エリア2/ 迷いのシエル大森林

 悪しき村を救った俺は、シエル大森林へ差し掛かった。

 ここはエルフの国が在るという森だ! 助けが必要に違いない!

 勇者は能動的に行動する! それが基本だ!


「お願いです! 勇者さま! どうかお助け下さい!」


 森の奥に進もうとした矢先、美しい女エルフが出てきたぞ。


 もちろん金髪碧眼へきがん! 合格だッ!

 頭にティアラも着けている。きっと姫に違いない!

 俺は平和的かつ紳士的に、彼女と接すると誓おう!



「やあ、なにがあったのかな?」


「じつは森に魔物が! 国や動物たちが……!」


 見れば森の中には魔物があふれ、動物さんたちが逃げ惑っている!

 おのれ魔物め! 許せん!


「よし、下がっていなさい。君に平和な世界をプレゼントしよう!」


「え? よくわかりませんけど、お願いします!」


 彼女が俺の後ろに隠れたのを確認し、聖剣バルドリオンを抜き放つ!

 さあ平和の時間だ! はじめよう!



平和的森林破壊ピースフルランバージャック――ッ!」


 俺はバルドリオンに力を込め、光の刃で魔物どもを薙ぎ払った!

 刀身から長く伸びた光が、高出力レーザーの如く森を焼き払う!


 これこそが勇者の奥義・平和的森林破壊ピースフルランバージャックだ!


 ああ、ご心配なく。動物さんは無事だ!

 勇者の力は弱きものを傷つけない!


 当然、魔物どもは全滅だ!

 平和の使者たる勇者は、悪に容赦してはならんのだ!



「森が……!? 国が……! あなた、なんということを!」


 焼け野原となった森を見て、エルフ姫が俺をにらみつけてきた!

 他人に労働をやらせた後に、この態度! なんというてのひらがえしだ!


 だが俺は、彼女に〝平和的に接する〟と誓ってしまった。

 勇者は決して嘘をつかない!


森林復活魔法リバースフォレスト。使えるな?」


「なっ……!? なぜその魔法を! それは我々だけの秘密……」


 俺の言葉にエルフ姫は、明らかな動揺をみせている!


「そのような魔法がありながら『もうすぐ森林資源が無くなる!』とデマを流し、不当に材木の値段を吊り上げているな?」


「ああっ……! そんなことは……」


「それどころか! この国は世界中から、森林保護費の名目で利権を」


「――そっ、それは皆様の善意でぇ……。あはは……」


 エルフ姫の視線が泳ぎ、冷や汗が流れている。

 よし、もう一押しだ!


「嘘を言うな! 動物さんたちも見ているぞ!」


「ううっ、ごめんなさいーっ! 使います! 使いますから……! どうか、これ以上は責めないでぇ……!」


 彼女は泣きながら手を合わせ、懺悔ざんげの言葉を述べはじめた。

 しかと言うべきことは言う! 平和には厳しさも必要だ!



森林復活魔法リバースフォレスト――!」


 エルフ姫の魔法が発動し、目の前の焼け野原が一瞬で大森林へと復活した!


 しかし魔法の負担が大きすぎたのか、彼女はひざからくずおれる。

 もちろん紳士な俺は、しっかりと彼女を抱きとめたぞ!


「あっ……、すみません。魔力を使いすぎてしまいました……」


「安心しなさい。俺の魔力をわけてあげよう」


 俺はジェントルな声で言い、特別な魔法の準備に取りかかる。


「えっ!? ちょっ……。それは……待っ――!」


愛と平和の遭遇ラブアンドピースコネクト――!」



 ◇ ◇ ◇



 翌朝――。小鳥のさえずりで目覚めた俺は、ゆっくりと森林に起き上がる。


 あの魔法は、俺にも負担がでかい!

 気づけば次の日になってしまったようだ!


「あの……。やはり行ってしまわれるのですか? わたくし……」


「ああ。すまない。人々が勇者を――いや、平和な世界を待っているのだ」


 恋する乙女のような顔で言う彼女に、俺は親指を立てて歯を見せる。

 森に巣食う魔物と悪しき利権国家は滅び、この地に平和が訪れたのだ!



「さらばだ! 森の平和を頼んだぜ?」


「はい、勇者さま……。どうかお気をつけて……!」


 彼女と動物さんたちに見送られながら、俺はスッキリとした気分でシエル大森林をあとにした!


 まだまだ勇者の使命は続く! さあ! 次の平和を、世界へ届けにゆこう――!




 エリア2:シエル大森林 【平和完了!】

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