誕生日に美しい妹をプレゼントされたので大事にしてみたら受け入れられた

しゆの

第1話

「アルビノの妹が欲しい」


 リビングのソファーでスマホで漫画を読んでのんびりとしている名倉隆太なぐらりゅうたは、自分の誕生日にそう呟いた。


 両親は北海道に長期出張でいないし、祝ってくれる友達も誰一人としていない。


 そもそも誕生日が八月で高校が夏休みなため、相当仲が良い友達がいなければ祝ってもらえないものだ。


 スマホには丁度妹がヒロインのラノベを読んでいるから妹の挿絵があり、このラノベの主人公が本当に羨ましい、と思いながら読んでいる。


 アルビノというのは先天性白皮症という遺伝子疾患で、生まれつきメラニン色素が少ない。


 一般的に黒髪である日本人であろうとも、髪は白や金になるし、瞳の色も赤や青だったりする。


 実際にいたら溺愛してシスコンになってしまうだろう。


「ん? 誰だろ?」


 珍しく家のインターホンが鳴ったため、面倒だなって思いつつもインターホンの受話器を取る。


「はい」


 インターホンの画面に映っている人物には見覚えがないが、内心驚かずにはいられなかった。


 長い髪は限りなく白に近い銀色だし、長いまつ毛に包まれた淡紅色の瞳、不健康そうな白い肌はアルビノみたいだからだ。


 もちろん髪は染めたり瞳はカラーコンタクトの可能性はあるが。


「あの、今日からあなたの妹になった名倉聖雪なぐらいぶ、です」

「妹?」


 無言でコクリ、と彼女が頷く。


 どういうことだ? と思っていると、ポケットにあるスマホが震えた。


 通知欄には母親からメッセージがあることが知らされており、メッセージを見てみるとこう書かれていた。


『誕生日おめでとう。妹をプレゼントするわ』


 意味不明な文章だったが、ようはインターホンの画面に映っている女の子が妹になるということだろう。


 親はシングルじゃないから再婚は考えられないため、施設にいる子を引き取ったようだ。


 実際には聞いてみないと分からないので、ロックの解除ボタンを押して彼女を招き入れた。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


