絶対的! 私利私欲タイムスリッパー!!

渡貫とゐち

自業自得? 因果応報?

 ――三つ子の三姉妹。


 さくら若葉わかば日向ひなた


 彼女たちが転校生として、おれが通う学校へやってきたのは、一週間前のことだった――。



 夏休み明け、初日にやってきた中途半端な時期の転校生はよく目立つ。しかも三姉妹でありながら、クラスが分かれることがなかったのも珍しい……。学年に三つのクラスがあるにもかかわらず、一つのクラスに集中するなんてな……、教師側の都合だろうか?


 姉妹きょうだいは分かれてしまうイメージが強いだけに、意外感が強かった。まあ、区別がつかないほどに顔がそっくりとは言え、髪型で変化をつけているために分かりやすい。


 亜麻色の長髪が桜。

 後ろで結んだポニーテールが若葉。

 肩で揃えた短髪が、日向である。


 性格も似ていない。桜は明るく、人を引き寄せる魅力がある。若葉は逆に、暗く、自分の世界に閉じこもるタイプだ……、ただし他人が嫌いなのではなく、一人が好きなのだろう。そして日向はと言えば、桜と似ているが、周りが日向を見る目が、桜とは違って逆なのだった。


 桜は頼られるタイプであり、


 日向は助けてあげたくなるタイプ――、この違いは長女か末っ子かの違いだろうか。


 たった半日で一躍、人気者になった美人三姉妹の出現――。


 そして同時に注目されたのが、おれ――習志野ならしの唯人ゆいとと、そして同じクラスで家が隣同士の幼馴染・木崎きざきひかり……。


 信憑性はどうあれ、あの三姉妹のは、おれたちを含めて強い印象を残した……、ここ一週間は、学校全体で、注目の的である。


 視線による居心地の悪さから、星ともなかなか顔を合わせづらくなってしまったし……、まあ、毎日、顔を合わせて喋るほどに特別、仲が良いわけではなかったけど……。


 中学の時は、そりゃあ家が隣同士だからってこともあって、必然的に会話も多かったけど、同時に思春期でもある。女の子として意識しない、なんてことはできなかった――(たぶん、向こうもそうだろう……、おれが避けたことを咎めたりしなかったのだ……気持ちは分かる、という返答だと解釈した)。


 そう、距離があったのだ。


 昔のようには簡単には戻れない溝があって――、それを埋めるためには、言葉一つでは望んだ通りにはいかないだろう……。やはりそれなりに、必要があったのだ。


 おれも星も、そこまでの行動を起こす、勇気がなかった。


 理由もないのかもしれないけど――。


 だからこそ、だ。


 あの三姉妹の発言には、否定よりも『え、どうやってここから?』という疑問が勝った。隣同士でも、住んでいる世界が違うのだ。赤の他人とまでは言わないが、友達の友達、くらいには距離が空いてしまった自覚がある……、それがどうして。


 おれと星が……。



「――っ、せっかくの晴れた日曜日なんだから、娘たちをどこかに連れていくのが役目ってものじゃないの――……ほんと、未来でもそうやってぐーたらとしててさ……」


 掛け布団を強く引っぺがし、おれに跨っている桜……、

 彼女たちの言葉を信じたわけではないが、『今』は同い年なのだから、ずし、と重量が腹に乗る……、朝からしんどいやり取りだ……。


「でも、午後から雨みたいだよ。家でゲームでもしよう。おとーさん、いつもの格ゲー、――って、そっか、この世界じゃまだ『1』も出てないんだっけ」


 若葉は寝ぐせも直さずに、まだぼさぼさの髪で壁に背中を預けている……、後ろで結ばない下ろした髪型だと、桜と似ているな……やっぱり。

 だけどはっきりとしない目の開き方で若葉だと分かる。


「……日向は?」

「まだ寝てるよ。お父さんに似て、たっぷり睡眠時間を取る子だから」


 休日を丸々一日、寝て過ごしたこともあるそうだ……、それだけ寝れるってのも才能だよな。


 ともあれ。


 なぜ休日のおれの家に、この三姉妹がいるのかと言えばだ。……まあ、こいつらがおれを『おとーさん』と呼ぶように、つまり『そういうこと』ではあるのだが、三人が勝手に言っているだけ、とも取れるわけだ。


