第27話 それから

 それからのことを少しだけ語っておこう。

  

 朋香は僕の告白を知って、「鈴さんは正式に私のライバルになった」と堂々と吹聴していた。


 鈴さんは鈴さんで、「張り合いがあるねえ」と笑っている。


 モテ期が到来したのかと最初は思っていたけど、あの二人は僕がいない所でよく買い物に行ったり遊びに行ったりしている。

 どちらかというと、僕は女の友情のダシにされてる気がしないでもない。


 別にいいけど。

 

 えつさんは夫と孫の桐春を見守りながら、毎日多くの若者を叩きのめしている。


 最近は女の子の弟子も増えてきたそうで、えつさんも教えていて楽しそうだ。

 そのおかげか、ボケの症状も緩和しているとか。


 桐春が継がなければ女性専門の道場になりかねないが、矢神流道場は変わらず盛況である。

 

 米子さんは、小中学生を対象にした私塾を開校した。


 教え方が若い先生に比べて厳しいらしいけど、勉強の後に米子さんが出してくれる手作りのお菓子が、子ども達には好評だ。


 孫の優弥は「お婆ちゃんを取られる」と大泣きしているそうで、米子さんは毎日苦笑いしている。


 菜恵さんは、今も祈祷師兼占い師を続けている。

 たまに鈴さんと一緒に遊びに行くけど、相変わらず旦那さんを見せてくれない。


 一度だけ「ナエちゃん、寂しいよ」と家の奥からすすり泣きが聞こえて、菜恵さんは顔を真っ赤にして「あのクソじいい」と発憤していた。

 怪しげな人には違いないが、不意に見せる素顔が実に和む。


 桐春は、調子よく新たな恋を探している。


 話によると、純さんのひ孫(ずっと東京にいたそうだ)と最近初めて会うことが出来て、その子につきまとわれて困っているらしい。


「純さんによく似ているんだ」と満更でも無さそうな桐春だが、まだ相手は中学生だそうである。

『楼女』とは別の意味で難しい恋愛に発展した場合、僕は止めるべきなのだろうか。


 最近の悩み所だ。


『ぽたらか』は、孫のアヤメさんをドラムスに加えた後、精力的に新曲を発表している。


 ファンはどんどん増えているらしく、この前ついに新曲の販売数とダウンロード数が週間チャート一位を獲得した。話題性に音楽性が着いてきた、ということなのだろう。


「バンドとしてはまだまだこれからです」


 と、メンバーは口を揃えていた。

 本当にビッグになって欲しい。


 そして僕は、今でも楽しく鈴さんに書道を教わっている。


 頻度が以前より増えてしまって、週一どころか週七になりそうな勢いだ。

 入り浸っていると言ってもいい。


 母さんに複雑そうな表情をされたり桐春に応援されたりで、まあ面倒なこともあるけれどそれなりに楽しい交際を継続している。


 鈴さんは今でも仏壇を寂しそうに眺めることが多いし、心中は複雑だけれど。


 さらさらと竹の葉の擦れる音を聴きながら――

 きっと慣れていくのだろう。


 僕も、鈴さんも。


「私の葬式が終わったら、もう一度、自分の幸せについて考えるんだよ」


 鈴さんはたまに、陽気に笑いながらそう呟く。


「まあ、そのときが来ればね」


 僕はいつもそんな感じで、虚勢を張る。


 別れが来るのは決まっているし、分かっている。


 それを想うからこそ大切に出来る日々がある。

 気候は変わっても週末は来る。


 最初から、重要なのはそれだけのはずだ。

 例え後で身を引き裂かれるような想いになろうとも、それで問題は無い。


 例えこの世界が地獄そのものであろうとも、何も問題は無い。




 それから十年以上、僕と鈴さんは恋をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超絶美少女に若返ってしまった近所のおばあちゃんに恋をしたぼく ホサカアユム @kasaho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画