虚構エッセイ『みみバース』
澄岡京樹
第1話「vsダーク蟹」
虚構エッセイシリーズ①「vsダーク蟹」
※全ての内容が虚構とは限りません※
皆さんこんにちは。澄渡みみです。最近暑いですね。ていうかクソ暑いですね。真夏日オアアーーッつってね、やってらんねえですねホント。こういう時は河川敷とか砂浜とかでボケーっと水辺を眺めまくりたいところです。体育座りとかしてね。水辺、涼しげですからね。
で、川とか海とかで思い出したんですけど、蟹ってどっちにもいるじゃないですか。沢蟹と、後、あの、海蟹? 何? 呼び方これで合ってんの? わかんないわ。とにかくそういった感じで蟹ってどっちにもいるじゃないですか。いやーなんかそういうの好きなんですよね。それぞれの環境に合わせた形態っていうんですかね、生物の多様性って感じでね。良いと思うんですよね。
ただね、ただこれだけは言っておきたいんですよね。蟹は蟹でも……、そう——
——ダーク蟹には気をつけろ。ってね。
あれはダークベース木下とのキックベース対決でサヨナラホームランした日の帰りでしたか。勝って気分良かったんでね、「今日は奮発して高級料理でも食べに行っちゃうかな〜〜」っつってね、やたらテンション高かったんですね。で、木下はよほど悔しかったのか「はーマジで走塁妨害とかそんなルール知らねーんだけど……うちの地元にそんなルールなかったんだけど」とか50分ぐらいウダウダウダウダ低くなったテンションで言い続けてたので「魔界か何かの出身でいらっしゃる?」などと煽っちゃったんですね。イラッときちゃったんでね。そしたら木下ったらね、
「は? 魔界出身ですけど?」
とか言ってくるもんだから「マジ?」って聞いたら「マジ」と返してきたもんですからびっくりしちゃってね。「じゃあ証拠を見せてみなさいよ」と言ってやったんですよ。そしたらね、
「じゃあお前あの沢に蟹いんじゃん。あれを今からダーク化させます」
とか言っちゃってね。なんかおもむろにジーンズのポケットから闇のアイテム的な真っ黒の棒を取り出してね、それの先端をなんか3センチぐらいの蟹に向けたんですよ。そしたらね、「闇の地元の条例で決まってっからダチには使えねーから蟹に使うんだかんね!」とか急に赤面しながら『闇の棒-ダーク・ロッド-』の先端から黒い極光(ラーメンの麺ぐらいの太さ)を蟹に放ったんですね。そしたらね、蟹がダーク化したんですよ。
いやダーク化って何? そう言いたくなる気持ちはよくわかります。わかりますよ。でもこれはもうダーク化という他ないというかなんというか。まず目つきが大変悪くなります。蟹さんの目が通常だと〇型だとするじゃないですか。ダーク蟹の目は▱型です。平行四辺形ですね。なんていうか「俺は今までの純朴なカニくんじゃないぜ」みたいなセリフが聞こえてきそうですね。そう思いましたね。で、次はハサミですよ。まあ元から強そうではあるんですけどこれがなんとチェーンソーに変貌してしまっています。いやマジで危ねえ。ダーク蟹マジで危ないんですよ。足もなんかデフォルトで尖ってはいましたがダーク蟹はそんなレベルじゃない。刀です刀。「俺に触れるとケガするぜ」とかそんな次元じゃないです。斬れます。危なすぎます。おまけになんか漆黒の翼まで生えてました。いやダーク化マジでハンパねえ。あの時はそう思う他なかったですね。後3メートルになってました。ヤバ〜〜。
そんなダーク蟹、こんなんどうすりゃええねんっつってね、ぼくはちょっとマジで真剣に悩んだんですね。これは人類の脅威になっちまうんじゃないのかい? ってね。木下の魔界パワーちょっとシャレになんないよねって。「ていうかダークベースって肩書きじゃなくてマジでそういう名前だったんね?」とついでに流れで聞きましたよねせっかくなんで。そしたら「あっ、それは普通に私が好きで付けた肩書き……」とか恥ずかしそうに言うもんだからなんやねんとなったんですけどもね。
とはいえダーク蟹の脅威は未だ健在なわけですよ。これが野に放たれたらヤバいよねって。いやまあ野には既に放たれてはいるんですけど、これはまあ文脈的にニュアンスを汲み取ってほしいですよね。などと補足(?)を入れつつね、今はとにかく木下を説得してみるしかないかなと思ってね、木下に「ダーク蟹はヤバいからなんとかならん?」って言ってみたんですね。そしたら木下が「私ならダーク化の解除も思いのままだけど、それには条件がある」とか言いだしてね。これひょっとして人間世界と魔界との大いなる戦いの発端とかになってんじゃないだろうな、なんて内心メッチャ焦りながら「……要求を聞かせろ」ってこっちもシリアスな返答をしたんですね。そしたら50秒ぐらいの沈黙を破って木下のやつこう言ったんですよ。
「わっ、わわわ、私と付き合あああああ付き合ってください!!」
それからかれこれ5年ちょい。彼女は喧嘩するたびに蟹のダーク化をチラつかせて脅かしてくるのでした。
happy end
それはそれとしてつづく
虚構エッセイ『みみバース』 澄岡京樹 @TapiokanotC
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