたかったんだけど……」


「おれは空も飛べますし、いろんな魔法もつかえます。

 植物育てるのも得意です。

 お願いだから、助けて!」


「うーん、でもみんなに迷惑かける魔王だし……」


「魔王領で飢饉ききんが起こって、ご飯が食べられなくなったんです。

 それで一部の魔獣や魔族が、外の国から奪い始めました。

 だからおれが魔王になって、植物育ててみんな飢えないようにしようってところだったんです」



 よく見ると、魔王の間は畑になっていた。

 私たちとの戦闘で、ぐちゃぐちゃになったのだ。

 それで一応、ラム君に確認を取った。


「ラム君、グリーンドラゴンの言うことは本当?」


「はい、飢饉は本当です。

 それにこの間まで、違う魔族が魔王でした」


「この子が死んだらどうなるの?」


「魔王領は二度と復活しません」


「だったら、殺しちゃダメだね」



 すると兄たちがブーイングし始めた。


「何言ってるんだ⁉」

 兄が驚愕した。


「魔王を斃さないと討伐が終わらない!」

 カイトが本音をもらした。


「それじゃあ、報奨金出ないじゃない!

 タダ働きなんて嫌よ‼」

 ティナはお金だけだ。


「このまま教会に帰ったら、文句言われるわ

 勝手なこと言わないで‼」

 教会でも破壊行動ばっかりで、追い出されて冒険者になったんじゃなかったの?


「どうでもいいけど、小間使いのアンタが決めないで!」

 ライラは精霊のこと以外、考えると危ないものね。

 っていうか、わたしは小間使いじゃありません。



 なんかみんな自分勝手だな。

 魔族だって、自分たちが生きるためだったんだ。

 襲ってきたのは悪いけど、自分たちで何とかしようとグリーンドラゴンを王に据えたのだ。


 そういえば魔王城の魔族たちはとにかく必死だった。

 この畑を守りたかったのかもしれない。

 でも私たちが壊してしまった。


 このグリーンドラゴンを斃してしまったら、本当に二度と戻らないかもしれない。




「グリーンドラゴン、わたしと従魔契約しよう。

 あなたの名前はアルファルファよ

 長いからルファ君ね」


 すると彼の体が光って、私の肩に乗るぐらいのミニドラゴンになった。


「ラム君、わたしを乗せて!

 ルファ君はラム君ごと、私を空に飛ばして!」



 すると兄が叫んだ。

「リーン、いったいどこに行くんだ!」


「このままだと魔王領は死の土地になる。

 だからわたしは彼らと行くわ。

 お兄さまもカイトも、魔王城を明け渡すんだからもういいでしょ。

 みんなもそれで、金でも名誉でも手に入れればいい。


 わたしはわたしを利用するだけの家族も、仲間もいらない」



「違うんだ、リーン。

 私はお前も、お前の料理も大好きなんだよ」


 ここまで来て、まだ料理か。


「エイリーンちゃん。

 君だけがこのパーティーのオアシスだった。

 俺は君を愛しているんだ。

 君が子どもだったから、言い出せなかったんだ」


 わたしがこき使われて見下されていても平気なのに?



 兄もケインも叫んでいたけど、とても信じられなかった。

 だったらあの時、どうして追放してくれなかったの?

 わたしはもう限界で、今だって無理をしているのよ。

 本当はその方が都合がよかったからでしょ。


 他の3人はわたしよりも自分の方が大事で、魔王城を手に入れたことで良しとするつもりらしい。



 そうしてわたしは、ラム君とルファ君と逃げたのだった。


 逃げる先は決めていなかったけど、ルファ君がもともと住んでいた土地がとてもいい場所だった。

 彼はわたしのために、魔法で素敵なお城を建ててくれた。



 そして今わたしは少しだけ困惑している。

 ラム君とルファ君が人化して、ものすごいイケメンになってしまったからだ。


「リーン様、美味しいお茶が入りましたよ」


 ラム君は、黒髪黒目の執事の姿になっていた。

 モフモフ姿もよかったのにな。

 でもお茶の入れ方は完璧だ。

 わたしが教えたからね。


「リーン様、畑の手入れがすんだよ」


 ルファ君は黄緑の髪に緑色の目の騎士になっていた。

 休日畑仕事を手伝ってきたようなラフな姿だ。

 ミニドラゴンもかわいかったのに。

 でも魔王だからか風格がすごい。


「「どっちが好き?」」


「どっちも好きよ。

 さぁ、みんなでラム君の入れてくれたお茶を飲みましょう。

 ふたりとも早く座ってね。

 わたしがスキルで異世界のおいしいお菓子を出すから」



 彼らはわたしの出す料理やお菓子が大好きだ。

 それにわたしを死地に追いやったりしない。

 大切な人として、一番に守ってくれる。


 落ち着いたら世界中を巡って、おいしい食材と料理を探しに行こう。

 そう言ったらすごく喜んで、付いてきてくれると言った。

 だからわたしも、彼らのために生きていこうと思う。



 兄たちがあの後どうなったかは知らない。

 よく考えればパーティーの資金も、換金前の宝物もラム君の収納に入れっぱなしだった。

 みんな凄腕冒険者だったから、なんとかなったよね。

 もう関係ない。


 戻ったらもらえるはずの、わたしの報酬の代わりに旅行資金にしよう。



 とにかくどんなに願っても追放してくれなかった彼らを、わたしの人生から追放したことに後悔は全くなかった。




 おしまい


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7/2 一番最後の文章の、わたしの世界からわたしの人生に修正しました。

さすがに世界は同じままでした。

 

 

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お願いだから、私を追放してください! さよ吉(詩森さよ) @sayokichi

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