第6話「バカと決戦!奴隷オークション! 後編」
前回までのあらすじ
異世界にやってきた男樽谷安太郎は、買い物の途中オークションにかけられているエルフを発見し落札しようと企む。安太郎がまたバカなことを言い出したせいでオークションはメチャクチャに。
エルフの少女が商品として出品されたオークション。一時は値段が1500万GOLDにまで高騰したものの、安太郎と3人のおっさんが手を組んだことで、理不尽にも価格は暴落した。
この状況に、このオークションを仕切り、エルフの出品者でもある親父はひどく取り乱す。上客だと思っていた3人が、いつのまにかあのバカの味方になっていたのだから無理もない。
「ちゅ、中止だ! オークションはここで中止!」
そんなことを言い出した親父であったが、それを許すほど安太郎は甘くはない。
「は!? ふざけんなよ! 一度始めたオークションが中止なんてありえねえだろ!」
安太郎は怒り狂う。
「あ、ありえないって、そんなの値段がどんどん下がっていくオークションもありえないと思うけど……」
親父はなんだか自信がなくなってきて小声でそんなことを言った。
「はん? 聞こえねえな! 30万GOLDだ!」
「25万GOLD!」
「20万GOLD!」
「15万GOLD!」
オークションの主導権は完全に安太郎達に握られている。安太郎達を追い出すことも、オークションを中止して逃げることもできず、親父はどんどん下がっていくエルフの値段を見守ることしかできなかった。
さらに入札は続く。
「10万GOLD! 振り出しに戻ったなぁ、親父!」
そう、10万GOLDからこのオークションは開始されたのだった。一度は1500万GOLDまで高騰したエルフの値段は、再び10万GOLDに戻ってきたのだった。
(そ、そんなバカな話あるか! なんで一旦は1500万GOLDになった商品が開始値に戻るんだ!)
しかし、悪いことに値段はさらに下がっていった。
「5万GOLD」
(本当にどうなってんだ? 開始値の半額だって!? 何がどうなったらこうなる!? 10万GOLDからスタートだったんだ。俺っちが『最低でも10万GOLDは欲しいなぁ』と思ってそう設定した。そしてみんな予想を遥かに上回ってどんどん値段が吊り上がっていたはずなのに……)
「4万5千!」
「4万!」
「3万5千!」
「3万!」
(なぜこうなる!?)
もはや親父にはどうすることもできず、泣きながら神に祈るしかなかった。
(だ、誰か助けてくれ……暴落を……この価格の暴落を止めてくれぇ!!)
親父の声が神に届いたのか、その時奇跡が起こった。
「2000万GOLD!」
入札の宣言。高くよく通る美しい声がオークション会場に響き渡る。
「だ、誰だ!? さっきのは!?」
「い、いや俺達ではない」
「2000万GOLD、だと?」
「今の声……何がおかしな方向から聞こえてきたような」
安太郎と3人のおっさんが動揺していると、続けて同じような声が聞こえてきた。
「3000万GOLD!」
さらに金額は上がっている。
「い、一体この声はどこから……な!?」
安太郎が何かを発見。
「ど、どうした若いの」
「あ、アイツだ! アイツが入札したんだ!」
安太郎が指差した方向を見て、一同は驚愕した。
安太郎が差したのは商品の入った檻。その檻の中から、また声が発せられる。
「5000万GOLD!」
声がしたのは檻の中から。つまりこの声の主は、現在オークションにかけられている商品、奴隷エルフその人だったのだ。
「7000万GOLD!」
檻の中で手をあげて、高らかに宣言するエルフの少女。
ここにきて、オークションに緊急参戦、奴隷エルフ!
商品自体がオークションに参加するというウルトラC級の荒技で電撃入札。
「な、なんだって!」
驚くデブ。
「そ、そんなバカな! 商品自体がオークションに参加するなんて聞いたことないぞ!」
抗議するハゲ。
「許しがたことですぞ、これは!」
怒るヒゲ。
モンスターハンターの親父もこの状況に戸惑っていた。
(商品自体が入札? ていうかアイツ人の言葉喋れたんだ……しかし、今はそんなことはどうでもいい!)
