4.誤解

「嘘?」

母親の景子が聞き返した。

千景は、美加を保育園の時から知っている。

今でも、美加ちゃんママとお母さんは、親しく付き合っている。


美加は、柚葉が川口先生と指導室に入って行ったのが気になった。

最近、ほんの些細な事から仲違いしてしまった。

美加が、柚葉に酷い事を云ってしまったそうだ。

「どんな酷い事、言うたん?」お母さんが尋ねた。


そう云えば、何て云ったのか分からない。


美加は、立ち聞きしているのが見付かったと、勘違いして、思わず嘘を吐いた。


大変な騒ぎになって、云い出せなくなった。

と云って謝った。


取り敢えず「ラブ」逃亡騒動は、落着した。


千景は、下校時間に、うさぎのケージに寄った。

昼間は、殆んど動かないのに、夕方になると、何故か急に活発になる。


突然、ケージね蓋のバネが弾けた。

驚いた。

うさぎかケージから跳び出し、中央通路へ向かって逃げた。

慌てて、千景は後を追った。


「ラヴ!!」

千景のすぐ後ろで聞こえた。

上の前歯で下唇を軽く弾くの発音だ。

咄嗟に、後ろに目線を遣ると、美加が見えた。

美加が、立ち竦んでいる。

目の端に、中央通路から運動場へ向かって走るうさぎが映った。

千景は、前を向き、懸命に後を追った。

不意に、千景を誰かが、追い抜いて行った。

千景を追い抜く生徒は、男子でも滅多に居ない筈だ。


なんとなく、いつも見ている後ろ姿。

大西君だ。

大西君は、うさぎを捕まえて、千景とすれ違うと、西の中庭へ戻っていった。

美加が、大西君からうさぎを受け取り抱き抱えた。


大西君の表情は、こんなに柔らかだったのだろうか。


「けど、大西君は、嘘を吐いてたんやろ?誰も文句、言わんかったん?」お母さんが、尋ねた。


そうだ。

大西君は、うさぎが逃げたと嘘を吐いていた。

すっかり忘れていた。

誰も気付かなかった。


もしかすると、大西君は、美加を庇って、嘘を吐いたのかもしれない。


「それに、彩乃ちゃんは、何でうさぎのケージに近づいたんやろな」

お母さんが呟いた。


体育館シューズのまま、中庭に降りた事で、給食前に、あれだけの時間、注意をされるのだろうか。


柚葉が、昼休みを過ぎているのに、川口先生と指導室に居た。


石木葛原小学校から、うさぎを譲り受けた生徒が、もう一人居た。

二組の政木柚葉だ。

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ラヴ逃走 真島 タカシ @mashima-t

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