第5話 囁く愛してるゲーム
灯の秘めた想いを知った俺は、嬉しかった。
いつも一緒にいても、分からないことが多かったから。
小学生の頃であれば尚更だろう。
初めての体験、初めての出会い、初めての喜び、初めての悲しみなど、誰でも初めての物事がある。
特に感情というものは小さい頃であれば、コントロールできずに振り回されてばかりだと思う。
彼女が俺にくれたものは、一生の宝物だ。
改めて、大切にしたいとそう思った。
一緒にいる時間が心地良い。
幼馴染ということもあるからなのか、静かな時間が続いても、安心感がある。
どこに安心しているのかは分からないが、落ち着く。
「マジ眠たそうだね。私の膝、貸してあげる」
「え、でも……」
「なに遠慮してんの? 私たちもう……付き合ってるん、だよ? これくらい誰でもするでしょ?」
灯は膝を叩いて誘惑する。
眠気が限界に達すると、俺は膝にゆっくりと頭をのせて楽な体勢で横になる。
灯は陸上部に入っているからか、とても力強くしなやかな足をしていた。
風呂に入ったばかりだからか、ほんのり温かい。
「ね〜んね〜、ころ〜り〜よ〜」
「懐かしいな、それ」
「覚えてるんだ。都市伝説のこれ」
「その子守唄を聞くと、嫌な夢を食べてくれるバクが夢で現れるってやつだったか?」
「確か、ユウの家のリビングでやったんだよ。小学生の頃に」
そうだったかと、自分は記憶にない。
もしかしたら、都市伝説が本当にあって夢見心地が良かったのかもしれない。
そんなことある分けがないという気持ちもあるが、そうだったら面白いなと期待する俺もいた。
頭を撫でられながら、目をつぶる。
すると、寝てしまったのかと俺の顔を確認する灯を見て、寝ているフリをしてみる。
すると、灯が耳元で囁きだす。
「好き」
その言葉は、俺を安心させた。
好きでいてくれていることが、言葉になって伝わるから。
「マジで……好き……」
『マジ』を使い始めたのは、いつだったか思い出す。
(確か、小学生の頃に流行った魔法少女マジマジっていうアニメを見て、使うようになったんだったか?)
「何かに興味を持つユウが好き」
(俺のことを心から心配してくれたお前が好き)
「私の手を取ってくれたユウが好き」
(俺に手を差し伸べてくれた灯が好き)
「キラキラ輝く目をするユウが好き」
(誰よりも優しくて努力家な灯が好き)
「ずっと好きでいてくれたユウが好き」
(俺は灯りをその言葉よりずっと……)
「ううん……。そんな言葉じゃ表せられないくらい」
(愛してる)
「愛してる」
同時に気持ちが交差する。
俺はどんな顔をしているだろうか。
灯はどんな表情をしているだろうか。
目をつぶっているから分からないが、きっとお互い自爆している。
頬に熱を感じる。
きっと俺の彼女もそうだろう。
想いが俺の部屋の中でいっぱいになる。
ただ、この想いには応えたいと思った。
「ずっと手を離さないで、繋いでいてください」
耳元で囁かれたその言葉には、応えなければならない。
仰向けになり、右手を灯の頬に添える。
「逆だよ。あの時のように、ずっと俺の手をずっと繋いでいてくれ灯」
その言葉に、灯の顔は燃えた。
嬉しさと恥ずかしさが重なったのだろう。
「もう……。マジで、もうほんとに」
「ごめんごめん。でも、言葉にしてくれるのって、こんなにも嬉しいんだな」
「言っとくけど、私も嬉しいんだからね! マジで!」
その後、起きていたことに怒っていたが、俺が膝枕することで許してもらえた。
そのまま灯は寝てしまったが、寝顔を撮って携帯の待ち受けにする。
想い出を保存した俺は、告白したあの日を思い出す。
気持ちを伝えることは、容易じゃない。
そこにあるけど、伝えられないものだ。
だが、簡単に伝えられないものだからこそ、伝えるべきだと今は思う。
また伝えるだろう。
伝えなければ、分からないことのほうが多いから。
そう、告白のきっかけになった、あの愛してるゲームのように。
愛してるゲーム 歩く屍 @fb25hii
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