刃渡り十センチの聖剣と大きすぎる魔杖

@KazyoshiAndoh

第1話 始まりのお話

 剣というには短すぎ、ナイフとしては美しすぎる。


そんな聖剣を携えた勇者と。


 杖というには大きく重すぎて、大槌というには威力の無い。


 そんな魔杖を使う魔女が復讐する為、世界を救う為に旅に出るお話をしましょう……




 それは豊かな日の降り注ぐ暖かな日、広い草原で遊ぶ子供たちをお世話する十代後半くらいの若い男女がいました。


「なぁアリス、今日はいい天気だよな。 俺らもちびっこたちと遊ぶか」


「君は中身子供なんだからテンション上がりすぎて怪我するでしょ、子供たちの怪我の手当てだけでも大変なんだからやめてよね」


「わかったよ、俺が万が一大怪我したら守ったりもできなくなるしな」


「ん、よろしい。 守れるとか関係なくマザーと私たちでみんなのお世話をしなきゃ行けないんだからね」


「貴重な男手だしな、気をつける」


「それじゃそろそろお昼だし、子供達と教会に戻ろっか」


 アリスは大きく声を張り子供達を集めながら、言うことを聞かず遊び続けている子達にゲンコツを食らわせていきます。


 若い男━━ミカはそんな光景を見て微笑んでいました。


 今日もいつもと変わらず平和だなと。


 ミカもアリスも親がいません。


 アリスは両親が少し遠い国へ仕事へ向かうことになり、教会に預けられました。


 しかし両親とも帰ってくることはありませんでした。


 帰ってきたのは母と父が共に身につけていた半分になった宝石の付いているペンダントの


 当時、アリスはまだ物心がついていなかったので、両親のことは両親と親交のあった料理屋のおばちゃんから聞いた話でしか知らないのです。


 他の親族もおらず、祖父母も別の国が出身の両親が結婚する直前に亡くなっています。


 なのでアリスにとっての家族は教会で育ててくれたマザーとおばちゃんとミカなのです。


 ミカも両親はいません。


 それどころか、いつどこで生まれたか、一体親は誰なのか、どこの国の血が流れているのか、全くわかりません。


 ミカは国の近くのあまり人気の無い森に捨てられていました。


 その国の有名な木こりが森へ木を切りに行った際に、カゴに収まっていたミカを見つけ、教会に届けられたのです。


 そのカゴの中には幼いミカと手紙と一枚の手紙と錆びた一振りのナイフのみが収められていました。


 手紙には『私たちの愛する天使をどうか、よろしくお願いします。 名はミカ、私たちの未来です』と大変美しい字で書いてありました。


 ミカの両親の手がかりはその手紙と一振りのナイフ、そしてこの国では珍しい、黄金色をした瞳しかありません。


 なのでミカにとってもマザーやアリスは家族そのもの。


 特に双子のように育ったアリスは大切な存在なのです。


 そんなアリスが言うことを聞かなかった子供達を叱るアリスの姿を見ながらミカは頬が少し緩んでしまうのです。


 この光景がいつまでも続くことを神様に祈るのです。


 ボーッとアリス達を眺めていると叱り終わったのか戻ってきたので、草原に預けていた身体をひょいっとバネのように起き上がらせて立ち上がりました。


「それじゃあ、教会に戻ろうか」


「うん、みんなでおいしいお昼ご飯を食べようね」


 


 教会に戻ると美味しそうな匂いが漂っていました。


 料理は昼はマザーが、夜はアリスが作っています。


 マザーの作る料理は絶品なので子供達はもちろん、アリスとミカも毎日楽しみにしています。


 この国では教会が子供の託児所も兼ねているので国から資金の援助を多くもらっている上に、子供を預かってもらっているお礼にと、農家を営んでいる人たちや、猟師さん達に良い食材をもらうのでいい食材を使って料理を作れるのです。


 おかげでミカやアリス、預かっている子供達はとても健康で強く育っています。


 余った資金も教会の設備や環境に投じることでとても綺麗で、国の平和のシンボルとして愛されています。


 そんな教会の扉を力一杯に開いて子供達は次々に駆け込んでいきます。


「こら! そんなに強く扉を開いたら壊れちゃうでしょ!」


「まあまあ、元気なのはいいことじゃない? 」


「元気なのは良いことだけど、壊れたら手間が増えちゃうでしょ!」


「まあ、そうだけど……」


「それに今のうちに教えないと、別のところで壊しちゃったら大変だし!」


 子供を庇ってみようとしたらミカは反撃を受けました。


 アリスのど正論になす術もなく降参してしまいます。


「それもそうだな……」


「うん、それでよろしい。 それじゃあ、私たちも行こっか」


「だな、俺もめちゃくちゃお腹減った」


 ミカはお腹をさすりながらきゅうっとお腹の虫を鳴らします。


 それが面白かったのかアリスは口に手を当てクスクスと笑いました。


「ふふっ、私もぺっこぺこ」


 二人は教会とつながっている隣の施設の食堂に向かいます。


 食堂に近づくに連れてどんどん美味しそうな匂いは強く漂ってきます。


 お昼時はいつも教会を一度閉めているので、教会には既に食堂に行っている微かな子供達の笑い声と二人の足音だけが響いています。


 コツン、コツン、と小気味のいい音が響く教会の祭壇には、かつて天使を従え悪魔を退けたとする名の無い神の、非常に立派な像が佇んでいます。


 眺めていると強烈に引き込まれるような気がしてくる程に、圧倒的な存在感があります。


「なぁアリス、あの神様って名前はなんなんだろうな。 気になるんだよなぁ」


「気になるけど、考えても仕方ないよ。 実際神は名乗っていたみたいだけど、覚えていなかったらしいし、私たちも聞いたところで忘れちゃうかも」


「確かにな、そんな偉大な神様の名前を聞き漏らすなんてしないだろうし、なぜか忘れちゃいそうだよな」


 考えてもしょうがないことを脳内から払って、像を通り過ぎます。


 二人とも神よりも目の前のお昼ご飯の方が重要なのです。


 人間ですから。


 そのまま施設へ続く渡り廊下の途中にある食堂に入ると、子供達ははしゃぎながら料理の配膳を手伝っていました。


 優しいしちゃんとした子たちです。

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