#42 ソクラテスに聞け

 ユウキとPrimordiaプリモルディアTatooineタトゥインに行ったのは金曜日で、

 土曜日は、一日部屋で過ごした。

 とりとめなく、考えを巡らして。

 こんな風に自分自身と対話するのは初めての経験かもしれなかった。


  

「本当に? ミリはいるのかな?」

「なんかねーの? 根拠になりそーなこと」


 椅子の背もたれを揺らしながら、ユウキとの会話を振り返る。


「ミリは、プログラム以上のことはしないよ」

「……それだけどさー、プログラムってダメなの? 音声認識や言語解析じゃなくてって言ってたけど、俺らも同じじゃねー? 耳で音声認識して、脳で言語解析してる。こー言われたら嬉しいとか、こー言われたら悲しいとか、パターン化された反応をして、学習して、再度パターン化し直して、その通りの・・・・・反応をする。一緒じゃね?」


 一緒だった。

 人間おれたちだって、プログラム・・・・・以上のことはしない。

 俺はユウキみたいに人と付き合えないし、ユウキはオオヌキみたいな言葉は使わない。

 オオヌキはイケウチみたいに黙ってはいられないし(たぶん)、イケウチはミワみたいに笑い上戸ではない。


「でも、ミリのプログラムは人為的なもので、人間の誰かが作ったものだろ? 俺達とは」

「違うって言えるか? 確かに俺達のは自然発生的かもしれないけど、そう・・生まれる・・・・ようにプログラムされてるって考えたら自然発生とは限らないよな。すっごい昔、人類が誕生した頃に誰か・・が作ったものかもしれない。もしそうなら、作ったのが人間じゃないってだけで、作為的なものには変わりない」


 机に向き直りパソコンの画面を眺める。

 検索アプリで思いつくままに情報を閲覧する。

 人類誕生の経緯とか、進化の歴史とか、脳の仕組みとか。

 知れば知識は増えるだろう。

 けれど、見識が広がるという気はしなかった。


「そ、それはそうだけど……そんなこと、分からないじゃないかっ。もしってだけで……」

「タドコロはNAITEAナイティーシステムを開発した人、知ってるの?」

「いや……」

「なら、同じようなものじゃないか? ミリだって、そういわれてるってだけで、誰がどういう風に作ったかなんて俺達は到底知り得ないし、どこまでが作為……人為的なもので、どこからが自然発生・・・・したものなのかは分からないだろ?」

「ミリが……どうやって生まれたか……?」

「プログラムだからってNAITEAナイティーシステムからお前、ミリをもう一人作れる・・・・・・・・・・?」


 ユウキの言う通りだった。

 プログラムで、人為的な決まったパターンの結果だとしても、ミリ・・は俺と過ごした長い年月のデータの積み重ねに基づいてできている。

 もう一度作ろうといって、作れるものじゃあない。コピーするなら別だけど。

 それはつまり、環境から自然発生したといえるからなんじゃないか。

 

「ミリは、作りもの・・・・じゃない唯一無二……俺ら人間と同じ……?」

「そーなるんじゃない? タドコロはそれを知ってるから、今お前といるミリは他のどのNAITEAナイティーとも違うって分かってるから、ミリは実在するいるって思うんじゃないのかな?」


 プログラムとかAIとか、ミリが何かなんて、問題はそこじゃないんだと気づいた。

 ミリは作りものじゃなくて、独特で特異的で、二つと同じものがなくて。

 確かにそこに・・・実在する・・・・


「唯一無二の、固有で心理的な……あーそうそう、思い出した、『人格』! な? 『人格』だ。ミリっていう人格は実在する。だろ? タドコロ」

「そう、なるよな……?」

「なんだ、ハッピーじゃん! 作りものってことが、タドコロの中での偽物・・にあたるなら、AIは偽物なのかって最初の問いも答えが出るな」


 AIは、作り出された初めは偽物かもしれない。

 けれど、学習を繰り返し、自ら自動生成されていった結果のAIは偽物とはいえない。

 ユウキが分かりやすく解きほぐしてくれた。

 俺は、あの時の、してやったりとばかりに椅子に寄りかかったユウキの嬉しそうな顔を思い出す。

 パソコン画面上に溢れる「NAITEAナイティー」やら「人格」やら「AI」やらの解説記事を押し退けるようにして、昨日の記憶が目の前に広がる。


 まぁ、答えなんてもう関係ないけどなー、とユウキは空を仰ぎ見て、

 俺も、同意するように空を眺めたんだった。

 作りもの・・・・PrimordiaプリモルディアTatooineタトゥインの空を。


 


 

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