第4話 予兆

T1に体を揺すり起こされるとそこは小さな飛行場だった。車から降りて体を伸ばして新鮮な空気を吸い込む。飛行場の周りは木々に囲まれていてここがどこだかはわからない。蔦に覆われた古い看板には日本語の漢字とアルファベットが書いてあるから一応日本だと思う。でも、数十年以上前に起こった第四次世界大戦以降各国の国の独自言語は無くなって新しくAIに開発された世界共通言語がメインになったから日本語とアルファベットが書かれた看板があるここは昔に廃棄された飛行場なのかもしれない。


「もっと古文の授業を真面目に受ければよかった」


「よければ飛行機で教えますよ」


T1がそういうが初めて乗る飛行機でわざわざ古文の授業をするのはちょっと嫌だった。


「それなら、地理教えてくれよ。俺、あの居住区から出るの初めてだし」


少し黙ったT1が少しして口を開く。短い間だが彼らを観察してわかったことだが。T1とN2は意外と規則違反をする。命令の中でも重要度の低いものは自分の判断で実行と実行しないことを選択している。本当に最新のアンドロイドなんだと思う。少し、悩んだ末にT1は口を開いた。


「まぁ、問題ないでしょう。貴方は知っておいた方が今後役に立つこともあるかもしれません」


「ありがとう。あと、N2はどこに行ったんだ?見当たらないけど」


「ああ、彼女は今機体を動かす準備をしています。彼女はあれが好きなので」


「T1が車の運転が好きなようにN2も好きなものがあるんだな」


「ええ、アンドロイドが不思議と思われるでしょうが。稼働している年月が長ければ長いほどそういう癖が出てきます。人は不具合と呼びますが」


「反応に困るな。何を言っても失礼な気がするし」


「貴方は本当に私たちを友人のように接しますね」


「嫌だった?嫌なら気をつけるけど」


「いえ、好ましいと思いますよ。人から生み出された私たちですので人は好きですから。貴方が敬語を使わなくなったのは貴方の敵対心が薄れたからだと認識しています」


確かに、あんなに混乱していたし大会に出られないのもすごくショックだったはずなのに今ではなぜか落ち着いている。親も友人も2度と会えないかもしれないのに、今はもうすでに新しい風景に心を奪われていた。俺は自分が思っているよりも薄情な人間なのかもしれない。


「T1、足立さん、機体の用意ができました。今から学園に向かいます。足立さんはその間に学園に対する基礎情報、新人類に対してT1から説明を受けてください」


「わ、わかった」


N2の後ろをついていくと、プライベートジェットにあたる小さな飛行機が滑走路のそばで待機していた。飛行機の中はソファーが四つあるだけの簡素な作りだった。でも初めての飛行機で内部を見て回る。座席の後ろについた小型のテレビや狭い通路、頭上の荷物置きもある。


「座席に座ってシートベルトをつけてください」


N2のアナウンスが聞こえて俺とT1が座ってシートベルトをつける。


「俺、飛行機初めてだ」


「そうだったんですね。これから長いですから飽きるくらいのんびりできますよ」


ゆっくりと飛行機が動き始めてエンジンの音とともに窓から見える速度が上がっていく。体がシートに押さえつけられるような感覚がした後にふわりと機体が浮いたのがわかった。景色があっという間に小さくなって耳の聞こえ方が変になる。


「水を飲むといいですよ」


そうT1にアドバイスされて水を飲むとマシになったがそれでもしばらくは違和感が残る。雲の上にでるとN2のアナウンスで機体が安定したと言われ、T1が参考資料の入ったタブレット機会を俺に渡して学校の授業の比にならないくらいハードな授業が始まった。具体的には情報量が多い、いや多すぎる。幸いT1の話は面白いから飽きることはないが今まで知らなかった学園の詳細や新人類に関しての情報が多すぎて頭がパンク寸前なのに地理を教えてくれなんて頼んだおかげでさらに情報が増える。


「新人類のタイプは遺伝子の突然変異の仕方によって大きく分けて4つに分けられます。1つ目は一番初めに発現した突然変異種Type-A型、 A型は人間の身体能力が強くなる、聴覚嗅覚などの強化などの身体的な特徴が大きく出ます」


そのページの写真には鉄骨を片手で曲げる少女や恐ろしく脚が速い奴の動画が映っていた。陸上で全国を狙っていた身としては羨ましい限りだ。


「次にType-B型は自然に作用することができます。なぜそのようなことができるのか現代の化学では分析できていませんが火を出す、水を操るなどはここに分類されます」


「ああ、それは知ってる。なんか魔法みたいだって何十年か前にニュースになったって父さんが言ってたわ」


「ええ、その認識で正しいと言えます。新人類の特殊な能力に関してなぜそのようなことが起こり得るのか多くの部分が解明されていません。次に、Type-Cは、頭脳や感覚に対して類いまれなる才能を発揮します。数百年前はギフテッドと呼ばれていた人々がルーツになっているのではないかと言われていますが詳しいことはまだわかっていません。彼らは絵や芸術、新しい技術の発明などに特化しています」


「このType-C型っていうのがT1やN2の親みたいなものなのか?」


「ええ、彼女はType-Cがたの中でもロボット工学や人工知能について類い稀なる才能を発揮しました。今も旧EUエリアで開発を行なっています。最後にType-AB型これはA型からの派生した遺伝子ではないかと言われおり、AB型は自分や他人に対し外傷を治したり、毒素を分解したりする能力があります」


「へーそれじゃあ病院行かなくていいじゃん。羨ましいな。で、俺ってどのタイプなの?」


「遺伝子のタイプで言えばAB型ですね。何か特別なことができたという感覚はありませんか?」


「いや、ないけど。ABなら怪我治したりって奴だよな? そんなのわかんないけど」


「まぁ、焦ることはないんじゃないですかね。学園につけば自分が何者なのかすぐにわかりますよ。見てきました」


窓を覗き込めば先ほどまで海しか見えなかった場所は赤茶色の広大な大地が広がっている。そしてその大地の中で最も目を引いたのは巨大な透明な膜に覆われたドーム型の建造物だ。正式にはドーム型かもわからない。壁面のみが見えて向こう側の端は小さい窓からは把握できないから本当の形はわからない。その透明な膜の中に山、林、湖、川、畑、建物などおよそ人間が生きていくのに必要なものは揃っているように見えた。


「あれがこれから貴方が生活することになる学園都市メガロスです」

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バイオスフィア 小椋綾人 @Neko_kawaiiNe

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