星空食堂【フリー台本】

江山菰

星空食堂

*登場人物(名前は便宜上付けているだけ。演者の任意で変更可)

冬生(ふゆき)・・・27歳くらいの男性。1人で山奥で食堂を経営。ややワイルド系。

秋生(あきお)・・・20歳くらいの男性。冬生の血のつながらない弟。素直で真面目。


*演技・編集上の注意

・作品ジャンル:ファンタジー寄りのヒューマンドラマ。性別や演じ方により恋愛風味になる可能性も。

・指定していない箇所のSEは任意で。

・声を張ったアニメ風の演技、鼻濁音厨、吐息厨風演技は不可とします。

・ゆったりした空気感を意識して演じて下さい。間を指定したところはしっかり間をとってください。



*以下本文


場:山道を走る車の中

SE:車の走行音


冬生「元気がないな。山道で酔ったのか」


秋生「いや、そうじゃなくて……(元気なく)ごめん、迷惑かけて……相続放棄したら家も貯金も全部なくなって……」


冬生「いいって。部屋なら余ってるし、店手伝ってくれるなら願ったり叶ったりだ」


秋生「ほんと、ごめん」


冬生「俺は養子離縁届を出されてたからいいけど、あの借金の額と業者の性質たちの悪さ考えたら、誰だって相続放棄するって。でも、なんでもっと早く連絡しなかった?」


秋生「何を?」


冬生「大学辞めて母さんの病院代でアルバイト掛け持ちしてたのとか、介護も看取りもほとんど一人でやったのとか……若いのに苦労したな」


秋生「だって、俺、母さんの実子だから面倒見なきゃ……母さんは冬生さんの貯金勝手に使ったり、暴力振るったり、養子縁組を勝手に解消したりひどいことやってたし……だから、家を出た冬生さんには頼れないって思って」


冬生「俺の父親が秋生の母さんに借金おっかぶせて蒸発したんだから、あんなクズの血を引いた連れ子の俺は、母さんに嫌われても仕方ないんだ」


秋生「仕方ないとしても、母さんがやったことはアウトだよ。ごめん」


冬生「秋生の『ごめん』は聞き飽きた。……さあ、もう少しで着くぞ」


SE:車が止まる音、車のドアが開閉する音、夜の森の音、カフェっぽいドアを開ける音。


冬生「もうすっかり暗くなっちまったな。さて、ここが秋生の新しい家兼職場だ」


秋生「なんかレトロな雰囲気でいい店だね」


冬生「いいだろ。リフォーム大変だったんだぞ。さあ荷物を置こうか」


秋生「えっと、どこに」


冬生「こっちこっち。このドアから向こうが住居になってんだ」


SE:次の台詞に合わせてドアや襖を開けたり閉めたり階段を上がる音を入れる。


冬生「(案内しながらなので、少し間を開けながら)ここがリビング。ほら、このソファ、俺が作ったんだぞ。ベッドのマットレスにマルチカバーかけただけだけどなかなかいいだろ。俺はここで寝てる。んで、こっちが風呂。そっちがトイレ。キッチンはリビングの奥にちっこいのがあるけど、だいたい店のほうのを使ってる。それから、秋生はこっちの部屋使うといい。布団は押し入れに入ってる。一応客じゃないんだから、自分で敷いてくれ」


秋生「うん、わかった。ありがとう」


冬生「秋生の家なんだから遠慮せず、冷蔵庫とか風呂とか自由に使っていい。で、腹減ってないか」


秋生「ううん、あんまり」


冬生「そりゃだめだ、胃の調子が悪いんじゃないか? 秋生一人でいろんなことしょい込んでたもんな。なんか作るから、荷物置いたら店の方に来い」


秋生「ありがとう」


SE:襖を開け、去っていく足音。


秋生「ああ、疲れた……(うつろに)俺の荷物って、スーツケース一個に収まるくらい少なかったんだ。楽でよかった」


SE:障子、またはカーテンを開ける音


秋生「……ものすごい星空だ……こんなの初めて見た……吸い込まれそうで怖いくらいだ……」

秋生「(大きなため息をついて)冬生さんの顔見ると、つらくなる……母さんは俺には優しかったのに、鬼みたいな顔して冬生さんを蹴ってた……冬生さん、中学生だったな……やり返そうと思えばできたのに、されるがままだった……父さんのこと、負い目に思ってたんだろうな」


