エリア3/ 笑顔の町キエサルタウン

 さらに俺は旅を続け、キエサルタウンという町へ着いた。

 ここは別名・笑顔の町。怪しい臭いがしやがるぜ! 勇者の勘が告げている!


 俺は覚悟を決めて町へ踏み入る!

 勇者は厄介事にも積極的に飛び込むものだ!



 まず俺は、入口に居た若い美女に話しかけた。

 みんなだってそうするだろう?


「こんにちは! ここは笑顔の町・キエサルタウンですわ」


 ぐぬぬ……! 中身の無いテンプレ対応! 減点だッ!

 だが俺は諦めない。勇者は挑戦し続けるものだ!


「やあ、お嬢さん。俺は勇者、平和の使者だ。何かお困りではないかな?」


「いえ、特に何も? この町は、魔物も出なくて平和ですし……」


 おかしい! 世界には魔物があふれているというのに、ここだけ平和なはずがない!

 これは深く調べる必要がありそうだぞ!



「ママー。このおっちゃん、だれー?」


「あっ、来ちゃダメでしょ? 変な人に近づいちゃいけないって、いつも言ってるじゃない!」


 名探偵のようにポーズを決めていると、ガキが美女の元へ走ってきた!

 クッ……! すでに子持ちだったのか! さらに減点だッ!



「おい、どうした? 不審者か? おまえたち、下がっていなさい」


「あら、あなた。――違うのよ。ただ頭が可哀そうな人なだけ」


「おっちゃん、ヘンな顔だなー。あはは。あははは」


 読めたぞ――。

 なるほど、そういうことか。


 この町は魔王による侵略が完了し、住人は洗脳されていたのだ!

 洗脳教育を施され〝平和だと思い込まされている〟だけに違いない!


 それに何より、さきほどから俺の相棒・聖剣バルドリオンが、怒りでカタカタと震えている!


「さすが相棒、おまえも気づいたんだな?――ああ……。わかった。仕方あるまい……」


「なんか言ってるー? あはは。頭おかしいんだろー?」


「ほら、ダメよ。本当のことは言っちゃダメって、教えたでしょ!」


 なんということだ。もはや彼らは完全に魔王の手先と成り下がってしまった!

 すでに手遅れのようだ。


 俺はイキり立つバルドリオンを抜き、目の前の傀儡かいらいを斬り払う!

 正義の光の刃にかれ、三人は即座に神の元へとかえってゆく!



「なっ!? なんだアイツ、魔王の手先か!」


「きゃー! 助けて! みんな殺されちゃうわー!」


 なんと哀れな!

 よもや勇者が魔王の手先に、魔王の手先扱いされるとは!


 それに笑顔の町と言いながら、周囲にあるのは憎しみの表情ばかり!

 この嘘で塗り固められた町を、平和によって解放する!



「出ていけ! このクズ野郎!」


「くらえ! 死んじゃえ!」


 住人どもはぞうごんと共に、石や刃物で攻撃してくる!


 自らの手を汚さず、人々までも利用するとは……。

 おのれ魔物め! 許せん!


「おまえ転生者だろ! どうせ元の世界では〝底辺〟なんだろうな!」


 鋼の勇者メンタルで耐えていた俺だったが、ついに決定的な言葉を口走った奴が居たようだ!


 そもそも〝転生者〟という言葉すら、この世界の住人は知らないはず!

 それを知っているということは、百パーセント魔王の手先!



 俺は激怒で光の刃モードに入っている、聖剣バルドリオンを上天へ構える!

 さあ平和の時間だ! はじめよう!


平和的制裁開戦ピースフルカウンター――ッ!」


 俺は耐え続けていた怒りの力を全解放し、勇者の奥義を繰り出した!

 剣からほとばしった光が天を貫き、絨毯爆撃じゅうたんばくげきのように降り注ぐ!


 やられたらやり返す! 大義は俺にあり!

 それが、平和的制裁開戦ピースフルカウンターだ!


 ◇ ◇ ◇


 俺は瓦礫がれきと化した悪夢の町に、独りポツリとたたずむ。

 みんなも知っている通り、古来より平和には尊い犠牲が付き物なのだ!


 ふと目をやると瓦礫の中に、キラリと光る何かが見える。

 それは、虹色に輝く聖なる鎧〝レストメイル〟だった!


「おまえが、俺を呼んだのか?」


 俺はレストメイルを装備する。この鎧は装備した者の傷を癒す。

 もちろん勇者の鎧なので、俺のサイズにピッタリだ!



 後味は悪くなってしまったが。

 魔王の洗脳を受けた町は消え去り、重要なアイテムも手に入った!


 結果的に平和に一歩近づいたのだ!

 そうだ! 前向きポジティブにいこう!


 俺はほほを伝う涙をぬぐい、このエリアをあとにした。


 立ち止まっている時間はないぞ! さあ、次の平和を届けるのだ――!




 エリア3:キエサルタウン 【平和完了!】

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