スペシャル
「ほら、行くよ」
俺は杏に手首を掴まれ、引っ張られながら電車の中へと入る──そしてロングシートに座ると、左に杏、右に凛ちゃんが座り、正面に飛鳥さんと早希先輩が立ち、囲まれる。
「えっと……何だか悪いことをした人みたいになっているの、気のせい?」
「ある意味、悪いことしてるでしょ!」と、杏は言って、頬を膨らませる。
「まぁ……そうだけど……何だか、目のやり場に困って落ち着かないなぁ」
「そりゃ、こんだけ可愛い子に囲まれれば落ち着かない気持ちも分かるけど、仕方ないじゃない。こうするのが平等で良いんだから。ねぇ? 皆」
杏がそう言うと皆、コクリッと頷く。凄く恥ずかしいけど……全員一致なら仕方ない。
何故こんな状況になっているのか? それは数ヶ月前に遡る──。
※※※
今日でこの学校の生活は終わりか……寂しいな。俺がそんな事を考えながら校門に向かって歩いていると、杏に飛鳥さん、凛ちゃんに早希先輩まで校門の前に立っているのが目に入る。
おぉ! 最後に見送りをしてくれるのか!! なんて笑みを零しながら歩いていると、皆の表情が強張っている様に感じた。杏に関しちゃ、皆の真ん中で腕組みまでして待ってるし……何だか嫌な予感がする。
俺はそう思い、ゆっくり方向転換を始めた──が、「こら~、蒼汰! 見えてるぞ~」と、杏に声を掛けられる。
俺は観念して「教師みたいなノリで、俺を呼ぶなよな」と、話しながら近づいた──。
「あなたが逃げようとしたからでしょ! その様子だったら、何か気付いたようね? 言ってみなさい」
「えっと──」
俺はゴクリと固唾を飲み、怒られるのを覚悟して「み、みんなに告白しました……」と、正直に話した。
杏は両手を腰に当てると深呼吸をする。そして「──あなたねぇ、中途半端な事をしないで気持ちを伝えた事は認めるけど、普通、皆にする?」と呆れる様に言った。
「だって時間ねぇし、みんな魅力的で決められなかったんだもん」
「だもんって……まぁ、そんな事だろうと思って、皆と話し合って、あなたが特別な人を決めるまで付き合ってあげる事にしたよ」
「え、本当!?」
俺の質問に皆、コクリと頷く。
「その代わり決めたら、ちゃんと皆に伝える事! 約束できる?」
「うん、そりゃもう!」
杏は不安げな表情を浮かべながらも、首を傾け「信用してるからね」と、優しく言ってくれた。
「うん」
「ところで、転校して落ち着いた頃、みんなで遊びに行くからね」
「分かった。楽しみにしてる」
──ってな訳で俺は約束を果たすため、みんなと一緒にウォーターパークに向かっているのだった。
※※※
ウォーターパークに着くと、俺達はそれぞれ更衣室に向かう──俺は着替え終わると、皆の水着姿を楽しみにしながら、広いプールの前で待つことにした。
──しばらくして、正面から横並びに4人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「蒼汰~、お待たせ」と、杏は言って手を振ってくる。
「おぉ……」
杏は白、飛鳥さんは白と紺色の水玉、凛ちゃんは赤、先輩は黒の水着で、タイプは……ビキニ? 良く分からないが、自分に合う形を選んできたようで、それぞれ似合っていて、眩しいぜ!
飛鳥さんはリング型の浮き輪を持ってるけど、泳げないのかな? そんな事を考えていると、杏は俺の前で立ち止まり、両手を腰に当て「どう?」と聞いてくる。
「そんなの決まっているじゃないか! 鼻血が出そうなぐらい、みんなセクシーで似合ってるぜ!」
「ふふ、調子良いんだから」と、先輩は言いながらも、満更でもないのか嬉しそうに微笑んでいた。
みんなもニコニコと笑顔を浮かべている。御機嫌のようで良かった! でも──周りの男たちの視線が痛いぜ!!