冬生「(間。遠くから呼んで)おーい、秋生ー! ご飯だぞー」


SE:ドアを開け、廊下を歩く足音、食器の音


冬生「今日はいい星月夜だから、テラスの方にしよう」


秋生「あ、ガスランタン。ロマンチックだね」


冬生「男二人二人でロマンチックも何もないけどな」


SE:山のざわめく音、目の前に食器をやさしく置く音


冬生「あり合わせで悪い。葬式でしばらく店開けてないし仕入れにも行ってないから……とにかく、食べよう。ほら、座って」


秋生「え、これ冬生さんが作ったの? 1人で?」


冬生「なに意外そうな顔してんだ。これでも調理師免許持って食堂経営してんだぞ」


秋生「もっと、こう……家系いえけいみたいな盛り付けのを想像してた」


冬生「俺だってシャレオツな器や盛り付けを研究してるんだからな」


秋生「うん、洒落てる。いただきます」


冬生「いただきます」


SE:食器の音、食べる音をしばらく適当に流す


秋生「この豚汁おいしい……」

※豚汁の読みは《とんじる》でも、西日本で主流の《ぶたじる》でもお好きな方の読みでOK


冬生「それ、ボタン汁」


秋生「ボタン? あの派手な花が咲くやつ?」


冬生「イノシシ汁のことだよ」


秋生「え、イノシシ? 自分でとってくんの?」


冬生「いや、近くに猟友会直営のイノシシ肉売ってるとこがあるんだ。で、買ってきて冷凍しといたやつ」


秋生「ふーん」


冬生「セリとかミツバとか、たまに鯉とかは自分でとってくるけど、さすがに肉はなあ。山暮らしのロマンがぶち壊しか?」


秋生「いや、……なんか、自然豊かでいいなあって思って……」


冬生「……この辺はイノシシもシカも出るし、窓から外をみると結構な割合でタヌキやリスと目があう。畑さえ荒らさなきゃ可愛いやつらだ。結構楽しくやっていけると思うぞ」


秋生「こんな山奥で儲かんの?」


冬生「おかげさまで、こういう料理食べたがってわざわざ街からくる客もいるし保存食の通販もやってるんで、贅沢しなきゃ生活には困らない。かえって手伝いの人員が欲しいとこだったから、安心してここに居るといい」


秋生「うん、……ありがとう(無口になって、しばらくして鼻を啜って)」


冬生「はい、ティッシュ」


秋生「ん……(鼻をかんで少し嗚咽)ごめん、なんか、急に……」


冬生「(間を置いて、秋生の嗚咽に被せて優しく)これまで介護とか葬儀とか慌ただしすぎて、自分の気持ちは後回しになってたんだろ。気を抜いたときに、どっとくるもんだ。店の手伝いは落ち着いてからでいい」


秋生「(涙声で)うん……(しばらく嗚咽し続け、間を置いて嗚咽をこらえて)冬生さん」


冬生「何だ」


秋生「(ところどころ鼻を啜って)冬生さん、その……何ていったらいいかわからないけど、ものすごいイケメンだよね」


冬生「(きょとんとして)……なんだいきなり」


秋生「(ちょっと鼻を啜って)……なんか、その、人柄……っていうか……性格」


冬生「うんうん、イケてるだろう? (笑って)この顔も足の長さもイケてるぞ?」


秋生「(ちょっと笑う)」




――終劇。

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