「7000万GOLD! 7000万GOLDだ! さあさあ! 現在最高価格はそちらのお嬢さんが入札した7000万GOLDだよ! さあさあこれ以上はないか!? これ以上はないか!?」
なんと、意外にも親父はエルフの入札を許可。
親父としては、このまま安太郎たちにエルフを二束三文で買い叩かれるよりもマシだと考えたのだ。そもそも商品が商品を落札した場合どう処理するのか、そもそもエルフは金を持ってるのか、などの疑問もあるが、そんな細かいこと考えている余裕は今の親父にはなかった。
安太郎一派とモンスターハンターの親父、そして奴隷エルフ、三つの勢力が入り乱れ、オークションはさらに混沌としてゆく。
「許可しようっていうのかよ!? こんな理不尽なことを!? なんて卑怯な奴らだ!」
第三勢力の登場に、安太郎は激怒。もっとも理不尽なのは安太郎達もそうなのでどっこいどっこいではあったが。
「ど、どうしましょうか?」
「決まってるだろ! オレたちも入札を続ける! 2万GOLD!」
オロオロするヒゲを安太郎は一喝し、入札。7000万GOLDから一気に2万GOLDへと大暴落。
「8000万GOLD!」
エルフは余裕の表情。ちょっと前まで死んだ目をして虚空を見つめていたとは思えない態度だ。
「だ、ダメだ。コイツには勝てない……」
デブが狼狽え始めた。
「そ、そんなことねえ! 絶対に勝てる! だから諦めるな!」
そんな安太郎の励ましも虚しく、エルフの非常な言葉がデブにとどめを刺した。
「1億……1億GOLDだ!」
「グワァー!」
デブは叫び声をあげ、そのまま倒れてしまった。
「デブのおっさーん!」
デブ、脱落。
「まずは、1人」
そう言ってエルフはニヤリと笑う。その様子を見て安太郎の背筋が凍る。
(こ、こいつ今の状況を楽しんでやがる。自分はオークションに出品されているっていう極限の状況だというのに! なんて胆力だ!)
続いてハゲも弱気になり始めた。
「く、くそう。もはやここまでか」
「ダメだ! 負けちゃダメだ! 絶対エルフを落札するんだろ? 夢を、欲望を忘れてはダメだ!」
「そ、そうだな。負けるものか……1万GOLD!」
勇気を振り絞ったハゲの入札。それをエルフは無情にも打ち砕く。
「2億! 3億! 4億! もういっちょ5億GOLD!」
エルフ、予想外の連続攻撃。
「ぐ、ぐわ! まだ負けんぞ……」
「で、その20倍の100億GOLD!」
「ぎゃあああああ!」
ハゲ、オークション会場に散る。
「これで2人……」
エルフはそう言ってまた笑った。
「ヤロウ!」
「なんということだ。とうとう貴方と2人になってしまいしたね」
残るは安太郎とヒゲのみ。
「ヒゲのおっさん! 2人の仇は必ず……」
「ええ。ですが今のうちに一つだけ言っておきます。もし私が倒れることがあったら……」
「そ、そんな話するなよ! やられた時の話なんて!」
「私の仇、必ず討ってくださいね! いきます!5000……」
「1兆GOLD!」
ヒゲが言い終えるよりも先に、エルフが入札。
「ぎょれのわあああ!」
「ヒゲのおっさーん!」
ヒゲも倒れた。残されたのは安太郎1人だ。
「これで、後1人……来い! 小僧!」
「……望むところだ! はじめようぜ! 買うか買われるかの、オレとお前の真剣勝負を!」
奴隷エルフVS樽谷安太郎(バカ)!