「えっと……まずはどうしようか?」
「さっき話し合ってね。時間があるし、まずは二手に分かれて遊ぼって決めたの。最初は私と飛鳥さんと蒼汰、次は先輩と凛ちゃん、蒼汰って感じでね」
「分かった」
早希先輩は手をあげると「じゃあ私達は適当に遊んでくるから、1時間したら、またここに集合ね」
「はい」と、俺が返事をすると凛ちゃんと先輩は奥の方へと歩いていく──俺は杏たちの方へと視線を戻すと「で、俺達は?」
「正面の広いプールに行きましょ」
杏はそう言ってプールの方へと歩き出す。俺と飛鳥さんも続いて歩き出した。
★★★★★
俺と杏は準備体操が終わるとプールに入った。横に広いプールだけあって人は然程、気にならないけど、飛鳥さんはゆっくりと足を入れようとしていた。
俺は飛鳥さんに近づき「大丈夫? 怖いの?」と、声を掛ける。
「うん、ちょっと」
「そう、じゃあ手を出して。俺が溺れない様に握っててあげる」
「あ、ありがとう」
飛鳥さんは恥ずかしそうに髪を撫でてから、俺の方へと両手を差し出す。俺は飛鳥さんの両手を握ると、ゆっくり歩き出した。
「ちょっと、蒼汰。なにシレっと女子の手を握っちゃってるのよ。浮き輪に付いた紐を引っ張れば良いじゃない」
杏にそう言われ、「あ、そっか」と気づく。俺が一旦、手を離そうと手を緩めると、飛鳥さんは、恥ずかしそうに微笑みながら「私は大丈夫だよ。むしろ……嬉しいかな」
「だって?」と、杏に向かって俺が言うと、杏は強張った表情で「──あ、そう。じゃあそのまま二人で遊んでれば?」と、素っ気なく返事をして、泳いで行ってしまった──。
俺は見送りながら「何だ、あいつ?」と言って、飛鳥さんの方に顔を向ける。
「まぁ良いわ。気にせず、二人で遊ぼうぜ」
「うん……」
※※※
数十分程、飛鳥さんと二人で遊んでいると、ふと飛鳥さんは浮かない表情をする。
「どうかした?」
「ちょっと休憩しない?」
「あぁ、ごめん。疲れたのか」
──俺は飛鳥さんを連れ、一緒にプールから上がった。飛鳥さんは邪魔にならない様にプールサイドの端に座る。俺も黙って隣に座った──。
「ねぇ、杏ちゃんの所に行ってあげないの?」
「どうして?」
「どうしてって……杏ちゃんが一人で行ってしまったの。ヤキモチだって、気付いてるんでしょ?」
「え? どうしてそう思ったの?」
飛鳥さんは苦笑いを浮かべると「顔に出てました」
「はは……ごめん」
「うぅん、大丈夫……私ね、泳げないからプールに行っても、きっと皆の邪魔になるって思ってた。だけど、あなたと遊べると思ったら、どうしても来たくなっちゃって……」
飛鳥さんはそう言って俺の手の甲に、自分の手を重ねる。
「私はもう大丈夫、十分、あなたと遊べたから。杏ちゃんの所に行ってあげて」
「分かった、ありがとう」
俺は御礼を言って立ち上がり、杏を探しにプールサイドを歩き出した──。
※※※
「おー、居た、居た。あーん」
プールの中で、杏の後姿を見掛けた俺は、そう声を掛けながら近づく。杏は後ろを振り向くと、一瞬、嬉しそうな笑顔を見せるが、直ぐに不貞腐れた表情を見せた。
「何よ。飛鳥さんはどうしたの?」
「休憩するって」
「そう」
俺は黙って両手を杏の前に差し出す。杏は眉を顰めながら「なに?」と素っ気なく言った。
「飛鳥さんと同じことをして欲しかったんだろ?」
──杏は何か言いたそうに口を開けるが、直ぐに口を閉じると俯き加減で「うん……」と、か細く答えた。素直になりきれていない所が、何ともまぁ……可愛らしい。
杏が俺の両手を握ると、俺は引っ張りながら、ゆっくり後ろに向かって歩き出す──。
「まったく……子供じゃないんだから、ハッキリ言えば良いのに」
「何言ってるの。子供じゃないから、素直に言えないんじゃない」
「ん? ──あぁ、確かにそれもあるか」
「でしょ?」
お互い笑い、いつものような和やかな雰囲気が漂う。杏は泳ぎを止めると「後で飛鳥さんに謝らないと」
「そうだな。そうしてくれると俺も嬉しいよ」
「うん」
★★★★★
約束の時間になり、今度は早希先輩たちと入れ替わる。
「先輩、まずは何処に行きます?」
「凛ちゃんが、あなたとウォータースライダーをやりたいんですって」
「先輩は?」
「私はさっき遊んだから良いわ。30分程、二人で遊んでらっしゃい」
「分かりました。じゃあ凛ちゃん、行こ」
「はい!」
俺達はウォータースライダーに向かい、最後尾に並んだ──数分して俺たちの番になると、係員さんが「カップル?」と聞いてくる。
凛ちゃんは元気よく手をあげ「はーい、カップルでーす」と返事をした。
「じゃあ、これね」
係員さんはそう言って、浮き輪を用意してくれる。凛ちゃんが前、俺が後ろに座るが……密着し過ぎじゃない!? 初めてという事もあって戸惑ってしまう。
「じゃあ、行ってらっしゃい」と、心の準備がまだ出来ていないのに係員さんが浮き輪を押すと、物凄い勢いで俺達は下っていく──最後に小さいプールにドボンッ! と、到着すると直ぐに、邪魔にならない様に端に移動した。
あっという間だったな──ドキドキはしているが……スリルからなのか、それとも触れていたからなのか、良く分からん!