 そもそもおれに娘はいない。いたとして、こんなに大きいわけがないだろう……、親が引き取った養子だとしたら、兄妹きょうだいになるわけで、娘ではないし。


 だけど彼女たちはおれを父親だと言う。


 根拠は? ……彼女たちは言ったのだ。


『未来からやってきたの』――……はぁ。


 しかも転校生の自己紹介で。


 おれ、そして星を名指しして――。


『そこの二人の、娘です』――。



 ―― ――


 桜に背中を押されて一階に下りると、豪華な朝食が待っていた。

 キッチンに立つのは――、木崎星だ……、おれの未来のお嫁さん……。


 あくまでも、あの三姉妹が生まれた世界では、の話だが。


 って、いやいや、まだ信じたわけじゃない。


 偶然、たまたま苗字がおれと同じ『習志野』であるだけだ……、それに、未来からやってきたのであれば、この世界で使う名前なんて操作できそうなものだ。


 戸籍は? 三人がこの世界にやってきたことで起こる不具合などはどうするつもりだ? どうやら三人を学校に通わせたのはおれの親父の指示らしいが……、『あいつ』はなんにも教えてくれねえんだよな……。


 そもそも連絡もつかねえし。

 仕事柄、海外を飛び回っている親父と母さんは、同じ場所に留まっていないおかげか、一年に何度か、すれ違うらしい。そこでコミュニケーションを取っている……最小限に。


 だからもしかすると、母さんは、三人のことを知らない……?


 一応、母さんは月に一回は、ここに帰ってきてくれる。先週に会ったばかりだから、先は長いが、次に会った時に、三姉妹について聞いてみようか。

 ……母さんまで急に連絡が取れなくなったのは気になるが、多忙、ということにしておこう。


「そだ、ラッシー、飲んでみる?」

「……なんだそれ」


 目の前に置かれた白い飲み物……、飲み物?

 どろっとしているんだけど……、飲んで大丈夫なのだろうか、と心配だ。


 料理が上手な星が作ったものだと分かっていても、口にするには躊躇う見た目である。


「ヨーグルトみたいなものだから、美味しいと思うよ」


「そうなのか……じゃあ、いただきます」


 うん、と、ぎこちなさを自覚しながらも、なんとか星と会話をする。


 彼女との自然にできてしまった溝は埋まったものの、今度は段差ができてしまったように歩み寄りづらい。あの三姉妹の言い方も悪いだろう……、真偽はともかく、おれと星の娘であると言われたら、つまり、おれと星は……『そういう関係』になる、という意味だし……。


 意識するだろう、当然。


 普段の星は左右で髪を結んだツインテールなのだが、今は髪を下ろしている……、見た目は、さすがに寝巻ではないだろうが、外着、ほどしっかりとしているわけでもない。コンビニに買い物にいくような、楽な格好だけど最低限は意識している、と言った格好で……。


 育ってきてからは、制服以外をあまり見たことがない彼女の姿に、ちょっと、と言うか、かなり視線を引っ張られる。……くそ、意識させやがって、桜のやつ……っ(暴露は三人からなのだが、嬉々として言ったのは桜だった)。

 三人がやってこなければ、自然とくっついていたであろうおれと星は、もしかしたらこのままぎくしゃくして、最悪、結ばれない可能性も出たんじゃないか……?


 そうなったら――あれ?


 三姉妹は生まれなくなり、


 桜も若葉も日向も、消える……?



