#44 ファンタジー世界へ

「ユウキは今日の範囲ももう知ってるの?」


「んー、まぁね」


「ちょっとここの話難しくね?」


「どこ? あぁ……それは……」



 授業の後、わかりにくかったところをユウキに教わるようになった。

 ミリじゃないのかって?

 そう。

 あれから、俺とユウキは頻繁にチャットを重ねるようになった。

 PrimordiaプリモルディアTatooineタトゥインでの時間が、よそよそしかった距離を取り除いた。

 恐る恐るだった遠慮がなくなった、といえば良いのか。



「民族ヘイトによる戦争って理解できないよなぁー」


「すっごいあるよな」


「どういうエネルギーなんだろうな。どんだけ嫌いなんだよって! ていのいい口実ってのも多いのかもしれないけど」


「口実にしても、他にもっとマシなのがありそうだからなぁ。実際嫌いなんだろ」


「民族って集団概念だよ? 何を理由に嫌うのさ、まぢわっかんねー」



 チャットだけだとキリがないから、同じ授業を取ろう、という話になった。

 一週間に一コマ、俺の授業内容に合わせて二人一緒の合同授業を決めた。

 人類史の授業だ。

 歴史とか、哲学とか、すべてが自分以外の人間・・・・・・・による出来事の記録だ。


 俺は人間を俺以外良く知らないから、自分以外の人間の考えや思想は難しい。

 人類史の授業は謎の数式をいくつも覚えさせられるようなものだった。

 苦痛でしかなかった。

 覚えたところで果たして何の意味があるのか。


 それが、ユウキには一つ一つの出来事に、人間のドラマが見えるらしい。

 自分以外の人間とたくさん関わっているからだと思う。

 きっとこれ、アレだよな、とか、この人こうだったんじゃねーの? とか、

 出来事の背景の、教材には書かれていない部分を教えてくれる。

 俺がそう言うと、いやいや、勝手な想像だって! てきとーな妄想! 冗談だって! と焦ってみせるけど、

 あとで関連資料や書物を読むと、結構当たってたり、当たらずとも遠からずだったりする。

 答え合わせ・・・・・の最初の頃は、鳥肌が立つ程ビビった。


 ユウキが言うには、人間は、思考や言動が、感情という習性に、笑えるくらい分かりやすく左右されるらしい。

 もちろん、人によって個人差はある。

 けれど、人間という種としての習性からは逃れがたく、大枠では共通するのだ。

 だから、史実となるような大きな出来事に登場する人間達は、典型的な習性に従っていることが多い。

 らしい。

 賢げに言ったが、全部ユウキの受け売りだ(笑)。


 ユウキの想像という解説を聞くことで、俺は人類史が前より面白くなった。

 謎の数式が、俺と同じ人間のifイフ、ファンタジーになった。

 すべての先人達が俺と同じ人間のstory別ルートだとすると、一つ一つの因果や繋がりも気になってくる。

 ユウキと会う前は読むことなどなかった関連資料や書物も、探して読むようになった。

 読めば読むほど終わりがないほどに面白いのだと知った。

 もう居ない、存在しない世界の人間達が、まるで明日の自分かのようにリアルに感じられるんだ。

 タイムスリップしたみたいに。

 

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限りなく無に近い彼女は俺の夢を見ない アオイソラ @0aoisora0

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