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今の僕に出来るのは『意思疎通の能力』を使って相手の動きを封じることだけ――。
僕は依然として剣も魔法も使えない。走り込みをして多少は体力がついたけど、それは微々たるものであって実戦ではほとんど役に立たない。
そして鎧の騎士に対しては、頼みの綱である『意思疎通の力』を行使しても何の手応えも感じられなかった。事実、鎧の騎士の動きは最初から現在まで全く変わらない。つまり僕の能力は効果が出ていないということになる。
普通に考えれば、この時点で僕には打つ手なし。完全にお手上げ状態だ。
――でももし僕が根本的な間違いをしていたとしたら?
僕はようやく気が付いた。
そう、力を行使するべき相手は鎧の騎士じゃない。鎧の騎士は召喚魔法によって呼び出された存在であり、言い方は悪いかもだけど彼は『単なる操り人形』。つまりその動きを封じるなら、鎧の騎士を操っているタックさんに対して力を行使しなければならなかったんだ!
その推測が正しいなら、ミューリエの『敵を見誤るな』というアドバイスにも納得がいく。
もちろん、僕の考えが当たっているとは限らない。単純に僕の力不足によって、鎧の騎士の動きを封じられていないだけかもしれない。
だけど推測通りなら僕にも勝ち目がある! これは最後の賭けだ!!
「すぅ~……はぁ~……」
僕は深呼吸をして、あらためて心を落ち着けた。すでに雑念は振り払えている。覚悟も出来た。意思疎通の能力を使う準備は万端だ。
「…………」
心を落ち着けたあとはいつものように想いを念じ、それが伝わるよう願う。視線の先にいるタックさんに向かって!
なるべく彼に近い位置まで移動したのは、少しでも念が伝わるようにするため。僕の力を知らないタックさんは、おそらくこちらの意図に気付いていない。
しかも僕は剣を握っていないし、一般人以下の攻撃しか出来ないと思っているから油断もしているだろう。でもだからこそ、そこに付けいる隙がある。
唯一の不安材料は、僕の力が人間には通用しないということ。ただ、タックさんは人間に近いとはいえ、別種族のエルフ族。つまり力が通用する可能性はある。
もし人間に対しての時と同じように、力が効果を発揮しなかったらその時はお手上げだけど……。
いずれにしても、まだ試したことがない相手だから結果がどちらに転ぶかは現時点では分からない。でも今はモンスターにも通用する『力の強さ』があるんだ。試してみる価値はあるっ!
『……タックさん、もう戦うのはやめてください。お願いです』
僕はタックさんに対して想いを念じた。
すると直後、タックさんは目を丸くしながら身体をビクつかせる。瞳には明らかに動揺の色が浮かんでいる。
僕の言葉がそのまま伝わっているのかどうかは分からないし、彼自身に何が起きているのかも分からない。だけど何らかの効果が出ているのは確かみたいだ。
『タックさん、敵を倒すことだけが全てじゃないんです。僕みたいな戦い方もあるんです』
「なっ、なんだこりゃ!? おかしいっ! オイラの魔法力が勝手に小さく収まっていく!! 変な力が流れ込んできて、オイラの魔法力を打ち消そうとしやがるっ!」
タックさんの表情から完全に余裕が消えていた。
今までずっと座ったままだったのに慌てて床の上に立ち上がって、開いた両手を鎧の騎士へと向けている。そうしていないと鎧の騎士を使役できなくなっているらしい。
額には脂汗が滲み、歯を食いしばって必死に僕の力に抵抗しようとしている感じだ。
あの反応を見る限り、僕の言葉がテレパシーのように直接伝わっているというわけではないような気がする。想いそのものが何かの力に変換されて伝わり、それが相手の戦意を喪失させるみたいな。
その点はモンスターや動物たちに対する力の発現と少し異なっているのかもしれない。
――さて、次はどう行動する?
●力を行使し続ける……→16へ
https://kakuyomu.jp/works/16817139556074419647/episodes/16817139556075256879
●タックを気遣い、声をかける……→29へ
https://kakuyomu.jp/works/16817139556074419647/episodes/16817139556075912759
●ひと息をつく……→8へ
https://kakuyomu.jp/works/16817139556074419647/episodes/16817139556074990268
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