第10話 二度目のプロポーズ

――ザザ~ン……


「わ~! 海~!」


「健太くん、こっち~!」


「ナオ! あんまはしゃいでると転ぶぞ!」


「大丈夫! ――って、キャッ!」


「ほら、言ったそばから〜」


「ご、ごめ〜ん」


「立てるか? 服は濡れてない?」


「うん、大丈夫。支えてくれてありがとう」



――ザザ~ン……


「……健太くん?」


「なぁ、キスしていい?」


「え? あっ、うん……。いいよ」



――ザザ~ン……


「ナオ、好きだ。俺と付き合ってほしい」


「……私も健太くんのこと好きだし、彼女になりたいとも思ってる。でも、その前に言っておかないといけないことがあるの……」


「なに?」


「実は私ね、病気のせいで昔の記憶がないの。生まれた場所や通ってた学校、その当時の友達のこととか全く思い出せない。病気自体は治せたんだけど、失った記憶は戻ってこなかった……。ねぇ、そんな暗い過去のある私でもいいの?」


「……ナオは今でも昔を思い出したいって思う?」


「分かんない。でも今は健太くんと一緒に前だけを見ていたいって思ってる」


「じゃあ問題ないな。これから先のナオの未来は俺が幸せにするから」


(この笑顔……、どこかで……)

「ありがとう」




◇ ◇ ◇


「お~い、ナオ~! この段ボールはここでいいのか~?」


「健太くん、ありがとう! その辺置いといて~!」


「付き合って3か月。これで毎日一緒だな」


「一緒に住めるのは嬉しいけど、健太くんは朝弱いから、毎朝起こすの大変だなぁ~」


「俺、ナオが目覚めのキスしてくれないと起きられないから、毎朝頼んだぜ!」


「もうっ! バカッ!」



◇ ◇ ◇


「健太くん、おはよ~! 早く起きないと仕事遅れるよ~!」


か……」


「うん? 何か言った?」


「なんでもない。それよりも目覚めのキスは?」


「もう起きてるじゃん!」


「それでもしてよ。ほら早く」


「しょうがないなぁ~」



「はいっ、これでいい? ……ん? そんな真面目な顔してどうしたの?」


「ナオ、結婚しよう」


「えぇぇぇ!? このタイミングでプロポーズ!?」


「別に急に思いついたわけじゃないぞ? 実は俺、初めて会った時からナオと結婚するつもりでいたんだ」


「初対面だったのに、そんな大事なことすぐに決めちゃって良かったの?」


「うん。俺はナオ以外考えられなかったから。それに……、初めて会った日からずっと、‟一生そばにいたい”って思ってた……」


「そんな風に思ってくれてたなんて嬉しいな」


「それで返事は?」


「返事はもちろん、『はい、こちらこそよろしくお願いします』だよ!」



◇ ◇ ◇


 幼馴染だった二人が恋人になり、そしてついには夫婦となる。

 あの日以降、叶わなかった恋人としての時間をナオとともに過ごせて俺は幸せだった。


 でもなぜだろう……。淋しさが俺の心の奥底に居座り続けている……。

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