第11話 "猫被り"と天敵(アレルギー)

(やっちまたあああ!)


 翌日。

 例によって泉見からの呼び出しに拒否なんぞ出来ず、渋々分校へ向かう事になった青人。


 他の役員を使えば良いものの、会長自ら同行する辺りが、何とも泉見らしい。ここは藪蛇には是非気をつけたい。


 さて、という事で電車で片道数十分、鉄道を乗り継いで平地な住宅街にある横浜統合西校に到着した訳だが。


「ふむ、なんとまあ、思ったより酷い有様ね」


 指定居住区の西地区。元々それほど人口密度は高くないため建物自体多くはないのだが、それにしても随分と刈り取られたものだ。


 駅前の小さなアーケードですらゴーストタウンの様相を呈しており、夏だと言うのに妙な冷気を感じる程。


 昔、この辺りに住んでいた青人としては複雑な感じだ。別に思入れなんぞ無い街だったが、ここまで侵攻の跡が生々しいと、何とも言えない。


「居住区として既に黄色信号ってところね。被害者数がこのまま上がれば横浜としては初の居住区消滅かも」


「そこまで来てたんですね。そりゃ人が出歩かない訳だ」


「まだ時間帯は夜に限られてるみたいだけどね。さ、行きましょ、あたしたちも」


 歩き出した泉見に続き、青人も西校へと歩みを進めてく。途中小さな公園がいくつかあったが、夕刻にしては酷く閑散としていて、改めて侵攻の深刻さを伺えた。みな、夜につれて外に出なくなっているのだ。それは事態がもう喉元まで到達している事を示している。


「これはちょっと、骨が折れそうかもね」


 静かに呟いた彼女の言葉は、異能がなくても十分に青人へ響いた。


 ###


 事前に連絡を取っていた西校の生徒会役員が泉見たちを出迎えて、挨拶や報告等を済ませ一息ついたのは、丁度17:00だった。


「完全な下校時間の短縮も、精々18:00くらいが限界なんですね。これを機に授業含めた全部リモートにしたらいいと思うんですが」


 案内された生徒会室で、西校の生徒会長を待ちながら2人で状況を話し合う。出された緑茶を上品に飲んでいる泉見は、少しばかり声を潜めて言う。


「生徒数が過剰に多い分、色々大変みたい。一応学校側のサーバを大きくする申請も出してるけど、それだけで改善するか分からないの」


「なるほど……」


「人の規模が大きくなると、なかなか様式を変えるのは難しいの。仕方ないけど、歯痒いわ」


 軽い気持ちで言った現地調査だが、いざ自分がやってみると考えさせられる事が多く、責任の重要さを目の当たりにする。

 こんな仕事を生徒会は賃金も出ず、半ばボランティアでやっているのだ。頭が下がる事この上ない。


「でも、大体事態は掴めた。後は対策を早急に進めれば被害は少なくなるかもしれない」


「…何か良い策があるんです?」


「ええ。君もこの機会に覚えて貰えると助かるわ。原因さえ分かれば後はこちら次第だって事」


 少しばかり不敵な表情を泉見が見せる。それはいつもの愛想の良い笑顔でなく、どこか勝気で挑戦的な笑み。彼女に掛かれば解決は時間の問題、という事か、と青人は思った。


「さっそく事態を整理してみましょ。何故西校だけが被害が増えていて、時間帯が夜に限られているのか」


 ここから先は、猫被りは要らない。

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横浜異能(テレパス)〜細かいところしか伝わらないラブコメ 西園寺絹餅 @taneyuuki

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