解決編

 噂集目は三坂神社の先輩の部屋に押し掛けていた、そこはまだ幼い女の子の部屋という印象に思えた。



「私は真相をあなたの口から聞きたいんです、三坂先輩」


「………」


 ローテーブルに座った三坂先輩は何も語らない、二人の間に氷がカランと音を立てるオレンジジュースがあった。



********************



 話は構成と集目の居た夕刻の教室に戻る。



「どう言う事? 構成?」


「どう言う事って、呪いなんか無いって話だよ」


「……」


「つまりね集目」


「一つ、丑の刻参りが行われて藁人形が神社の御神木に打ち付けられた」


「一つ、それを聞いた彼女持ちにコクられるほどモテモテの茂木先輩が学校で倒れて救急車で運ばれた」


「一つ、御神木がキラキラ光ったあと突然枯れて茂木先輩がまた元気に学校に通い始めた」


「一つ、丑の刻参りのせいで御神木が枯れたとうわさが流れ始めると同じく三年生の三坂神社の娘が学校に来なくなりその神社がたたまれるって話しになった、警察に被害届けも出さずに……」


「ええ」


「じゃあ、これで構成されるストーリーは一つしか無いよ」


「……何?」


「藁人形を打ち付けたのは三坂神社の娘の先輩で、木を枯らしたのは学校で倒れたモテモテ美人の茂木先輩だ」



「はぁあ!!!!」



 それが構成の導き出した答えだった。



********************


 

 すでに日は落ち、オレンジジュースは空だったが集目の話は続いていた。



「三坂先輩、三坂先輩は倒れた茂木先輩に彼氏を取られ恨みを持ってましたね」


「…………」


「そしてバカな呪いに手を出したんですよね」


「…………」



 三坂先輩は何も語らない。



********************



 夕日の教室で構成は集目に対し静かに話す。



「呪いってのはね相手に呪いをかけているって教えるのがミソなんだ、呪われてるって知ると人は気分が悪くなる、それは呪いとか信じる人には特に効果が出るんだ、知ってる? 二人の病気の患者に本物の薬と偽物の薬を与える、当然本物の薬を与えられた方は薬の効果がでる、でも偽物の薬を与えられた方にも病状の改善が見られるんだ」


「プラシーボ効果ってやつね、構成」


「そ、呪いも同じ、それを知ってそういうのに弱かった茂木先輩は倒れて入院した」


「でも御神木が枯れてるわ、木にプラシーボ効果があるとは思えない、やっぱり釘が刺さったせいで?」


「いや、釘が刺さった位で木は枯れないよ、三坂神社の先輩に教えてあげると良い、木がかれたのは倒れて入院した先輩がお祓いの為に塩を撒いたせいだって」


「塩?」


「木ってやつはね、ちょっと塩をかぶるだけで枯れちゃうんだよ、ほらよく塩害とか聞くでしょ」


「じゃ、キラキラの正体は」


「そ、ただの塩だよ」



 お祓いを受けた御神木が枯れるなんて馬鹿げた話だ。



********************



 三坂先輩が少しローテーブルから集目の方に身を乗り出す。



「塩?」


「やっと話してくれましたね、先輩」


「………」


「ええ、そうです構成が言うには体調を崩した茂木先輩は呪いと戦う決意をしたんです、そして塩をもってその場を清めた、たぶん人目ひとめの無い夜のうちにやったんだろうって話です」



 集目はこの呪いの儀式から始まった事の顛末てんまつを御神木が枯れたのを自分のせいだと思い学校に来なくなった三坂神社の先輩に話した。



********************



 また夕刻の教室にもどる、構成はそんなことに何の意味があるかを感じ取れないと教室の天井を仰ぎ見て呟く。



「意味が解らないよ集目……」


「何が?」


「この場合、神社は不法侵入と器物損壊の被害者でモテモテ美人の茂木先輩はその加害者、呪いをかけた先輩は自分の家の木に釘打っただけだから何の罪も無いのに……」


「構成はホント駄目ね」



 そしてこの会話のあと集目は一人、三坂神社へとおもむく事にした、構成には乙女心も親の愛情も解らないのだろうと核心したからだ。



********************



 自室で集目の話を聞き終わると三坂先輩はゆっくりゆっくり緊張が溶けるように深く座り込む。



「それじゃ私のせいで御神木が枯れたわけじゃ……」


「ええ、だから構成は被害届けを出して木を枯らした犯人を掴まえれば良いのにって言ってたわ」


「でもそれは……」


「そうよね、構成はそういう所が解らないのよ」


 丑の刻参りをしていたのは神主である自分の娘で御神木が枯れたのは釘や呪いのせいでなくとも娘が関与していた事なのだ、例えどんな理由があろうと神社の娘として、いや人としてやって良い事にはならない。



「お父さん……」



「きっと三坂先輩のお父さんは三坂先輩を守ろうとしたのね……」



 これがあのうわさ話の真相。



********************



 うわさ好きの二人の女子が教室の机を前後に挟んでうわさ話してる。



「三坂神社辞めないんだって」


「なんか御神木は危ないから切り株の状態にしてからしめ縄巻いて再開するって」


「そうなん? 良かった~、私ラジオ体操行ってたんよ、あの神社」


「私弟いるから去年の夏休みもついて行ってたよ」


「そっか~、私も久々に行こうかな~~」



 二人は中学のセーラー服を「ケタケタ」と揺らし笑った、この物語はそんな日常でエピローグを向かえる。



********************



 同じ学校、同じ階にある二年生の別教室で同じくセーラー服の女子が学ランの男子に朝から抱きつき話す。



「三坂神社辞めないんだって構成♪♪」


「そう、良かった……」


「何? どうしたの?」


「結局被害届け出さなかったんだねあの神社……何で?」


「構成、あんたはそういうとこが駄目なのよ」


「えーーーー? 何でーーーー??」



 結局のところ事件はあるが日常は続くのだ、先輩達の問題は先輩達で解決する問題だ。


 彼女、噂集目は少しだけで嬉しいうわさ話を嬉々として話、彼、噺構成はうわさ話なんて下らないという様子でそれを聞き流した。



 この話で追記する事があるとすれば御神木の切り株から新たな芽が出てたという小さなニュースが地方紙の三面を飾った事くらいだ。

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うわさ探偵、噺構成の推理劇。 山岡咲美 @sakumi

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