耳をすませば

mayopuro

耳をすませば

憧れの『OL』になる事ができた社会人一年目。

私は毎日暗い顔をしていた。

別に「思ってたのと違った」とか「嫌な上司がいる」とか、そういうわけじゃない。

アイツのせいだ・・・。


20:00。今日も電話が来た。知らない番号からだが、アイツなのは分かっている。

・・・・・留守電に切り替わった・・

「愛してるよ、君だけをずっと、愛してるよ・・。」


そう、私はストーカー被害にあっている。

さっきみたいに、毎日20:00きっかりに、求めていない愛が届く。

警察にも相談したが、結局「とにかく無視してください」と言われただけで、すぐには動いてくれないらしい・・。


翌日、19:55。

いつもの如く、バラエティを大きめの音で流す。

バラエティと言っても普通のバラエティじゃない。

知る人ぞ知る、伝説的番組『インビジブル』だ。

何が伝説かと語り始めたらキリが無いが、

・テレビ初登場の誰も知らない芸人がMCに挑戦する

・パネラー側は個性的な素人たち

・伝説過ぎてDVD化等々一切されていない

といった具合である。

お察しの通り、伝説過ぎて放送たった10回で終了してしまったのだが、

何故か私にはツボであり、当時VHSに録画していたのだ。

今日は第9回、正直何回も見ているので内容は分かっているのだが、これを見ていると心を空っぽにできるのだ。


20:00、電話だ。

・・・・・

「その番組、僕も好きだったよ。これって運命かもね・・愛してるよ。」

・・その番組?

瞬間、身体の温度が奪われた。

え、何故、何故知ってるの・・!?

まさか、盗撮?盗聴?

と、とにかく・・!


急いで110番をした私のもとには、すぐに警察が駆けつけてくれた。

落ち着いてから事情を話すと、明日の朝一番で、盗聴、盗撮対策専門の方を連れてきてくれるという事になった。

それまでは近くのホテルで泊まる事となり、パトカーでホテルまで送ってもらった。


翌日09:00。

警察、専門業者の方と一緒に家に帰った。

昨日まで自分の城だと思っていたこの部屋が、今は違う部屋にさえ見える。


11:00。

業者の方が物々しい機械で家の隅々まで捜索したが、それらしい物は出てこなかった。

警察の話では「留守電でも、こちらの音が聞こえる場合もあるんです。それで犯人はそう言ったのでは・・」と。

うーん確かに・・もしそうなら合点がいく・・。

私は申し訳ない気持ちを抱え、警察の方を見送った。


18:00。

同期の友達が家に来た。

買い物に出たかったが「もし待ち伏せされていたらと思ったら怖くて・・」と相談したら来てくれた。

友達のおかげで無事、通話を録音するレコーダーを買う事ができた。

少しでも早く終わらせたい気持ちで、積極的に手がかりを取りに行く事にしたのだ。

友達と話せた事で、気持ちも少し楽になった。


20:00。電話だ。来た。

レコーダーの準備も万端・・

・・・・・

「面白いよね、その番組。」

その一言で私は気付いた。

少しの音でも漏らすまいと息を殺す私の横で、大音量の第10回がオープニングを迎えていたのだ。

私は急いでテレビを消した。その間も男の1人語りは続く。

「・・愛してるよ。」


20:01。

よし、不測の事態はあったが、何か証拠を掴めたかもしれない。

早速録音したものを聞いてみた。

「第10回!ありがとうインビジブルーー!」

ああ・・やっぱり・・前半はテレビの音が邪魔だ。

ましてや慌てて消す私のドタバタ音なんて目も当てられない程うるさい。

・・静かになった後半も聞いたが、特に手がかりとなりそうな音は入っていない。

はぁ・・・私は思わずうなだれた。


その時ふと、買ったばかりのレコーダーの箱が目に入った。


※注意※

このレコーダーは、受話録音専用です。

こちらからの声は録音されません。




いる

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