「先輩、楽しかったですね」
「あ、うん。そうだね」
「また行きましょ」
「うん」
こ、今度は楽しめるかな?
※※※
こうして、しばらくウォータースライダーを楽しんでいると、時間になったのか先輩が現れる。
「早希先輩、もう交代の時間ですか?」と、凛ちゃんが聞くと、先輩は頷き「えぇ、そうよ」と返事をした。
「残念だな……じゃあ蒼汰先輩、私は杏先輩たちと合流して、遊んでますね」
「うん、分かった」
手を振りながら去っていく凛ちゃんを見送ると、俺は早希先輩の方に視線を向ける。
「先輩、どこで遊びます?」
「波の出るプールなんて、どう?」
「良いですね! 行きましょう」
俺達は波の出るプールに向かうと、ゆっくり奥へと進む。
「さっき、ちょっと来てみたんだけど、波に身を任せてプカプカ浮いていると気持ち良いわよ」
「本当ですか? じゃあ、やってみます」
先輩に言われた通り、体の力を抜いて仰向けになってみる──本当に気持ちいいや……って、しばらくそのままでいると、行き成り大きな波が俺を襲う。
「うわっ!」と、ビックリして、慌てて飛び上がると、「キャッ!」と先輩の声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか!?」
俺がそう声を掛けると、先輩のビキニの上がプカプカとこちらに流れてくる。先輩は腕で胸を隠して蹲っていた。
「Oh……」
じゃないだろッ! 先輩の豊満な果実がポロリしていて、ついつい見惚れてしまったぜ!! 俺はビキニを回収すると、先輩に持っていく。
「はい、先輩。俺……見ない様に隠してるんで、早く着けちゃってください」
「あ、ありがとう」
先輩がビキニを受け取ったのを感じると、俺はしゃがみ込み、周りに見えない様に両手で壁を作る──。
「よし……これで大丈夫よ」と、先輩が言うと、「あ~、蒼汰! 何をやってるの!?」と、後ろから杏の声が聞こえてくる。ゲッ! このタイミングで来るのかよ。
「澤村君は水着が取れた私を、隠してくれていただけよ」と、先輩がフォローしてくれる。俺は立ち上がり、後ろを振り返り「そうだよ」と返事をした。
杏は俺の前に立つと「蒼汰、先輩の露わな姿をジロジロ見てたんじゃないでしょうね!?」と言って、水を掛けてくる。
見惚れてはいたけど、ジロジロは見ていない! 俺は「そんな事しねぇよ!」と言って、お返しに杏に水を掛けた。
「ちょっと! 先輩、私にも掛かった~」と凛ちゃんは文句を言うと、俺に水を掛けてくる。
「ちょ、凛ちゃんまで、やめてくれ~」
俺がそう言うと、先輩が動き出し飛鳥さんに向かって「飛鳥さん、何をボサッとしているの? 皆で澤村君に水を掛けるのよ」
飛鳥さんはニヤッと笑い「はい!」と元気よく返事をする。
「え~!!!」
さすがに4人同時に水を掛けられたら敵わないと思った俺は逃げ出す──女子たちはキャッキャと楽しそうな声を出しながら、追いかけてきた。
あぁ……楽しい。楽しすぎて、本当に誰かを選べるか不安になるくらいだ。でも、いつかは誰かを選ばなくてはならない。その時まで……最高にエンジョイしたいと思う!
転校することを内緒にして過ごしていたら、そんなときに限ってモテ始めてしまった。みんな可愛くて決められないので、妹のアドバイスを採用して、転校する前に女子たちを家に呼んだら、全員来てしまいました。 若葉結実(わかば ゆいみ) @nizyuuzinkaku
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