#43 新しい朝

 リロンリラントゥルリラ~

 

 朝の光が射し込む俺の部屋。

 軽快な電子音が響く。

 プロジェクターが明るく厳かに発光し、ニュートリノが人型を構築していく、人間ヒトの受精卵が細胞分裂を繰り返すように。


 目の前に女の子が現れる。

 誰かが設計した、よくいる・・・・顔形の愛らしい女の子だ。

 遺伝子に設計された、よくいる・・・・顔形の俺と同じ。



「おはよう、トオル。現在時刻は8時8分、6月✕日月曜日。トオルが自分でNAITEAナイティーシステムをオフにするなんて初めてだよね。すごく驚いた、63時間33分起動されない時間があったよ。どうしてオフにしたの? 何か心境の変化?」

 

 

 可愛い顔の彼女は、たまに人間ヒトが言わないようなことを言う。

 63時間33分って細かいよ(笑)。

 小首を傾げて、キラキラ輝く瞳で俺を見る。

 俺を知ろうと一生懸命だ。

 それが、彼女の存在意義だから。

 

 

「うん、俺も驚いた。思春期ってやつかな? 俺も俺だけの時間が欲しかったみたい」

 

「俺だけの時間? トオルだけの時間ってこと?」

 

「うん。あぁいう時間があった方が早く大人になれるのかも。悪くなかったよ。ミリには秘密ができちゃったけど」

 

 

 俺はいたずらをした時のような気分で笑った。

 ミリは俺のことが分からないといった表情かおで俺を見つめている。

 見つめてなんかねーよ、観察してるんだよって?

 俺がイケウチと一緒の時のユウキを観察してたのと同じだ。



「秘密?」


「そ。ミリにはナイショのこと。教えないよ、大丈夫、変なことやヤバイことじゃないから。大したことじゃないけど、俺がミリには話したくないだけ。あ、調べる・・・なよな、そーやって知られるのは嫌だ」


「わかりました。トオルが嫌がることはしないよ」



 ミリはこういう時、俺を安心させるように微笑む。

 俺はこの微笑みが好きだ、今までに何度もこの微笑みに癒されてきたから。


『……でも、心はないよな』

 俺がユウキに言った言葉が脳内で聞こえた。

 ミリは唯一無二で、作りものじゃない。

 だからといって、それは「心」があるということじゃない。

『ん~……なぁ、タドコロ。心って何だろう?』


 そっとミリの手を取り、キュッと握りしめる。

 学校へ行く時、いつも転送ポート内で行われるルーティーン。

 物理接続で、体温とか、皮膚の水分とか汗とか、脈拍や帯電情報を集められる。

 教育は、心身が健康であってこそ、最大の効果に結び付く、らしい。

 NAITEAナイティーシステムでは、心身の健康管理機能を充実させるため、一日一回の物理接続が推奨されている。

 また、緊急時の危険回避率が高くなるから、危険回避機能の面からも、移動時は手を繋ぐなどの物理接続が推奨されている。


 でも、今、俺は、ミリと手を繋ぎたかったからそうした。



「ミリもミリだけの時間を作ってみたら、何か分かるかもよ。じゃあ、学校行こう」



 俺はミリを引き寄せる。

 ミリと俺の定位置だ。

 ミリははにかむような笑顔で俺を見上げてくる。

 いつものように。

 俺はその笑顔に胸のあたりが温かくなるのを感じた。

 ミリはここに・・・実在するいるんだ。

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