第2話
彼氏は欲しいかもしれないけど、最低な男と恋愛するくらいならドラマやアニメや2.5次元で十分ではないか? 放課後、成美と途中まで一緒に帰り、いつもの場所で別々の道を行き、気が付くとそんなことを思っていた。
ドロドロな恋愛を読んだりするのは意外と面白いけれど、ひとつ読めばお腹いっぱいになる。そして自分がそういう目に逢ったらと考えるとゾッとする。
好きになった人が私以外を好きになったら嫌だ。それで諦めなかったら悪役になるんだろう。だったらとっとと諦めて次に行く。
次に好きになった人とうまくいって、でもその人にちょっかいかけてくる人とかいたら嫌かもしれない。そっちの人とうまくいって私は捨てられたら、めちゃめちゃ落ち込む。
それなら初めに好きになった人を諦めずに、横取りしてもいいんじゃないかとか思ったり。イヤイヤ、そんなことをしてはいけない。カレカノになってるのなら、それを取ったらダメだ。でもそうなると逃がした魚は大きいみたいな感じになって、その人のことが忘れられなくなるのかそうでもないのか。
恋愛をしたことがないからよくわからない。うん。きっと私はまだちゃんと恋愛をしていないのかもしれない。
小学校の頃に好きかもしれないと思っていた男子は、中学に上がってつっけんどんになったし、ちょっと優しくていいなと思ってた男子はすぐに他の女子と付き合ってたし。
いい男は、すぐにハイエナのようなおっかない女子がかっさらっていく。でもハイエナが悪いわけではない。きっとその子たちは、自分を磨いて自分にとって有利な選択をしているだけなんだ。
だから、そういう女子は素敵な彼氏がゲットできる。
私はそういう努力をしないから、彼氏ができないのかもしれない。
でも、あんなにあからさまにキャッキャウフフはできないよね。自分が堕ちていくような気がする。彼氏が欲しいから行動を決めるって、なんかヤダ。
我が道を行きたい。
男に振り回されずに、自分がやりたいことを貫きたい。
それだと彼氏はできないかもしれない。
でも、そんな私を好きになってくれる人を探せるものなら探したいけど、そんな男がこの世にいるのだろうか?
ぼんやりと、そんなことを考えながら歩いていた。だから、周囲にはまったく注意を払っていなかった。
「あの……」
若い男性の声。思っているより心地よい響き。
どこか懐かしい気がした。
ゆっくりと、声がした方を振り向く。
無意識に。導かれるように。
………………。
誰もいなかった。首を傾げて周囲を見回す。
いつもの通学路。
声をかけられる距離に人はいない。
気のせいだろうか。
そう思って、また進む。
少し歩いて
「あの……」
さっきよりも、声が近づく。
確かに感じる人の気配。
背筋が冷やっとする。
空耳じゃない。
間近に誰かがいる。
すぐに振り返るけれど、声が聞こえた場所には誰もいなかった。
しばらくそちらをじっと見つめる。
「ふう……」
恐怖を抑えるため、息を吐いた。
何度か呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
大丈夫。何も怖くない。
自分に言い聞かせ、そして向きを変えて家に向かって歩こうとした。
空耳か、そうでないのか。
そうでないなら何なのか。
「もしもし」
真後ろから声が聞こえた。
息がかかるくらいの近さ。誰がいるかなんて、確認することなどできなかった。背中にべったりくっついた変質者のようなオバケを確認することなどできるはずがない。
「きゃああああああああああ!!!」
と叫んで一目散に逃げ帰った。
この時、脳裏に誰かの顔が浮かんだような気はしていた。良く知っているような気がしたけれど、はっきりとわかったのはイメージだけ。
とても大切な気がしたけれど、この時は逃げるしかなかった。まだ陽も高かったけど、夕方は出るって言うし。
これは逃げるよね。
当たり前だよね。
なんかもうちょっとマシなこと言ってくれればよかったのに。「あの」とか「もしもし」でわかるわけがない。
それで思った。
きっとみんな、シャイなんじゃないのかな? ホントは付き合いたいって言いたいけど言えないだけの。
こんなの誰にも言えない。
言ってもわかってもらえない。
こんな変質者みたいな幽霊もどきが忘れられないなんて言えない。
でも、これが私にとって、ある意味ドラマやアニメの王子様みたいな存在だった。
それがわかるのは、これからもう少し後のこと。
シャイって言葉で誤魔化すな。
言いたいことがあるんなら、はっきり言えばいいじゃない。
運命の人が声をかけてくれていたのに、誰にも言えずに逃げるしかないって、悲しくない?
きっとみんなシャイなんじゃないのかな? 玄栖佳純 @casumi_cross
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