「大丈夫だよ、お父さん」


 と、席についた桜。


「未来からきたけど、

 この『現在』が、わたしたちがいた『未来』に繋がっているわけじゃないから」


「…………パラレル・ワールド?」


「やっぱり、おとーさんなら分かってると思った」

「??」


 星は分かっていなさそうだったが、説明するのは後だ。


「……もしもこの世界でお前らが生まれなかった『未来』に変わったとしても、ここにいるお前ら三人が『消える』ことはないんだな?」


「うん、そうだよ。だからこそ未来からきたんだから。

 お父さんとお母さんの恋路を邪魔するためにね――」


「は? 邪魔してどうすんだよ……、もしかしておれが別の女子と結婚して生んだ子供を見たいとか? それとも、未来でおれと結婚できなくて後悔している子がいて、その子の願いのためにお前らが時間を越えてやってきたとでも言うのか?」


 まさか世界滅亡とか、スケールのでかい話じゃないだろうな?


 未来人が過去にくるなら、大体が『なにか』を変えたいからだろう。


 過去に失敗があり、


 それを改変するために三人が駆り出された――と考えれば。


『現在』に、失敗の引き金がある。


「え、ぜんぜん違うよ。他人のためじゃなくて、わたしのため」


「……あたしも、桜と日向には譲りたくないから」


 すると、どたどたと階段を転がり落ちるような音と共に、リビングへ飛び込んできたのは――末っ子の日向だった。



「パパ――結婚してっっ!!」



 両手を広げて飛び込んでくる日向の両足をがしっと掴む姉二人―—。


 顔面を床に強く打った日向が、ごろごろと転がる……大丈夫かよ。


「抜け駆けは許さないって言ったよね、日向?」


「チッ、分かっていたのに……やっぱり縛っておくべきだったか……」


「だ、だってっ、二人のことだから、ひなが寝ている間にもう、パパを口説くために色々やってるんでしょ!?」


 桜と若葉が、『まあ……』と曖昧に頷く。


 口説く、まではされていなかったけど……。


 え、こいつら、マジでおれを口説くために未来から過去へやってきたの?

 おれの警戒を解くための方便じゃなくて?


 本当に、おれと結ばれるはずの実の母親の星を敵対視して、付き合う前に、無理やり突き放すために? ……これまでいただろうか、過度なファザコンゆえに、過去に戻って父親と結婚しようと、思った上で実行するやつが――。


「――二人には渡さない!」


 日向が二人の拘束を振り解き、おれの腕にしがみつく。


「パパはひなの旦那さんなんだか、」



「ねえ」


 すると、ひなの腕が震え出す。

 しがみつかれているため、その怯えがよく伝わった。


 前にいる二人の姉妹も、表情が引きつり、へなへなと腰が落ちていく。


 ……後ろ。

 おれの後ろに立つ、……鬼が、いた。


「私を巻き込む必要、あった? 学校中で噂されて、すっごい迷惑してるんだけど? やり方、他にもあったよね? 別に私のことまで言いふらして、付き合うことを阻止しなくても、先にあなたたちがこいつとくっついちゃえばいいはずよね?」


「で、でも、阻止しておかないとまたくっついちゃうから……」


「未来がそうなっていると、それに向かうように自然と、」


「だから、他にやり方、あったわよね?」

 

 ゾクゾクゾクゥっっ!? と、星の声に反応する三姉妹……、この恐ろしさを知っていて、体が覚えているとなると、やっぱりこの子たちは星の娘……同時に、おれの娘でもあるわけか。


 ……まあ、疑って否定するのも疲れたし、そういうものだと思っていてもいいかな。


 星と、おれが……——ふうん。


 本来、どうやっておれたちは付き合って、結婚したんだろう――なんてな。


 気になるが、この世界ではもう、知ることができないことだ。



「……なに?」


「なんでも。ラッシー、まだある? おれ、けっこう好きかも」


「え、ほんと? まだあるよ――気に入ってくれたなら、良かった」


 上機嫌でラッシーのおかわりを足してくれる星……、鼻歌を歌うほど嬉しいのか? ステップまで踏んでるし……。

 好きなものの共有、か――。今後も増えていきそうな予感がした。



『――し、しまったっ、わたし(あたし)(ひな)たちがきたことで、二人の進展がさらに早くなったかもっ!?!?』



 

 ―― おわり ――

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