これで最後

一之瀬 透

これで最後


「これで最後だから!頼む!」

そう言ってまた金を借りる。

「仕方ないなぁ。最後だぞ本当に!」

本当に最後なんだ。

こいつから借りるのは。

結局違うやつから借りてしまう。

言わずもがな俺はギャンブル中毒ってやつだ。

自覚はある。

金を借り、返すために借り、返したと思えばまたギャンブルのために借りる。

仕事はコンビニバイト。

いつからだろうか、こんなことになってしまったのは。

今日も負けた。

五年前のあの日のように。

俺は親の金銭的理由で名門私立には行けず、

近所の公立高校に行った。

周りはバカばっかりだった。

中学の時から成績は一番だった。

勿論、こんな高校では一番だ。

俺はこの学校から東京大学に行ってやろうと思っていた。

国公立で一番賢い大学。

日本最高峰の大学。

この高校からそんな大学に行けば一大ニュースだ。

しかし、そんな考えは甘くいかなかった。

環境が悪い。

俺だけだったバカ真面目に授業を受け、毎日勉強に励んでいたのは。

毎日バカの一つ覚えのように遊び呆けている奴らを見下していた。

教室でうるさくしていたあいつらのせいだ。

俺はいつも人のせいにしているのかもしれない。

俺の悪いところだ。

結局人のせい。

受験も借金もギャンブルも。

邪魔してくる同級生、

ホイホイ借してくれるやつ、

進めてきた先輩、

全部俺が悪い訳じゃない。

こんな俺でも彼女がいる。

勿論借金やギャンブルは隠しているが、、、

彼女は俺を愛し、俺は彼女を愛している。

だからこそ彼女には借りない。

それでも、彼女の家から帰る途中パチンコに寄る。

今日は勝てそうだ。

まぁ、毎日この調子だ。

結局今日も負ける。

ふと我に返る。

「俺はここで何をしている?」

俺には夢がなかった。

あるとすれば誰よりも賢くある。

勉強で一番を取ることが俺の快感だった。

しかし、土俵にすら立たなかった。

そして今、俺はあの時邪魔してきた同級生や、俺にパチンコを進めてきた先輩達よりも下にいる。

こう言う考え方を否定する人間もいるが俺はそうは思わない。

人には上下があるものだ。

俺は恐らくほぼ一番下。

何がある?俺に生きる意味が。

彼女だけだった。

友達も先輩ももうそこには居なかった。

金を返せと言う友達ももう連絡して来なくなった。

最近薄々気付き始めていた。

邪魔をしてきていた同級生。

俺を仲間に入れようとしてくれていた同級生。

ホイホイ俺に金を借は友達。

俺を信用してくれる友達。

パチンコを進めてきた先輩。

俺に新しい娯楽を教えてくれた先輩。

俺は勝手に沼に落ちていただけだ。

俺は彼女に正直に話した。

彼女は言った。

「じゃあ、一緒に友達にお金返しに行こ。」

あぁ俺はなんて心が広い人に出会ったのだ。

感謝の言葉しか出なかった。

俺はその場に泣き崩れてしまった。

その日の帰り道。

俺はいつものパチンコ屋の前に立ち止まった。

いつも通りキラキラしている台。

聞き覚えのある音。

しかし、なぜか少し耳障りで目障りだった。

俺は変わっていた。

「今日は勝ったから焼肉行こうぜ!いつも俺ばっか負けて奢ってもらってたし、今日は俺が奢るよ!」

その言葉を聞いてハッとした。

急いで彼女の家に戻った。

「頼みがある!最初で最後だ!」

彼女の顔から笑顔が消えた。

そこに残っていたのは哀れみの目だった。

俺に一万円を投げつけ彼女は言った。

「これで最後だから。全部。」

全て意味は分かっていたが、この時の俺にとっては二の次だった。

何も言わずに走り出しいつもの台にしがみついた。

そしてまた、負けた。

そしてまた、我に返った。

とうとう俺は彼女にまで借りてしまった。

そして、別れを告げられた。

電話が鳴った。

「彼女か!?」

急いで電話を取った。

「あ、荒川さん?うちから借りてる金いつ返すの?もう利息で百万超えてるよ?」

そうだった。すっかり忘れていた。

俺は闇金から三万円借りていたことを。

もう俺はただの白紙だった。

路頭に迷った。

もう何も無い。

むしろ、マイナス。

ゼロですら無い。

ああ、もういいだろう!

「これで最後だ。全部。最後、、、」

俺はそう口にして公園の木の太い枝にいつもつけてる長めのベルトをくくりつけ、

「また負けた。」

皆んなが、環境が悪いと思っていた。

でも、全部自分が悪かった。

感情なんか無かった。

でも、なぜか俺は笑顔になった。

「ギブアップ!」

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