己のチカラ全てをかけた戦いが今始まろうとしていた。
「5000GOLD、だぁ!」
「10兆GOLD!」
「2500GOLD、だぁ!」
「100兆GOLD!」
安太郎とエルフの間で、激しい攻防が続く。
ここで一旦、ラトスとポルトの様子を見てみよう。
「す、すごい! なんだかわからないけどアンタローさんはすごいですよ」
ラトスは目を輝かせてそう言う。
「すごいっちゃすごいけど。あのさ、これオークションか? なんかルール無用過ぎてわけわかんなくなってきたんだけど」
ポルトの方はオークションのメチャクチャさについていけなくなったようだ。
そんな2人にお構いなく、安太郎とエルフの戦いは続いていく。
「2000GOLD、だぁ!」
「ひぃ!」
「1000兆GOLD!」
「おぉ!」
「1000GOLD、だぁ!」
「ひぃ!」
「1京GOLD!」
「おぉ!」
モンスターハンターの親父は、2人の入札合戦に一喜一憂していた。
暴落と高騰を繰り返す2人の入札は親父にとってはまさに、天国と地獄、デッドオアライブ。果たしてどちらに着地するのか、それは誰にもわからない。
「500GOLD、だぁ!」
「100京GOLD!」
「250GOLD、だぁ!」
「1000京GOLD!」
そんな中、倒れていたおっさん達が目を覚ましていた。
「く……今どうなっている?」
そう言ったのはデブ。
「まだ決着はついてないみたいだな」
続けてハゲが起き上がる。
「ええ、ですが状況はかなり厳しいようですよ」
立ち上がったヒゲは今の状況を冷静に分析していた。
「何? 今のところ両者は互角。あの若いのの勝ち目も十分ありそうだが」
デブは驚く。
「今のところは、ね。おそらくあの若者も気がつくでしょうね。この先に待つ地獄に……」
勿体ぶって意味ありげなことを呟くヒゲ。
「100GOLD、だぁ!」
「1垓GOLD!」
「50GOLD、だぁ!」
「10垓GOLD!」
なおも続く2人の攻防。だが、ここで戦況は大きく動く。
「100垓GOLD! 1000垓GOLD! 1穣GOLD!」
「な、何!?」
エルフの怒涛の入札。とうとう普段は聞いたことのない数の単位まで出てきた。これには流石の安太郎も動揺。
「く、くそう! 負けてなるものか! オレも一気にいくぜ! 1GOLD!」
ついに安太郎、史上最安値で入札。これ以上の安値はない。会場は大いに盛り上がる。
「ま、マズイですよこれは! ダメだこのままでは負けてしまいます!」
ヒゲが慌て始めた。
「ど、どうしてだ?」
「1GOLDで入札したことの何がいけないんだ?」
ヒゲの言葉の意味がわからないデブとハゲ。
「100穣GOLD!」
そうしているうちにエルフは前回をはるかに上回る、とんでもない金額で入札。
一方で安太郎は。
「い、1GOLD……」
先ほどと同じ1GOLDで入札。
「ど、どうしたんだよ! 急にあんなに弱気に……」
「いったいなぜ?」
ヒゲがデブとハゲに説明する。
「そう、価格を引き下げに引き下げについに1GOLDにまでなったわけです。これ以上価格は下がることはありません。一方エルフの値段の引き上げは青天井。数字には上限がありませんからね……」
「しかし、こちらはずっと1GOLDで入札し続けたら問題は……」
「確かにそうですが……彼を見てください」
「1000穣GOLD!」
「い、1GOLD」
「1溝GOLD!」
「い、1GOLD」
「い、勢いがない」
「ど、どうしてだ?」
デブ、そしてハゲもそれに気がつく。
「そう、勢いがない。考えてもみれば彼の戦法はオークションなのにドンドン価格を下げていくという無理が有るものでした。そしてその無理を可能にしていたのは『彼の勢い』であったわけです。しかし、価格を下げられなくなった以上必然的に勢いは弱まります。逆にエルフ側の勢いはとどまることを知りません」
「1澗GOLD!」
「い、1GOLD」
押されている安太郎におっさん達が声援を送る。
「負けんじゃねーぞ!」
「夢を諦めんな!」
「ここが正念場ですよ!」
「10正GOLD!」
「い、1GOLD……」
安太郎の心はもう限界だった。
しかし、今度はラトスとポルトからも声援が送られる。
「アンタローさん! 頑張って!」
「えーっと、よくわかんないけど頑張れ!」
「み、みんな……オレ」
「100載GOLD!」
「い、1……ご」
もはや声を出すのもやっとの状況。そんな中、エルフのトドメの一撃が炸裂する。
「1000極GOLD! どうだ!」
「お、おおおおお」
「アンタローさん!」
「若いの!」
「オ、オレの、負けだ……」
安太郎はそう言うと、ばたりと倒れた。
倒れた安太郎を見て親父は声を張り上げる。
「さぁ! 1000極GOLD! 1000極GOLDだ! さあさあこれ以上はないか? これ以上はないか? はい! そちらのエルフのお嬢さんが落札だ!」
長い死闘の末、オークションが終了。10000000000000000000000000000000000000000000000000000GOLDというオークション史上おそらく最高値で奴隷エルフを奴隷エルフが落札!
