クロスXロスク
高黄森哉
出会いと別れ
ぼんっと、胸に女性が飛び込んできた。彼女は酷く汚れていた。死線をついさっきにかいくぐってきたようなボロボロの格好をしていた。
「本当にありがとうございました。今までお世話になりました。今度は私が恩を返す番です」
俺は意味が分からなかった。そもそもこの女と面識がないからだ。
「今から、あなたには私を救ってもらいます。過去の私です」
「なんだ、電波か?」
「ついてきてください」
そういって案内されたのは裏路地だった。
「おいおいおい」
「これから、私がレクチャーをします。これを持って」
「これは?」
「これは銃です。それも未来の」
「過去に行くんじゃなかったのか」
俺は彼女を冷やかした。電波だとしても設定が甘すぎる。
「違います。未来へ行くのです」
「ほう、どうやって」
「歩いて」
俺は鼻で笑った。
「不可能だ」
「今にとどまり続けることだってまた不可能です。今この瞬間だって未来へ順航し続けている。私だって、もうそろそろ行かなければならない」
「俺だって仕事がある」
「私を救う仕事」
「いや違う。企画を提出するんだ」
「いいえ、違います」
私を救うのです。そう言った時だった。六人の黒服がかけてきた。
「撃って」
「ばん、なんてな」
俺が引き金を引いた銃はことりとも言わなかった。その代わり目標物は派手な音をたてて爆発した。あと五人。他も銃を構えている。俺のと同じ形だ。これは派手にヤバいことになったんじゃないのかな、と分かり始めてきた。
「ほら、生きましょう」
「お前は一体、なんなんだ。ちくしょう、犯罪に巻き込みやがったな」
「この路地を先に行ってください。それと、私にその銃を渡すようにと」
女は跡形もなく消えてしまった。俺はなんとなく従うことにした。現に黒服をころしてしまったし、彼等もどうやら俺を追ってるようだ。いかなる理由かは知らない。だから知っている人間の言いなりになるのが吉だ。そして、俺は路地を曲がった行き止まりにたどり着いた。そして行き止まりには女がいた。
「は。どうも」
「この銃をお前に渡せと」
「貸してください」
凄い勢いで乱射した。曲がり角で俺たちを認めた黒服の五人は血の海と化した。俺は、こんな女に、こんな物騒なものを渡しておけない、と考えて取り戻そうとする。
「ちょっとやめてください」
「これは俺のだ」
「もともと私のですが」
「ふざけたことを。そもそも一体どうなってるんだ」
「それはてっきりあなたが知ってるものだと」
「お前が連れてきたんだろ」
「違います。誤解です。私は急いでします。過去、つまり未来のあなたに銃を渡さなければならない」
「そうかい。じゃ、渡してくれ」
「それでは。大通りで会いましょう」
また消えた。俺は赤い血だまりを通過し、大通りに向かった。赤い足跡が俺の後ろにクッキリと残されている。
「これを履いてください」
女は車に乗っていた。大型のラクジュアリークーペだ。
「なんでも知ってるんだな」
俺が靴に血を付けたとき、コイツはその場にいなかったはずだ。
「いいえ、あなたが教えてくれたんです。そして未来の自分に靴を渡すように、と」
「そうなのか。さて、銃を返してくれ」
俺は靴を履き替える。
「まだ、だめです」
「ついさっき慌てた様子で、銃を渡さなければいけないって話したろ」
「それは、………… そうしろ、と言うことですね。分かりましたそうします」
「分かったか。貸してくれ」
「いいえ」
「支離滅裂だ。下ろしてくれ」
バックミラーを見ると、後ろから車が迫ってきていた。黒いセダンだ。えらい角ばっている。
「また変なのが来たぞ。何とかしろ」
「そら」
女は車をぶつける。すると、セダンは対向車線にはみ出て、そのままタンクローリーと正面衝突した。
「そろそろです。運転を変わってください」
「なんで運転免許を持ってると思ったんだ」
「あなたが話してくれたからです」
「そんなことを話した覚えはない」
「では、そうしてください」
またしても女は消滅。慌てて助手席から運転席に乗りなおした。何処へ進めばいいのか迷ってる内に女が助手席に現れる。
「私に代わってください」
「なんなんだ。そそっかしい奴だな」
「運転免許を持ってらしたんですね」
「そうだ。その通りだ。知ってるだろ、だって本当についさっき話したじゃないか」
「では、そうします。あら、車をぶつけたんですね」
「お前がぶつけたんだ」
「それまたなぜです」
「お前がハンドルを切って、車を追ってにぶつけたんだ!」
そんなかんやでたどり着いたのは怪しげなビルだった。
「この鍵を私に渡してください」
「これはどこで手に入れたんだ」
「あなたが持ってきてくれました」
「つまりどういうことだ」
「あなたが過去の私に手渡したのです」
まて、つまり、ということは。ようやく状況が飲み込めてきた。コイツは時間を遡行してるんだ。だからうまくかみ合わなかったんだな。
「まてまて。ようやく状況を理解できたが。じゃあ、その鍵の出所はなんだ。俺が受け取って、未来になってお前に渡して、お前は過去に飛んで、俺に渡す」
「今となっては不明です」
「そんな馬鹿なことがあるか」
「ごめんなさい」
うつむいてしまう。この女がちょっと頼りなく思えてきた。それもそうだろう。俺が未来に進むほど、こいつの過去に遡ることとなる。つまり、俺の経験と真逆に、こいつは事態を飲み込めなくなっていくわけだ。ということは、俺は最終的に、コイツを俺の過去へ導かなければならないのか? こいつの未来のために奮闘するのか?
「コレを手渡せと」
それは日本刀だった。未来の俺が、俺へリクエストすることとなっているらしい。ということは、何とかこれ一本で切り抜けたのだろう。結果は保証されている。あとは自信を持つだけか。
「次は俺の車の助手席にのれ。運転席には俺がいる。靴も用意してくれ。血を踏んでな、滑るからな」
「了解しました。あ、あと敵は三人。上上下です」
「上上下? ああ、分かったよ。上上下な。了解」
そう言い残して霞になる。同じところからユラリと現れる。
「戦いましょう」
彼女は日本刀を持っていた。俺に手渡すことになる、日本刀である。すなわち、俺が今手にしているものと全く同じだが、違う時間軸のものだ。
そして突入する。まだまだ俺たちの戦いは始まったばかりだ。これからどんな物語が待ち受けているのだろう。コイツの過去、すなわち俺の未来に何があったのだ。そして、コイツからどんどん俺といた時間が消えていくことに対し、その逆を行く俺はどう思うのだろうか。戦いにまつ真実は。そもそも時間遡行とは。それは、これから遡ればいい話。
「いくぞ!」
そして俺たちは走り出す。俺の過去のため、そして俺の未来のために。
「やー!」
〈つ・づ・か・ない〉完
「続いてたまるか!」
クロスXロスク 高黄森哉 @kamikawa2001
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