きっとみんなシャイなんじゃないのかな?

玄栖佳純

第1話

「ねえねえ、聞いた? ほのちゃんと瑛太、付き合ってるんだって」

「えー、ウッソー」

「前からおかしいとは思ってたんだよね」

「いつから?」

「誰から聞いたの?」

 教室でそんなことを話しているクラスメートの声が響く。

「ナナ子が見たって」

「ナナ子じゃ、信ぴょう性ないんじゃない?」

「そうでもないよ」

 大声でそう言っていて、ひそひそと声をひそませたかと思うと、とたんに大笑いを始めた。


 ふつうにうるさい……。

 ああいう話で盛り上がるのは、ホントはごく一部だと思う。

 そんなに仲が良いわけでもない女子と男子が付き合ったと聞いても、『ふーん』くらいにしか思えない。


 恋愛に興味がないと言えばウソになる。

 スマホで読んで面白いと思うのはやっぱり恋愛だし。


 異世界に転生して悪徳令嬢になって、極悪王子にそれなりに溺愛されたりするのも悪くない。王子で横暴で強くて、有能だけど二人になると優しいとかサイコー。でも八方美人はよくない。あれは絶対に許せない。


 私だけを好きになってくれる王子なんて現実にいるはずがない。

 王子とは言わないけど、それくらいカッコイイ男の人と付き合うことができれば嬉しいんだろうとは思うけど、私の周りにそんな男子はいない。


 断言できる。

 いない。


 クラスの男子はヘボばかり。

 小学校の頃は男子も女子も関係なく一緒に遊んだりもしたけど、中学校に上がるとそれもなくなった。

 意外に楽しかったんだけど、中学生になると途端に遊ばなくなった。

 なんか、空気が一緒に遊ぶ感じじゃなくなった。

 すると男子と話さなくなった。

 話しかけると色々言われるのも面倒くさいし。

 それでどうやって恋愛になるのか?

「出会いがない」と愚痴る従姉妹のお姉ちゃんみたいになるのか?


 でもお姉ちゃんも意外と楽しそうにしているし、そう思うと恋愛しなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。

 ドラマのような恋愛が、身近に転がっているわけがない。

 カレカノになれる人たちは、きっと妥協をしているんだ。

 平凡な彼氏に平凡な彼女。そんな平凡な人たちが織りなすドロドロな恋愛とかは誰にでもできるのかもしれないけど、ああいうのになるんなら恋愛なんてしたくない。


 ドラマとかアニメみたいな王道な恋がしたい。

 シンデレラとかでもいい。ひねくれていない、ボーイミーツガールで目が合った瞬間に恋に落ちる。私のことを探していて、私のことだけを待っていてくれるような男の人と。


 ……なんてことは、口が裂けても言えない。

 そんなのに憧れているなんてみんなにバレたら明日から学校に来られなくなる。


「どうしたの?」

 友達の成美が声をかけてきた。

「……ほのちゃんと瑛太が付き合ってるんだって」

 騒いでいるクラスメートを眺めて言ってみた。

「ああ、それか」

 成美もうんざりしたように眺める。

「どう思う?」

「ふつうにうるさいよね」

「だよね」

 成美も私とほぼ同じ感想のような気がしてホッとした。


「ああいう風にお付き合いできる男女って、ごく一部なんじゃないのかな?」

 なんとなく思っていたことを成美に言ってみた。

「こないだニュースで二十代くらいは恋愛しない人が多いってなってたよ」

「そうなん?」

 意外だ。二十代くらいの人たちは、もっと恋愛とかで盛り上がっててもいいんじゃないのか? それこそ私はそんなに好きじゃないけど青春なドラマみたいな恋愛が山ほど転がっているのではないか。ちなみに私が目指しているのは十把ひとからげの恋愛それではない。


「アンケートでそうだったらしいよ」

 成美がそう言ったので、考える。

「じゃあ、別に彼氏いなくても平気ってこと?」

「なんで?」

 成美が渋い顔になった。


「だって、みんなでいなけりゃ怖くない、みたいな?」

 成美はそういう考え方なんだろうかと思って聞いてみたら、

「みんなに彼氏がいなかったら自分もいなくていいってなるわけ?」

と、しかめ面で言われた。


「……嫌かも」

 なんだかんだ言ってても、彼氏は欲しいかもしれない。


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