決着後、安太郎の周りには仲間達が集まっていた。
「アンタローさん!」
「しっかりしろアンタロー!」
「若いの!」
「み、みんな……ごめんみんなオレ負けちゃったよ。本当に情けねえ」
そう言って涙を流す安太郎。
「そんなことはねえよ! お前はよくやった!」
「本当によく戦ったよ、俺たちの分まで」
「そうです、情けないなんてそんなわけないじゃないですか! 私は貴方を誇りに思います」
デブ・ハゲ・ヒゲは安太郎の健闘を讃えた。
そうしていると今度は檻の中から声がした。
「おい、小僧」
もちろん、その声の主は先程まで安太郎と死闘を演じた奴隷エルフである。
「小僧、名前はなんと言う?」
「樽谷……安太郎」
安太郎が素直に答えると、エルフは笑って言った。
「ダルタニアンタローよ。私の名はラ・ムー。エルフのラ・ムーだ。お前は人間でありながらなかなかのチカラを持っているようだ。いつかまた戦おう。そしてその時こそ、私のチカラを超えてみろ!」
「あ、ああ!」
安太郎は力強く返事をした。
(フッ、すげえな。世の中には強いヤツがいっぱいだ。勝ちてえ、いつかアイツにも。確かに今回オレはオークションで奴隷エルフを得ることはできなかった。しかし、3人のおっさんとの絆とラ・ムーとの出会い。これがオレがこのオークションで得た、きっと商品よりも大切な宝だと思えてならない)
一応言っておくがそんなのは安太郎の考え過ぎである。
兎にも角にもオークションは終了。
「いやー、一時はどうなることかと思ったけど無事高値がついて良かった良かった。これからは遊んで暮らせるってもんだ」
親父は一安心。
「おい! 親父! 早く檻から商品を出してくれ。せっかく落札したんだからさ」
檻の中のラ・ムーは親父に言った。
「おっといけね。俺っちとしたことが」
親父は檻のドアを開け、エルフを外に出した。
「それで、お代金の1000極GOLDを……」
「は? 何言ってんだよ。私商品なんだから落札した奴に言えよ」
親父はオデコを叩いて笑う。
「それもそうだったな、わははは」
「じゃあ私は行くよ。エルフ・ウィング!」
エルフのラ・ムーはそう叫ぶと、背中から巨大な翼を生やし、空高く飛んでいってしまった。
「あいつ、飛べたのか……まあいいか。達者でなー!」
親父は手を振りラ・ムーを見送った。
「さてとじゃあ代金をもらって……あれ? そういえば商品はあのエルフだけど、落札したのもあのエルフ」
親父は周りを見回したがもはや広場には誰も残っていない。
「お、俺っちの金はどこだ?」
代金ももらえず、1人広場に残された親父はただただ呆然と立ち尽くすしか無かった。
つづく
バカの異世界ファンタジー ドン・ブレイザー @dbg102
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