第11話 懐かしき呼び名

「健太くん、このドレスどう?」


「うん、いいんじゃないか? 良く似合ってるよ」


「もうっ! さっきも同じ感想だったじゃん!」


「どれも似合ってるんだから仕方ねーだろ!」


「ちょ、ちょっと! そんな恥ずかしいこと大声で言わないでよ!」



◇ ◇ ◇


「結婚式の準備だいぶ進んだね! あとは引出物を選んで――」


「なぁ、今度の週末予定空いてる?」


「えっ? あ、うん。仕事休みだし空いてるけど……?」


「なら良かった。結婚式前にナオと一緒に行っておきたい所があるんだ」


「それってどこ?」


「まぁ行ったら分かるよ」


「……? わかった」



◇ ◇ ◇


「健太くんが行きたかった所って、ここなの? でも、ここって……」


「あぁ、チャペルだ。結婚式を挙げる前にこの場所でやっておきたいことがある」


「どういうこと?」


「とりあえず中に入ろう」



――ギィー……、バタン


「わー、綺麗だね! でもなんだろう……、初めて来た気がしない……」



—―ザザ~ン……


「これって波の音?」


「あぁ、近くに海があるんだ」


「良く知ってるね。ねぇ、なんでここに来たかったの? やっておくことって何?」


「ここは俺にとって大切な場所でさ、どうしてもここで誓いたかったんだ」


「誓うってなにを? それになんでそんな泣きそうな顔してるの?」


「……ねぇ、俺の前に立って」


「う、うん……」



――コツ、コツ


「ナオ、たとえお前の記憶が戻らなくても、俺はナオのことを生涯愛し続けることをここに誓います」


「健太くん……」


「ナオ、愛してる。俺のそばにずっといてください」


「……はい。私もずっとあなたのそばで、あなたのことを愛し続けます」


「じゃあ、目つぶって」


「うん――」



――俺たちの誓いのキスだけはどうか覚えてて……


「……え? なに?」


「どうした?」


「今誰かの声が……」


「声? 俺たち以外誰もいないけど? それよりもナオ……、お前、涙が……」


「え? ……わっ! な、なんで!? どんどん涙が溢れてくる!」


「おいっ、大丈夫か!?」


「ま、待って……。私、やっぱりここに来たことがある……。ここに立って……。誰かと一緒……」



――ゴーン、ゴーン、ゴーン


「海……、この鐘の音……、忘れちゃいけない誓いのキス……」


「ナオ?」


「…………?」


「お前、その呼び方……」



◇ ◇


 俺たちの止まっていた時間が今、再び動き始めた。


  私たちは失った時間を取り戻し、二人で一緒に未来を生きる。


ナオ……。


  健太……。


俺はもう二度とお前を離さない。


  私たちはもう二度と離れたりしない。



                         完

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記憶を失った君にできるたった一つのこと 元 蜜 @motomitsu

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