「えっと……妹ってどういうこと?」


 聖雪を招き入れた隆太は、ソファーに座らせた彼女に聞いた。


 改めて彼女を見ても本当にアルビノみたいで綺麗だ。


「こちらも聞きたいのですが、何も聞かされてないですか?」

「うん。さっき母さんから妹をプレゼントするってメッセージが来ただけ」


 夏なのにゴスロリの格好って暑くないのだろうか? と思いつつ、隆太はスマホを聖雪に見せる。


 本当についさっきそれだけ来ただけのため、何で彼女が妹になったのかは想像しか出来ない。


「本当に何も聞いてないのですね。あ、誕生日おめでとうございます」


 メッセージを見て誕生日だと気付いてくれたようだ。


「ありがとう。それでどういう経緯でこうなったの?」


 誕生日なんてどうでもよく、隆太は目の前にいる彼女がどういう経緯で妹になったのかを知りたくて仕方ない。


「私は生まれてすぐに親に捨てられて施設で育ちました」


 思っていた通りだった。


 恐らく聖雪はアルビノであり、アルビノは基本的に遺伝するため、彼女の両親のどちらかはアルビノのはずだ。


 なので見た目で捨てられたわけではないのだろう。


 何で捨てられたかは不明だが、何かしらの地震はあったようだ。


「そんな中、私を拾ってくれたのが名倉家でした」


 恐らくは何かの事情により施設を訪れて聖雪を養子として迎えたのだろう。


「これから兄になる人がアルビノが大好きだから大切にしてくれると言ってましたよ。だから兄さんのとこで暮らすようにとも」


 至極簡単な理由だったが、今の一言で聖雪がアルビノであることが判明した。


 だから夏で暑いのに長袖の服を着てるのだろう。


 アルビノはメラニン色素が少ないため、塩素を含む水や紫外線に反応しやすい。


 長時間日差しを浴びると肌が火傷したようになるし、水は肌が爛れる恐れがあり、強い光を見ると失明する恐れもあるそうだ。


 ただ、アルビノでなければ出せない綺麗な髪と瞳、それを見ただけでも興奮を抑えられない。


 念願だったアルビノの妹が出来たのだから。


「さっき自分が妹をだって言ってたけど、中学生なのかな?」


 隆太は現在高校一年生のため、妹なら聖雪は中学生なのだろう。


「いえ、に、兄さんと同じ歳になります。私の誕生日は十二月なので」


 兄さんと呼ぶのが恥ずかしいのか、真っ赤になった聖雪が可愛い、と思いつつ、隆太は自分の想いを抑えるのに必死だった。


 本当であれば今すぐにでもシスコン宣言したいが、流石に兄妹になった初日に言うものではないだろう。


「俺の年齢は聞いてるんだ?」

「はい。兄さんの人となりは教えてもらいました。アニメや漫画、ラノベが大好きなオタクで、アルビノの妹を欲しがっている妹がいないのにシスコンだと」


 事実ではあるけれど、家族になった聖雪に息子のことを変な風に教えるな、と思ってため息しか出なかった。


「その……兄さんは、私を大切にしてくれますか? こんな容姿なので、私は施設で一人でした」


 悲しそうな表情になった聖雪は、どうやら施設で友達が出来なかったらしい。


 黒髪に茶色い瞳が多い日本人にとって、銀髪に赤い瞳は異色だろう。


 今までの経験上なら大切にしてくれるか不安なようだ。


「もちろん大切にするよ」

「きゃ……」


 衝動が抑えきれなくなり、隆太は妹になった聖雪を抱きしめてしまった。


 いきなりのことで驚いたような声を出した聖雪だが、抵抗してこなかったところを見るに、抱きしめられるのが嫌ではないのだろう。


 施設でも一人だったため、人の温もりというのを感じたことがなかったはずだ。


 だから対抗せず、人の温もりを感じているのかもしれない。


「こんなに可愛くて美しい妹が出来てシスコンにならないとかありえない。聖雪を溺愛する」

「思った以上にシスコンのようですね」


 流石はアルビノの妹が欲しいと思ってる変態さんです、と付け加えた聖雪の表情は、とても嬉しそうだった。


 可愛いとか美しいとか、容姿を褒められたのは初めてなのかもしれない。


「私がここで暮らすと初めてを奪われてしまいそうですね」

「なっ……お兄ちゃんは不純異性交遊など認めません」


 聖雪に彼氏が出来たことを想像しただけで殺意が覚えた。


 ぎゅっと力を入れて抱きしめ、聖雪を離したくないと思ったほどだ。


「兄さんに、ですよ。こうやって抱きしめるのはいいですけど、流石にまだ抱かれるほどの好意は私にありませんよ」

「お兄ちゃんは妹を性的な目で見ないよ。なんでそう思ったの?」


 コテン、と自分のおでこを聖雪のおでこにくっつけて尋ねる。


 母親からこうしてやれば相手が嘘をついているかどうか分かる、と幼い頃にされていたため、こうして実践してみた。


「それは、その……」


 おでこをくっつけられて恥ずかしくなったのか、聖雪はオドオドとした感じで視線を逸らす。


 今まで一人ぼっちだったから慣れていないのかもしれない。


「その……ここまで過剰なスキンシップをされたので、一目惚れされたのかなって……私の容姿に嫌悪感はないようですし」

「一目惚れはした。でも、妹に性的興奮を覚えたら変態じゃないか」

「シスコンってだけでも変態だと思うのは私だけでしょうか?」


 呆れたような声ではあるものの、聖雪の表情は嬉しそうだ。


「でも、その……ありがとう、ございます。わたしの兄は変態じゃないと無理でしょうし、兄さんみたいな人がいいんでしょうね」

「褒めてるの? 貶してるの?」

「褒めてますよ。近い将来、私の居場所は兄さんの隣になりそう、です」


 つまり聖雪は将来ブラコンになるつもりなのだろう。


「これからよろしくね、聖雪」

「はい。よろしくお願いします」


 ぎゅっと抱き合い、聖雪を大切にすると誓った。

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