第2話 依存症の果てに

 2か月後。


 Aちゃん、スマホを隠した両親を寝室で刺殺。

 就寝中の両親の首を出刃包丁で切りつけ、頸動脈を切断。一瞬だった。

 驚いた両親は声も出ずに首を抑えていた。


 前もってネットで調べていた方法だった。明かりをつけると、血が拭きあがって爽快だった。私からスマホを取り上げるんだから、当然の報いだ。


 Aちゃんは両親の会社に電話をかける。


「米山の家族のものです。お世話になっております。家庭の事情でしばらくお休みします」

 電話応対はネットで調べた。大人びた声なので、電話に出た人はまさか相手が小学生とも思わなかった。

「何かあったんですか?」

「はい。急病で入院しました」

「あ、そうですか。どちらの病院ですか?」

「精神病院です」

「わかりました。お大事になさってください」


 両方とも同じような返事だった。精神病院だと会社も連絡しづらいから、その後はしばらく連絡が来なかった。


 Aちゃんは両親の遺体を鋸で細かく解体した。肉や軟骨はミキサーにかけてトイレに流し、大きなパーツは鋸で骨を切って少しづつゴミに出した。マンションだから24時間ゴミを出せるからはかどった。


 部屋はエアコンをガンガンにきかせて涼しくしたけど、3日くらいすると腐敗臭がして臭かった。1日中、遺体処理に費やして、Aちゃんはスマホを触る余裕もなくなっていた。まだ、小学5年生だから大人2人の解体は大変だった。1人処分するのに、2日くらいかかってしまった。計4日。次の1日は血だらけのシーツを袋に入れてゴミ捨て場に持って行った。


 すると、パトカーが来ていた。24時間ゴミ捨てができるからといって、毎日ゴミを取りに来るわけじゃない。異臭がして遺体が捨てられていたのがばれてしまったのだ。血の付いたシーツは部屋に持ち帰った。


 Aちゃんはスマホを持って部屋に籠城した。インターホンが鳴っても出なかった。取り敢えずお風呂に入って、両親の部屋を片付けた。


 警察は防犯カメラの映像を見て、子どもが大きなゴミ袋を持って、ゴミ捨て場と部屋を何度も往復するのに気が付いた。すぐにAちゃんが怪しいと思い始めた。


 部屋までやって来て、インターホンを鳴らして、誰も出ないと、勝手に鍵を開けてしまった。U字ロックも外して、人がずかずか入って来た。


 Aちゃんは床に座って、ぬいぐるみを抱いてじっとしていた。

 もう、スマホを見るような精神的余裕はなかった。


「お父さんとお母さんは?」

 警察の人が尋ねる。

「二人で自殺しました」

「どうでして警察に通報しなかったの?」

「通報しないでって頼まれて」

 警察の人は苦笑いした。

「何てお父さんとお母さんは通報しないで欲しかったのかな?」

「税金を無駄に使いたくなかったんだと思います」

 

 Aちゃんは精神病院に収容された。

 もちろん、スマホは没収。

 Aちゃんはスマホを見れなくなって、ようやく一人で考える時間ができた。

「どうして、パパとママを殺しちゃったんだろう・・・」

 Aちゃん自身、何故あんなことをしてしまったのかわからなかった。

 これから一人で生きて行かなくaてはいけない。途方に暮れた。

 誰も見舞いになんか来なかった。優しかったおじいちゃんも、おばあちゃんも。親戚の人たちも・・・。


 今そばにいるのは、ウサギのぬいぐるみだけ。旅行に行った時、母親にねだって買ってもらったものだ。


「何でパパとママ殺しちゃったのかな」

「余計なことするからだよ」

 うさぎは答えた。

「痛かったんじゃないかな?」

「仕方ないよ。あっちが悪いんだ」

「でも、パパとママに会いたい」

 Aちゃんは言った。

「死ねば会えるよ」

「でも」

「トイレットペーパーを喉に詰まれば窒息して死ねるよ。やってみて」

 うさぎは笑った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スマホ依存 連喜 @toushikibu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