殺人事件じゃないかも

みなもとあるた

殺人事件じゃないかも

「どうして…どうして私の娘を殺したんですか!」


「いやだなあ、私は別にあなたの娘さんを殺してなんかいませんよ。ただ薬で仮死状態にしているだけです」


「だったら!早く娘を元に戻してください…!仮死状態ならば、何とか元に戻せるのでしょう!?」


「それがそうもいかないのですよ」


「どういうことですか!」


「あなたの娘さんには、ちょっとした実験に参加してもらっているんです。このカプセルに入っている限り、娘さんは本当の意味で死ぬことはありません。適切な方法を使えば、ちゃんと元の状態に戻せるでしょうね」


「でも、さっきは戻せないって…」


「そうですね。確かに、”今の技術”では戻すことができません。この先技術が発達すれば、娘さんを仮死状態から復活させる方法も開発されるかもしれませんよ」


「開発されるかも…?どうしてそんな無責任なことが言えるんですか!」


「だって、私には未来のことなんてわかりませんから。まあ、将来そんな技術が開発される確率は50%というところでしょうか。それに、いつ開発されるかも全然わかりませんがね」


「じゃあ、私の娘は…私の娘は今どこにいるんですか」


「はい?」


「もし将来そんな技術が生まれるんだとしたら、私の娘はまだ死んでいない。いつか生き返ることが決まっているなら、今はまだ眠っているだけで、目が覚めるのを待っているようなものでしょう。ただ、もし娘を仮死状態から復活させる技術がこの先開発されないんだとしたら、娘は今ここで死んでいるも同然です。この先ずっと目覚めることはないんですから、娘にとって今の状態は死んでいるのと同じことです」


「まあ、確かにそうですね」


「この世に魂なんてものが存在するんだとしたら、私の娘の魂は今どこにいるんですか?娘を仮死状態から復活させる技術が未来で開発されるなら、娘はまだ死んでいないんだから娘の魂はまだここにいる。でも、もしそうでないのなら、娘の魂はもうここにはいない。どこか、どこか天国のようなところにいるはずなんです。未来のことなんて誰にもわからないはずなのに、娘の魂だけはそれを知っているのですか?」


「じゃあ、私も同じですね」


「は?」


「あなたの娘さんがこの先目覚めるとしたら、私は殺人犯ではありません。せいぜいが傷害罪でしょう。でも、もしあなたの娘さんがこの先目覚めないとしたら、私は殺人犯ということになります。すべては、この先の科学の発展にかかっています」


「でも、警察には未来のことなんてわからないでしょう?」


「ええ。でも、今の私なら未来を見ることができるかもしれません。人類の誰にも成し遂げられなかった、未来をその目で見るという行為が。私の目的は、最初からこれだったんです。人類で初めて、未来を見た人間になること」


「なんですか、それ…毒薬…?」


「もし私が娘さんを殺したことになっているなら、私は間違いなく地獄の最下層に落ちることでしょう。それはつまり、人間を仮死状態から復活させる技術がこの先の未来で生まれないということです。もしそうでないのなら、つまり、将来科学技術が発達するとしたら、私は地獄に落ちるとしても最下層までは行かないんじゃないでしょうか。ではさっそく未来を確かめに行くとしましょう。それでは、さようなら」

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殺人事件じゃないかも みなもとあるた @minamoto_aruta

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